海溝とは
海溝とは、具体的にどのような地形を指すのでしょうか。海溝の定義と特徴を見ていきましょう。
海洋底でもっとも深い場所
海底には細長く伸びる、溝のような場所がたくさんあります。このうち、水深が6,000m以上のものを海溝と呼びます。
海溝の両側は急な斜面になっていることが多く、長さは数百kmから数千kmまでさまざまです。
世界でもっとも深い海溝は、北太平洋の西部・マリアナ諸島の東沖にある「マリアナ海溝」です。マリアナ海溝の最深部は、1万920mであることが分かっています。
日本近海にある海溝と、最深部の水深は以下の通りです。
・伊豆小笠原海溝:9,780m
・千島カムチャツカ海溝:9,550m
・日本海溝:8,058m
・琉球海溝:7,460m
海溝の特徴
海底でもっとも深い海溝には、陸地や浅瀬から常に土砂が流れ込んでいます。このため、海溝の底は堆積した土砂に覆われ、平らな地形になっています。
水深6,000m以上もある海溝の中に、光が届くことはありません。真っ暗闇で水圧も地上の数百倍はあり、生物にとっては大変厳しい環境です。
しかし、海洋生物が生きられる水深の限界は8,200mともいわれており、海溝の中にも魚や貝、ナマコなどの仲間が暮らしていることが確認されています。
実際に、マリアナ海溝の水深8,178m地点では「マリアナスネイルフィッシュ」と呼ばれる、白い魚が見つかっています。
日本海溝とは
私たちに身近な海溝といえば「日本海溝」ではないでしょうか。日本海溝の位置や特徴について、詳しく見ていきましょう。
東北地方の太平洋側に並行する海溝のこと
日本海溝とは、北海道の襟裳岬(えりもみさき)の沖から千葉県の房総半島沖まで続く海溝のことです。全長は約800kmあり、東北地方の太平洋側に海岸線と並行するように伸びています。
日本海溝の幅は約100kmで、深さは7,000~8,000mです。水深は南へ行くほど深くなり、8,058mの鹿島灘(かしまなだ)沖が最深地点です。
なお、日本海溝の北端は「千島カムチャツカ海溝」に、南端は「伊豆小笠原海溝」につながっています。
2つのプレートの境界である日本海溝
地球の表面は、十数枚のプレートに覆われています。陸も海もすべてプレートの上に乗っており、プレートと共に少しずつ動いているのです。
陸のプレートに海のプレートがぶつかると、海のプレートが下に沈み込んで海底に谷ができます。日本海溝も、陸の「北米プレート」と海の「太平洋プレート」との境界にできた、海底の谷なのです。
なお、太平洋プレートは現在も南東から北西へ向けて、年間約8cmの速度で北米プレートの下に沈み込んでいます。
日本海溝付近で起こる自然災害
プレートの移動速度はとても遅いため、私たちが「地面が動いている」と気付くことはありません。しかし、プレートがぶつかり合う場所では、周辺にかかる力が少しずつ蓄積されています。
力の蓄積が限界を迎えると、プレートを構成する岩盤が割れたり、隣のプレートが大きく動いたりします。このようなプレートの動きによって引き起こされる災害が、地震や津波です。
先述の通り、日本海溝付近では太平洋プレートが常に北米プレートの下に沈み込んでいます。このため、東北地方の太平洋側では地震とそれに伴う津波が発生しやすく、今後も大きな地震が起こる可能性が高いとされています。
海溝型地震の特徴やメカニズム
地震が発生するとき、海溝では何が起きているのでしょうか。海溝付近で発生する地震の特徴や、メカニズムを見ていきましょう。
海溝沿いで発生する「海溝型地震」
海溝沿いで発生する地震を「海溝型地震」といいます。海溝型地震には、以下の3種類があります。
・プレート境界地震:海のプレートに巻き込まれた陸のプレートが跳ね上がって起こる
・スラブ内地震:沈み込んだ海のプレートが破壊されて起こる
・アウターライズ地震:海のプレートが沈み込む直前に曲がって起こる
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震や1923年の関東地震は、代表的なプレート境界地震です。また、1993年1月の釧路沖地震は、スラブ内地震として知られています。アウターライズ地震の例としては、1933年3月に起きた昭和三陸地震が有名です。
海溝型地震のメカニズム
海溝型地震は、いずれも海のプレートが陸のプレートに沈み込むことで起こります。プレート同士が接する部分では、陸のプレートが海のプレートに引きずられてひずみが生じます。
ひずみが大きくなると、陸のプレートは元に戻ろうとして跳ね上がり、激しい揺れが起こるのです。海のプレートも陸のプレートとぶつかったり、沈み込んだ先で圧迫されたりして、少なからずダメージを受けています。
ダメージが蓄積すると、内部の岩盤の弱い部分が破壊されて地震が起こるのです。
「直下型地震」との違い
「直下型地震」とは、陸のプレートの弱い部分が破壊されて起こる地震のことで、内陸で起こるものは「内陸型地震」とも呼ばれます。
直下型地震にも、以下のように2種類あります。
・地表面近くの岩盤が破壊されて起こるもの
・陸のプレートと海のプレートの境界付近で、陸のプレート内部が破壊されて起こるもの
いずれの場合も、海溝型地震に比べて震源が浅く、局地的に激しく揺れるのが特徴です。人口が密集する都市部で直下型地震が発生した場合、甚大な被害をもたらす可能性があるため注意が必要です。
トラフや海嶺との違い
海底には、海溝に似た地形がいくつかあります。見た目が似ている「トラフ」と、名前が似ている「海嶺(かいれい)」について、海溝との違いを解説します。
トラフとは
トラフも海溝と同じく、陸と海のプレートの境界に形成される細長い窪地です。舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)と呼ばれることもあります。
トラフは海溝に比べて幅が広く、両側の傾斜もなだらかです。日本の近海にあるトラフとしては「南海トラフ」が有名です。
南海トラフは日本の南半分が乗っている陸の「ユーラシアプレート」と、海の「フィリピン海プレート」の境界にあります。長さは約700km、水深は最大で4,500mです。
南海トラフの周辺では過去に何度か巨大地震が発生しており、今後も発生が確実視されています。なお、北米プレートとフィリピン海プレートが接する場所には「相模トラフ」があります。
海嶺とは
海嶺は、海底にある高く隆起した地形のことです。地上の山脈のように、急な斜面に囲まれた細長い形をしています。
大西洋やインド洋など、大洋の海底には火山活動が盛んな巨大山脈が連なっている場所があり、「中央海嶺」として他の海嶺と区別されています。
中央海嶺の総延長は7万km以上、高さは2,000~3,000mです。山頂には1,000m以上の深い谷があり、地中からマントル物質が噴出しています。
流れ出たマントル物質が海嶺の両側へ水平に移動することが観測されていることから、中央海嶺は海のプレートの生産場所であると考えられています。
日本近海の海嶺としては、日本海の中心にある「大和海嶺」が有名です。大和海嶺は日本列島が大陸から分かれた際に、海に沈んだ陸地の残骸といわれています。
細長い深海底の地形、海溝
海洋生物学では、200mよりも深い海を深海と呼んでいます。水深6,000m以上の海溝は、深海の中でも特に深い場所であり、地上に住む人類が近付くことは容易ではありません。
それでも、人類は深海に耐えられる潜水艦や高性能カメラを開発し、海溝の詳細を明らかにしつつあります。海溝の様子がもっと解明されれば、地震の予知や地球の成り立ちの研究に役立つかもしれません。
未来を担う子どもたちにも、海の底の様子を正しく伝えてあげましょう。
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構成・文/HugKum編集部