目標3「すべての人に健康と福祉を」
国連に加盟する193ヵ国は、2015年に「SDGs(持続可能な開発目標)」に合意し、2030年までに達成すべき目標として17のゴールを掲げました。「すべての人に健康と福祉を」は、SDGsの3番目のゴールです。
「健康」は体も心も満たされた状態
SDGsは、17の目標と169のターゲットから構成される世界規模の取り組みです。「持続可能」とは、「環境に悪影響を与えることなく、永続的に活動し続けられること」を意味します。「誰一人残さない」を理念とした上で、国際社会が共同で解決すべき課題と目標を掲げています。
17の目標の1~6は「人が生きていく上で最低限解決すべき課題」で、SDGsの前身である「MDGs(ミレニアム開発目標)」を引き継いでいるのが特徴です。MDGsは「発展途上国」が直面する課題が中心で、2015年を達成期限としていました。
SDGsの目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」がテーマです。「健康」とは、病気の有無や体の弱さといった「肉体」に限定したものではありません。WHO憲章によれば、肉体的・精神的・社会的において、全てが満たされた状態にあることを指します。
参考:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
十分な医療が受けられない人々
持続可能な目標に「健康」や「福祉」が盛り込まれた背景には、世界の「医療格差」が深刻化していることが挙げられます。
日本は医療保険制度が完備されており、保険証さえ持っていれば誰でも・いつでも必要な医療が受けられますが、世界には基礎的な医療保険サービスさえ受けられない人々が何十億人もいるのが現実です。特にアフリカや南アジアには貧困層が多く、「治療が受けられない」「近くに病院がない」「環境が不衛生」などの問題が存在します。
医療格差をなくし、「病気になる→働けなくなる→収入が減る→健康を害する」という貧困と不健康の悪循環を断ち切る必要があるのです。
発展途上国の健康問題
日本でも職業階級ごとの医療格差は存在しますが、発展途上国における健康問題はさらに深刻です。「大人になれない子ども」が多い現状に目を向け、自分たちができることを考えてみましょう。
年間520万人が5歳未満で命を落とす
日本ユニセフ協会によると、5歳未満で死亡する子どもの数は世界中で年間520万人といわれています。1日あたり約1万4000人、つまり6秒に1人が命を落とす計算です。
5歳未満の死亡率が高い地域は、ヒト・モノ・カネが十分でない発展途上国に多い傾向があります。特に、サハラ以南のアフリカや南アジアでは出生1000人当たりの死亡率が100人を超えており、ヘルスケアの拡大が喫緊の課題です。
死亡の主な原因は「肺炎」「下痢性疾患」「マラリア」で、死因の1/3には「栄養不良」が関係していることが分かっています。これらの課題を解決するために、目標3では以下のようなターゲット3.2を設定しました。
・新生児死亡率を少なくとも出生1000件中12件以下まで減らす
・5歳未満死亡率を少なくとも出生1000件中25件以下まで減らす
・2030年までに、新生児・5歳未満時の予防可能な死亡を根絶する
参考:保健 | ユニセフの主な活動分野 | 日本ユニセフ協会
ワクチンがあれば救える命がある
多くの先進国には予防接種制度があり、学校や病院で年齢に応じた「予防注射」が受けられます。ワクチンには健康と命を守る役割がありますが、世界には予防接種が受けられない子どもたちが2000万人以上いるのをご存じでしょうか。
予防接種が受けられない主な理由としては、「お金がない」「紛争や被災で保険サービスが機能していない」「村に医療施設がない」などが挙げられます。感染症に対する免疫がない子どもは、病気に感染すると高確率で死に至ります。
ユニセフの予防接種事業によって、年間200~300万人の命が救われていますが、予防接種の供給網はまだ十分とはいえません。
清潔な水を使える環境が必要
発展途上国では、マラリアや腸チフスなどの「感染症」によって命を落とす人が大勢います。感染症を予防するには、ワクチンだけでなく「清潔な水がある環境」が不可欠ですが、発展途上国ではこの問題も解決できていません。
一部の地域は「水道の普及率」が著しく低く、池や川、整備されていない井戸から飲み水を確保します。これらの水は病原菌や動物の糞尿が混じった「泥水」で、飲めば命の危険につながります。子どもの死亡原因の第2位が「下痢性疾患」であるのも、汚れた水が主な原因でしょう。
安全な水が確保できない人は、世界中に7億人以上いるといわれています。安全な飲み水が確保でき、かつ手洗いの衛生習慣が根付けば多くの命が助かるでしょう。
日本が行う目標3への取り組み
SDGsは発展途上国だけでなく、先進国でも取り組まなければならないユニバーサルな目標です。「すべての人に健康と福祉を」に関連して、日本ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
母子手帳で親子の健康状態を記録
日本では女性が妊娠すると、自治体から「母子手帳(母子健康手帳)」が交付されます。母子手帳は、妊婦の健康状態や産後の経過、乳幼児の発育を記録するための小冊子です。育児のアドバイスや注意点も記載されているため、「育児書」としても役立ちます。
1990年頃から海外でも注目され始め、近年は母子手帳の制度を取り入れる国が増えてきました。実際、母子手帳の導入で乳幼児の死亡率が低下した事例もあり、SDGsの一環として「途上国での母子手帳の普及」を支援する法人や団体が増加しています。
安心安全な家づくりなど
SDGsの目標3について取り組みを行っているのは、日本政府や非営利団体だけではありません。国内では、SDGsと既存事業を融合させた新たな取り組みや事業を行う企業が増加しています。
例えば、住宅メーカーでは有害物質を含まない木材を使用したり、高齢者が安心して暮らせる高性能住宅を普及させたりすることで、健康や福祉に貢献しています。食品を扱う会社の中には、「農薬や化学肥料を使用しない原料を使用する」「栄養問題を解決する機能性食品を開発する」といった方法で健康増進を目指すところもあるようです。
日本にも課題が存在
MDGsが発展途上国の発展を目的としているのに対し、SDGsは全ての国が解決すべき課題を明示しているのが特徴です。先進国である日本が直面する課題について理解を深めましょう。
少子高齢化で医療費が増加
日本が抱える大きな課題の一つに、「少子高齢化による医療費の増加」があります。日本の医療制度は、全国民が何らかの公的医療保険に加入して「保険料」を収め、互いの医療費を支え合う仕組みです。
高齢者の医療費は、「高齢者が収める保険料」「税金」「現役世代の支援(保険料)」でまかなわれています。超高齢化社会と医療技術の高度化が進み、医療費が増大すれば、現役世代の保険料が引き上がり負担が大きくなります。抜本的な改革を行わない限り、日本の公的医療制度は崩壊する恐れがあるでしょう。
新規のHIV感染者、エイズ患者
根治が難しい感染症の一つに「エイズ(後天性免疫不全症候群)」があります。「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」の感染によって発症する病気で、弱い病原体でも重症化し、死に至る確率が高いとされています。エイズは発症すると根治が極めて難しいため、HIVに感染しないことが重要です。
国立感染症研究所によると、2020年度における新規のHIV感染者は750人(男性712人・ 女性38人)、エイズ患者は345人(男性328人・女性17人)でした。HIVは静注薬物使用や血液、母乳などからも感染しますが、最も多い感染経路は「性的接触」です。HIVやエイズへの正しい知識を普及させると同時に、検査・診療体制を充実させる必要があります。
私たちができる目標3への取り組み
SDGsの目標は、国や企業の力だけでは達成できません。2030年までに個人がどれだけSDGsに貢献するかによって、地球の未来が大きく変わるといってもよいでしょう。個人でもできる目標3への取り組み事例を紹介します。
感染症を人にうつさない対策
一人一人ができる対策として、「感染症の対策を徹底し、他人に病気をうつさないこと」が挙げられます。
2019年12月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一例目が報告されると、数カ月のうちに爆発的に感染者が増え、世界はパンデミックに陥りました。コロナ禍で、感染症を他人にうつさないことの重要性を理解した人は多いはずです。
ノロウイルス・インフルエンザウイルス・RSウイルスなど、私たちの身の回りには感染症を引き起こす病原体が多く存在します。これらは「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」のいずれかで感染するため、以下のような予防対策を徹底することが重要でしょう。
・正しい手洗い方法を学ぶ
・小まめな手の消毒
・マスクの着用
・咳エチケットを徹底
・予防接種をする
寄付で発展途上国の医療を支える
発展途上国における健康問題は、日本よりも深刻です。貧困による飢餓問題や紛争・災害による難民問題も絡んでおり、SDGsを達成するためにはそれらを解決していかなければなりません。
現地に赴いてボランティア活動をする個人もいますが、日本を離れて支援をするのはハードルが高いかもしれません。個人は「募金」や「寄付」を通して、自分ができる範囲で協力するのが理想でしょう。
ユニセフに募金をした場合、どのくらい力になれるのか例を挙げてみます。
・3000円の支援:治療用ミルク164杯分
・5000円の支援:予防接種用ワクチン43回分
・5万円の支援:保健員16人に1日研修が可能
参考:ユニセフ募金・寄付 | 世界の子どもたちの命を守るユニセフ募金にご協力を | 日本ユニセフ協会
世界の現状を理解することから始めよう
SDGsの目標3は、私たちの生活と密接な関係がある「健康」に関する内容です。政府や企業の取り組みに比べると、個人ができることは限られていますが、無力ではありません。
日々の手洗いやうがいもSDGsの目標達成につながっています。まずは、「日本や世界の現状を理解する」「周囲と情報のシェアをする」といった身近なところからスタートしてみましょう。
参考文献:
10歳からの図解でわかるSDGs「17の目標」と「自分にできること」がわかる本 平本 督太郎、メイツ出版
構成・文/HugKum編集部