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目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
2001年に策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後継として、2015年に「SDGs(持続可能な開発目標)」が国連総会で採択されました。国際社会が2030年までに解決すべき課題を17の目標で示したもので、目標5は「ジェンダーの平等」を掲げています。
全ての人間は、本当に自由で平等?
SDGsでは、国際社会が協力して解決しなければならない問題を「社会面」「経済面」「環境面」の三つの側面から捉え、17の目標と169のターゲットを設定しました。目標の1~6はMDGsから引き継いだ課題で、発展途上国に向けた目標のため、貧困や教育、平等といった「人が最低限生きていく上で欠かせないもの」がテーマの中心となっています。
目標5は「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」です。世界人権宣言では「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と謳っていますが、世界にはさまざまな差別や偏見があります。
目標5は主に「女性・女児の不平等」に焦点を絞り、ジェンダー差別をなくすための9のターゲットを設定しています。
参考:
SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
世界人権宣言(仮訳文)
暴力で苦しむ女性は3人に1人
SDGsにジェンダーの平等が掲げられた理由は、世界各国で女性・女児が差別や暴力を受けている実態があるためです。とりわけ、近親者による暴力や性的暴力は人権の侵害であり、女性の心と体を深く傷つけます。状況によってはHIVに感染するリスクが高まるため、一刻も早い対策が必要です。
WHOは、女性の約3人に1人が近親者や非パートナーから身体的・性的暴力を受けていると推定しています。ユニセフによると15~19歳の女子の1500万人以上が強姦に遭っており、紛争・避難下ではその被害が深刻化しているのが実情です。
目標5のターゲットには、「全ての女性・女子に対するあらゆる暴力を排除すること」が盛り込まれています。
参考:
World Health Statistics
ジェンダーに基づく暴力 女性3人に1人が身体的暴力の被害|ユニセフ
自分の夢を持てない女の子たち
世界には「女の子だから」という理由で、教育の機会を奪われる子どもが大勢います。「児童婚」の風習が残る地域では、自分より何歳も年上の男性との結婚を余儀なくされ、10代で夢を失う女の子もいるのです。
教育が当たり前ではない国も
社会的・文化的な習慣などにより、女性の教育が当たり前でない国・地域が存在します。「ユニセフT・NET通信」によると、サハラ以南のアフリカは男女間格差が顕著で、女性の中等教育純就学率はわずか24%です。教育が受けられない場合、どのような将来が待ち受けているのでしょうか?
・収入の低い仕事に就かざるを得ず、自分の未来が選べない
・知識・情報不足で社会から孤立する
・妊娠・出産・育児の正しい知識がなく、子どもの死亡率が増加する
・女性が格下に見られ、暴力や搾取の対象になる
世界子供白書2007によれば、学校教育を受けていない母親を持つ子どもの就学率は51%なのに対し、学校教育を受けた母親を持つ子どもは73%です。母親の教育レベルが子どもに影響を及ぼすことも分かっています。
参考:
ユニセフT・NET通信|公益財団法人 日本ユニセフ協会 学校事業部
世界子供白書2007
18歳未満の女の子の児童婚が多数
目標5のターゲット5.3は「未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する」です。
世界には18歳未満で結婚をする「児童婚」の慣習が残る地域があり、子どもの権利の侵害が問題視されています。ユニセフによると18歳未満で結婚する女性は世界で7億人以上、うち3人に1人以上は15歳未満です。
児童婚の大きな問題点は、妊産婦死亡のリスクが高いことです。それでも児童婚がなくならない要因には、「慣習」「貧困からの脱却」「婚姻に関する十分な法律がないこと」などが挙げられます。
また、児童婚をする女性には教育を受ける機会がなく、子どもの世話と家事で1日が過ぎていきます。家庭内での地位が低いため、配偶者やその家族から暴力を受けるケースも少なくありません。
参考:ガール・サミット開催:女性性器切除と児童婚の撲滅に向けて。新たな統計発表|女の子の権利|日本ユニセフ協会
日本の「ジェンダーギャップ指数」は低い
日本は先進国の中でもジェンダーギャップ指数が低い国とされています。世界の国々がジェンダー平等に向けてさまざまな対策を講じている中、日本は世界に遅れをとっているのが現状です。
ジェンダーギャップ指数とは
「ジェンダーギャップ指数」とは、男女の違いにより生じる格差を数値化したものです。経済・政治・教育・健康の4分野から算出されており、各国のジェンダーギャップ指数を比較することで、国ごとの男女格差の程度が分かります。
世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本の順位は156ヵ国中120位となっています。近隣の中国(107位)や韓国(102位)の順位と比較しても日本の低さが分かるでしょう。女性の政治参画割合が極めて低く、国会議員の女性割合は9.9%、大臣の割合は10%です。また、労働者のうちパートタイムで働く人が男性は22.2%であるのに対し、女性はその2倍の50.8%という結果になっています。
参考:Global Gender Gap Report 2021
家事、子育てで働きにくい女性
女性のパートタイム労働者が多い原因の一つは、家事や子育てといった「家庭内の世話」をほぼ女性が担っているためです。近年は専業主婦が減り、共働き世帯が増加傾向にありますが、男性が家事や子育てに積極的に参加している家庭は多くないのが現状です。
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の改正により、子育てと仕事が両立できる環境が整い始めたものの、男性の育休取得率は上がらず、女性がキャリアアップを諦めて育児に専念するという構図は変わりません。「子どもが3歳になるまでは母親がいるのが当然」「小さい子を保育園に預けるなんて…」という世間の声も、女性の職場での活躍を阻んでいます。
日本で取り組んでいることは?
ジェンダーギャップを埋め、男女平等の社会を実現するため、日本政府や企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。代表的な二つの事例を紹介します。
募集、採用条件は男女平等に
目標5のターゲット5.cは「ジェンダー平等の促進、並びに全ての女性及び女子のあらゆるレベルでの能力強化のための適正な政策及び拘束力のある法規を導入・強化する」です。
日本では「男女雇用機会均等法」によって、雇用上の男女差別を禁止しています。業務上の必要性がある場合を除き、採用・募集で「性別を理由とする差別」はできません。
求人募集を掲載する際、「営業マン募集」「一般事務(女子のみ)」など、どちらかの性別を排除するのはNGです。「主婦歓迎」「主婦も可」など、男女のいずれかを表す名称を使うことも禁じられています。
参考:企業において募集・採用に携わるすべての方へ 男女均等な採用選考ルール
女子のための「理工チャレンジ」
日本では、「大学の理工系」に進学する女子学生の比率が男子学生よりも少ないのが現状です。理工系への進学は高賃金に結びつくことから、男女の「賃金格差」が生まれる要因の一つとなっています。
理工系に挑戦する女子学生を後押しするため、男女共同参画局では「理工チャレンジ(リコチャレ)」をスタートしました。多くの企業が応援団体として参加しており、関連イベントの開催や情報発信、ネットワークなどを通じて、女子学生の進路選択をサポートしています。
例えばライオン株式会社では、実験教室や工場見学、女性社員との座談会などのイベントを開催し、女子学生に「将来の自分の姿」をイメージしてもらう取り組みを行っています。
参考:理工チャレンジ(リコチャレ) | 内閣府男女共同参画局
ジェンダーバイアスをなくす身近な取り組み
「男は泣くもんじゃない」「女の子なんだから手伝いをしなさい」という周囲の何気ない一言に違和感を覚えたことはありませんか?「女性(男性)は〇〇が当たり前」という固定観念や偏見は「ジェンダーバイアス」と呼ばれます。
家事や育児の分担を話し合う
子育て・介護・家事をしても給与は支払われませんが、会社での仕事と同じくらい大切な仕事です。私たちは公共サービス・制度・家庭内の役割分担などを通じて、その事実をしっかりと認識しなければなりません。
女性は家庭を持つと「家事全般に責任を持たなければならない」と感じてしまうのに対し、男性は「自分には家計を支える責任がある」と思う傾向にあるようです。男女が協力して家庭生活を営むためには、男女それぞれが抱える悩みを理解することからスタートする必要があります。
お互いに抱える悩みや立場を理解した上で、家事や育児の分担を話し合いましょう。掃除は場所ごとに頻度や担当を決め、ルーティン化するのが理想です。シャンプーの詰め替えやトイレットペーパーの補充といった細々とした作業もリストアップして分担することで、女性の家事負担が軽減されます。
ピンク色を女の子だけの色にしない
世界では「ピンクは女の子の色」と考える人が多く、女の子のいる家庭では持ち物や洋服にピンクが選ばれる傾向があります。「ピンク=女の子」は「家事=女性の役割」と同じジェンダーバイアスの一つです。
世間でピンクが女の子の色と認識されると、「男の子はピンクを持つべきではない」という偏見が生まれます。その結果、ピンクが好きな男の子は周囲に「男の子らしくない」と思われるのが嫌で、自分の好みを隠すようになるのです。
色に限らず、ジェンダーバイアスは人の個性を潰したり、一部の当てはまらない人を排除したりすることにつながります。「全ての人が生きやすい社会」を目指すには、大人が子どもに対して偏見や思い込みを刷り込ませないことが重要です。大人の男性がピンク色を積極的に身に着ければ、子どもは「男でもピンクを選んでいいんだ」と思うようになるでしょう。
誰もが人間らしく生きられる世界を目指す
SDGsの目標5はジェンダー格差をなくし、全ての人が人間らしく生きられる世界を目指すものです。性別が理由で教育の機会が奪われたり、暴力を受けたりする女の子が世界に大勢いる事実を知る必要があります。
日本はジェンダー格差が大きく、「女性(男性)だからこうあるべき」といった偏見や差別が社会に深く根付いています。まずは家庭や職場など、自分の身近なところにあるジェンダーバイアスに目を向けてみましょう。
構成・文/HugKum編集部