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劇場版最新作『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』が公開!
春の恒例となっている劇場版最新作『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』が3月25日(金)より公開されました。日本限定の特別劇場版として製作された本作は、子どもたちが劇場でクイズやしりとりなどのゲームが楽しめる参加型ムービーとなっています。
ファミリー映画として絶大な人気を誇ってきた「きかんしゃトーマス」シリーズですが、教育的観点から研究をされた東京学芸大こども未来研究所学術フェローである小田直弥先生は「トーマスには子育てのヒントが詰まっている」と絶賛します。
そこで小田先生に最新作の見どころと共に、「きかんしゃトーマス」の魅力を、研究者の視点から語ってもらいました。
他のアニメ作品と比較すると、「きかんしゃトーマス」は独自のポジションにいる
――小田先生は、「きかんしゃトーマス」の国内マスターライセンスを持つソニー・クリエイティブプロダクツとNPO法人 東京学芸大こども未来研究所の共同研究プロジェクトに参加されましたが、具体的にはどんな部門を担当されたのでしょうか?
小田先生:僕が担当したのは、プロジェクト全体の事務的なまとめですが、主にアニメーションの主題の分析を担当しました。そのために観たのが第13シリーズから21シリーズで、映像を止めては巻き戻してを繰り返し、合計3周くらい観た感じです。
――それはすごいですね。主題を分類していくなかでどんな発見がありましたか?
小田先生:「きかんしゃトーマス」のお話が持つテーマを分類する時、大きく2つの整理をしました。1つ目は、今回調査対象としたお話の中には、自分自身を理解したり、他者を理解することに加えて、「遊ぶことと働くことの違い」や「役に立つことと役割を果たすことの違い」といった役割を理解すること、「自分の仕事場の良さ気づくこと」や「それぞれに幸せに暮らせる場所がある」という場の理解をテーマにしたお話がいくつもあったことです。2つ目は、協力することや他者の意見を取り入れること、他者への向き合い方や役割との向き合い方といった、ある状況への私の関わり方を主題にもつお話が多かったことです。
――確かにトーマスたちはいつも仲間と協力し合って、問題を解決していきますね。
小田先生: でも、自分が今、社会のなかで何をすべきか?と考えることって、トーマスに夢中になっているお子さんの年齢を思うとかなり高度な話だと思うんです。他のアニメ作品と比較すると、トーマスは独自のポジションにある作品のような気がして、データを整理する中で、すごく考えさせられるところがありました。
――そこはイギリス発の作品ならではの特徴でしょうか。
小田先生: 詳しくは、絵本やアニメの研究をされている方やイギリスの文化に詳しい方に伺いたいところですが、個人的には、未就学の子どもたちが大好きなアニメーションのうち、「役に立つことと役割を果たすことの違い」や「自分の仕事場の良さ気づくこと」といったテーマでお話が紡がれているということは珍しいと思いますし、ここに「きかんしゃトーマス」の独特の位置があると考えています。
「きかんしゃトーマス」を生み出してくれたW. オードリーはイギリス人で、イギリスと言えば、蒸気機関車発祥の国です。R. トレビシックによって発明された蒸気機関車は、モノの輸送から、たちまち人を運ぶ乗り物としての役割を担うようになり、蒸気機関車がイギリス社会の発展に寄与するだけでなく、世界中で役に立つようになりました。こうした機関車と人の協働による社会の発展像を基としながらも、機関車が感情や意志を持っていると想像したこと、自身が聖職者であったことといったオードリー独自の要素が加わって、ソドー島が生まれ、そこにトーマスたちの楽しい毎日が広がっているのだと個人的には思います。そういうことから言うと、「きかんしゃトーマス」はイギリス発の作品ならではなのかもしれません。
「きかんしゃトーマス」を親子で観ることには大きな意義がある
――「きかんしゃトーマス」を親子で観ることのメリットはどんな点でしょうか?
小田先生: 親子で一緒に観て、その世界観を共有することが、ある意味、1つの価値につながるんじゃないかなと思います。ここでトーマスは、なぜこういうことをしたのか?もう少しこうしたほうが良かったんじゃないかといったことを親子で話し合うことができるので。お子さんが1人でトーマスを観ているだけでは見過ごしてしまうかもしれないところを立ち止まって一緒に考えてみる機会、これは親子で観ることで得られる機会じゃないかなと思います。
親御さんからすると、当たり前のことだと思われるかもしれませんが、子どもからすると、1人ではなく、親御さんが隣にいて一緒に観るなかで1つ問いを出してもらうと、物語の見方が少し変わってきますよね。その小さな変化を教育として捉えたいと思っています。
シリーズ初の体験型映画を教育的観点から見る
――今回はシリーズ初の体験型映画になっていますが、先生はご覧になってどんな感想を持ちましたか?
小田先生:正直に申し上げますと、今回の映画を初めて観た時、「これは映画なのか!?」と度肝を抜かれました。でもそれは決して悪い意味ではなく、私たちが、いえ少なくとも僕が映画というものを固定観念化していたんじゃないかと反省しました。
――特にどういう点に驚かれましたか?
小田先生:僕は映画について、1時間もしくは90分、長編だと2時間ぐらいの間、作り込まれた物語に浸りにいくという受容的な体験を前提に考えていましたが、本作はそうではありませんでした。今回の映画では、中間部でイースターというしっかりした物語を観る時間がありつつ、クイズやしりとりに参加していくという時間もあります。そこの違いが大きかったなと。
――なかでも小田先生が一番印象に残ったのはどんな点でしたか?
小田先生:特に、手拍子もしくは拍手をするということが一番特徴的でした。今までなら、まず親御さんと映画を観に行く約束をして、映画館に行って着席し、始まってからはそのまま椅子に座って、どっぷり映画の世界に浸かるというのが映画体験でした。でも、今回は拍手や手拍子が入ったことで、今までと大きく違う体験になったと思います。
――拍手や手拍子はどんな意味を持つのでしょうか?
小田先生:劇中の拍手は、大きく分けると2つの意味で使われていると思いました。1つ目は自分の意見を表明するために使う拍手です。クイズのシーンで、キャラクターのシルエットがどんどん明らかになっていくというものがあり、「このキャラクターは何でしょう?」という3択の問題が出てきます。ここで子どもたちは、正しい答えを見つけるという目標に向かって取り組み始めます。そうして、シルエットがどんどん明らかになっていく中で、「この色をしているな~」、「この煙突の形は…」と考えた結果、自分なりの答えを見つけ、それを拍手という形で発表します。劇中の拍手は、目標を達成するために思考すること、自分の意見を発表すること、こうした活動を生み出しているように思いました。
さらに面白いのは映画館で、会場内の子どもたち全員の意見が、拍手という形で表れる点です。今までは自分1人で映画の世界と対峙していたのに、今回は拍手を通して自分の意見を表明することになります。これは同時に、他の子どもたちの意見も、拍手を通じて伝わってくるというのが、今までとは違う映画体験なのかなと思いました。
――確かにそこは、大きな違いがありますね。
小田先生:自分のなかで、このキャラクターはこうだと意見を決定する場面もあれば、根拠を持って答えを導く場面もあるかと。また、他のお友達がもしも違うところで拍手をした場合、そこをなぜそう答えたんだろう?と考えることもあるでしょう。学びの面では、すごく大きいですね。
体験型映画には、音楽的な学びの側面もある
――では、意見表明の拍手とは違うもう1つの役割についても聞かせてください。
小田先生:2つ目は、音楽に合わせて拍手をすることです。聴覚情報を頼りに音楽のビートというものを主体的に感じ取れるお子さんであれば、自分で手を叩けると思いますが、画面上にはクラップの画像も入っていましたので、それに合わせて叩いていくと、自分の拍手が音楽と合っているかどうかを自然に感じることができるんじゃないかと。そこに音楽的な学びの側面があります。
今までは物語の世界にどっぷり浸かるという映画体験でしたが、今回は自分の意見を表明し、音楽に合わせて手も叩くし、さらにイースターの話もあるので、1つの映画のなかですごく広がりを感じていただけるのではないかと思います。
――また、トーマスは木製レールやプラレールも人気がありますが、そちらも教育的には何か意義がありますか?
小田先生:1つ言えることは、子どもたちが「きかんしゃトーマス」の絵本やアニメを通して感じた世界観を自分なりに再現したり、全く新しい世界観を作り出すことができるという媒体であることに価値があるのではないかと思っています。
――ということは、キャラクターのおもちゃで遊ぶこと自体に意味があるということですか?
小田先生:キャラクターのおもちゃが子どもたちにとってどういう存在なのか、ということがキーになると思います。バラバラにしたプラレールがおもちゃ箱に入っていたとして、それを自分たちでつなげていくと、自分の思い描いた世界ができていきますよね。自分の思いに沿ってレールを紡いでいったところに、プラレールのトーマスやパーシー、ゴードンたちが走り出す。そのとき、自分の世界とトーマスたちの世界とが交わるように思います。もしもトーマスが脱線したら助けてあげるかもしれませんし、ゴードンがたくさんのお客さんを運ぶストーリーを自分の作ったレールの上で新たに生み出すこともあると思います。もちろん、アニメで見たことのあるお話を再現することもあるでしょう。
子どもたちにとって、キャラクターのおもちゃには絵本やアニメの世界で知ったことや感じたことが詰まっているように思いますし、そうしたキャラクターのおもちゃと一緒に遊ぶことは、絵本やアニメといった2次元の世界と実際の私たちの生活をつなげてくれるんだと思います。その意味で、トーマスの絵本やアニメの世界に楽しく浸ってほしいですし、そこで感じたことなどをプラレールを使って発散したり、新たな楽しさにつなげていってほしいなと思います。
――最後に、『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』をこれから観るファミリーへ、メッセージをお願いします。
小田先生:今回の映画は、ただ座って観るだけじゃなくて、盛り上がってもいいシーンがあるということを、親御さんにお伝えしたいです。また、1回映画館に行っただけで全てが満喫できるわけでもなく、2回目に行ったら、そこで違うお友達と盛り上がれるかもしれないですし。映画館の参加者の方々で、映画体験も左右してくるかと思うので、そこも含めて新しいトーマスの体験を、ぜひご家族で楽しんでいただきたいです。
『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』は3月25日(金)よりシネ・リーブル池袋、全国のイオンシネマほかで全国公開!
監督:ルーク・ハリスほか
声の出演:比嘉久美子、神代知衣、三宅健太、江原正士、山崎依里奈、青山吉能、内山茉莉、田中完…ほか
公式HP: movie2022.thomasandfriends.jp/
文/山崎伸子