「しつけ」という漠然とした言葉におびやかされている親はたくさんいます。「しつけ」とは一体どんなものなのでしょうか。厳しいしつけが子どもを幸せにさせるのでしょうか。今回は保育者歴46年、「子どもと大人の気持ちいい関係づくり」をされている柴田愛子さんならではのお話をご紹介します。
子どもの「しつけ(躾)」について│保育者歴46年の柴田愛子さんに聞きました
しつけ(躾)とは、「親として願っている子どもの姿」
「しつけという言葉から何を思い浮かべますか?」と、お母さん方に質問してみました。いちばん多かった答えが、「挨拶」でした。次は、「生活習慣」。3番目によく聞かれたのは、「人間関係のルール」です。「しつけ」とひとことで言っても、思い浮かべるイメージはいろいろです。それは「親として願っている子どもの姿」と言い換えることができるのではないでしょうか。
ところが、親は願いが多い。「一生懸命言い続けると、できるようになる」ことは、ほんのわずかです。言い続けてもできないことなら、とりあえず、今はできない(幼い子には、体が未発達でできない場合もよくあります)と、あきらめるほうが肝要です。
親の言うことを聞いて育った子どもは幸せになれる?
親の願いを必死に受け止めて育つと、立派な人になるのでしょうか。あるとき、お母さんの集まりに伺ったとき、そのお母さん方は、「自分はしつけの厳しい親に育てられた」とおっしゃいました。話を聞くうちに、そのお母さん方が自分自身の気持ちをストレートに出せなくなってしまったように思え、この人たちの子育てはつらいだろうな、と感じました。自分と同じようにいい子であってほしいという思いと、ありのままに自分を出せなかったつらさの中にあるのですから。
しつけとは、親の言うとおりに従えるようにすることでしょうか。自分をなくすことでしょうか。少し立ち止まって考えてみたいものです。
どういうときに、叱るべき?それは…
お母さん達に「しつけ」って何をイメージする?と聞くと様々な声が返ってきます。礼儀作法、挨拶、生活リズム、食事のマナー、公共の場での態度…。
細かく言うと、机の上に乗らない、靴を揃えて脱ぐ、洋服をたたむ、好きキライをしない…。とめどなく出されます。これら全部を幼児期に一度にしつけようと思ったら、年中しかりつづけなければならないでしょう。それで、できるかといえば、決してそうはなりません。
こんな質問もよく受けます。
「どういうときに、叱るべきなんでしょうか?」
私はシンプルに「あなたが、いやだと思う時よ」と答えます。「ただし、どんなにいやだと思っても、どんなに何回いっても、やめてくれないときは、あきらめてね。きっと、それは、今、どんなに言われてもできないことだから」と。
お母さん自身が育ってきた中で身についた礼儀作法をわが子に伝えていくこと
「しつけ」は、頭で考えたあるべき姿を願って口うるさく言うものではありませんし、いい人らしいふるまいを自動的にできるようにすることでもありません。それより大切なことは、自分が育ってきた中で身についた礼儀作法を、わが子に伝えていくことではないでしょうか。
「親の背中を見て育つ」というようなことかもしれませんが、子どもが小さいときは、親のしつけは絶対です。できるかできないかは別問題として、それが正しいと思っています。どうしてもしつけたいことは、数少なく、意識的に、していったらどうでしょうか? あなたが育った家のように、そのうちきっと、わが家なりの礼儀作法ができていくと思います。
生きていくうちに、子育てしていくうちに、様々な情報に揺れ動き、流されそうになりながら、選び取っていくことで作られ、練られていくものなのでしょう。そして、子どもはそんな親の態度に陰で泣いたり、怒ったり、喜んだりしながら、子ども本人が自分流の根っこを作っているのではないでしょうか。
参考書籍「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」
「あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます」について
こうなって欲しい、こうあるべき、に縛られている苦しい子育てをしていませんか? 「どう育ってほしいか」の前に「目の前の子どもがどう育っているか」を見てほしい。子どもはちゃんと自分で育つ力を持っていることを確信できるはず。それは、お母さんが本来の自分を取り戻すことにつながっていくから。
保育者として、30年以上子どもたちと関わってきた柴田愛子さんが語る「子どもの心に寄り添うと、子どもの気持ちが見えてくる」を信条にした子育て論は、きっとお母さんの心を元気にします。
あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます(著/柴田愛子 定価:本体1200円+税/小学館)
教えてくれたのは
保育者。自主幼稚園「りんごの木」代表。子供の気持ち、保護者の気持ちによりそう保育をつづけて半世紀。小学生ママ向けの講演も人気を博している。ロングセラー絵本『けんかのきもち』(ポプラ社)、『こどものみかた』(福音館書店)、『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)など、多数。親向けの最新刊に『保育歴50年!愛子さんの子育てお悩み相談室』(小学館)がある。
文・構成/HugKum編集部