夫婦ゲンカ、どっちが正しい?
去る2022年7月21日(木)に東京都杉並区「男女平等推進センター」主催で「ジェンダーを子育てから考えよう:第1回『あなたの中のジェンダー問題』」という講座が開かれました。(企画運営団体:NPO法人親子コミュニケーションラボ)
講師は、東大名誉教授の汐見稔幸先生。
大きなテーマは「ジェンダー子育て」でしたが、「夫婦のジェンダーバイアス」についてのお話もあり、その内容はまさにどこの夫婦間でも「あるある」事例ばかり!
大変参考になりましたので、皆さんにご紹介します。
講座の講師
これはミスコミュニケーション
汐見先生は、こんな例を元に、夫婦ゲンカについてお話しをしました。
夫が仕事から帰ってきました。
妻「今日、○○(子ども)が大変だったのよ!」
夫「この間もそんなこと言ってなかったか? しっかり𠮟らなきゃダメだって言ったよね? ちゃんと叱ってるのか!?」
妻「子育てはそんな簡単にできたら苦労しないわよ!」
これは、妻の気持ちを分かってほしいだけなのに、夫は正しいこと伝えるべきだと思っているところから起こる、夫婦のミスコミュニケーションなのですよ、と汐見先生は語ります。
ジェンダーバイアスとは
このような状況は、ジェンダーバイアスが潜んでいるのかもしれません。
ジェンダーバイアスとは、社会が植え付けた、男女の役割に対する固定観念のこと。
つまり、夫が悪いというわけではなく、長い間「正しいことを提案する」という討論のような世界で生きてきた男性の社会的背景が影響しているのです、と汐見先生は語ります。
また、汐見先生は、多くの男性は「言葉」=「相手を打ち負かすこと」だと思っていると分析されていました。
そしてそれが「言葉の使い方の習慣」になっている男性が多いと話します。
それゆえ、家に帰って来ても、女性(妻)とのコミュニケーションを図るどころか、成り立たないことがあるのだとか。
コミュニケーション上手の夫婦になるには?
では、どうしたら夫婦で上手くコミュニケーションを取れるのでしょうか?
汐見先生は「そもそもコミュニケーションというのは、人と人との気持ちを通じ合わせることなのです」と語ります。
「こういうことを言いたいのだな」と察する
真実かどうかは二の次として、相手を打ち負かすコミュニケーションをしている男性(夫)は、家庭では『家族と気持ちを共有していこう!コミュニケーション空間に戻るのだ!』と、頭を切り替える練習が必要と、汐見先生は話します。
つまり、相手(妻)が「こういうことを言いたいのだな」と理解しようとすることが大切だと。
それなしに男性(夫)がどっちが正しいという話をしてしまうと、相手(妻)は「分かってくれない」と感じてしまい、ミスコミュニケーションが起こるのではないかと分析されていました。
―なるほど! このような状況下は女性である筆者も思い当たるふしがあります。
「何で察して、動いてくれないの?」
「自分のことばかり考えて!」
「なんで私だけ忙しいの!!!」
などなど……。
自分の想いや想像でいっぱいになり、夫に勝手にイライラするときがあります。
では、どうしたら良いのでしょうか。
「共同の土俵」を作ろう
人間関係を築くには、なるべく相手のことを尊重しながらも「ここは無理だから我慢して」と伝えるなど、共同の土俵をつくっていくことが大切だと言います。
つまり、相手の気持ちも私の気持ちも尊重するということ。夫婦関係はその「共同の土俵」がどんどん大きくなっていくとうまくいくと汐見先生は話します。
―全ては相手に話してみないと分からないのですよね。筆者も「夫は何を思っているのだろう。何を言いたいのだろう」と理解しようとする姿勢と自分が思っていること考えていることも大切にして伝えることをやってみたいと思います!
夫婦は50:50の関係ではない!?
汐見先生のご家庭では、どのような夫婦関係だったのでしょうか?
汐見先生の奥様の提案
汐見先生はあるとき、奥様に「家事も育児もお互いがする、50:50がいい」と言われたことがあったそう。
汐見先生は「50:50はよくないと思う。僕は料理が得意だけど、片付けが苦手。あなたは、片付けが得意だけど、料理が苦手。苦手なものまで50:50にするより、お互い得意なことをやる方がうまくいくのでは?」と答えたそう。
―確かに、そのほうが家事も育児もうまくいきそうな気がしますね。お互い得意のところを担当すれば、男だから、女だからというジェンダーバイアスが働かず、うまくいきそうです!
夫を𠮟責に近い形で指示してしまうAさんの葛藤
講演会の最後に質疑応答の時間が設けられました。
Aさん(女性)
相手(夫)を尊重したいと思っているのですが、3人の子育てに追われて、余裕がなく、夫に叱責に近い形で指示を出してしまうことがあります。
子どもには、お互い尊重しあっているところを見せたいのですが……。
【汐見先生の答え】
「指示を出しているのは悪いと思っているの。でも時間がなくて……など、普段自分が思っていることを正直に相手に話したり、相手の思いを聴いたりすると良いのでは?」とアドバイスをされていました。
汐見先生も葛藤した経験が
実は、汐見先生も子育て中に仕事との両立で葛藤があったそうです。
ご自分で悩まれ、「仕事は後からでもできる。子どもはその年齢はそのときだけ。育児は明日が大事で、後からできない」と思い、葛藤をやめ「育児第1、仕事第2」としたそう。
しかし、その葛藤は、気を遣わせたくないという想いから、奥さまに言えなかったのだとか。
汐見先生は、「だから男性も何か思っていることが、きっとあるはず。夫婦で月1回でもいいから、子どもの将来のことやどのような将来を考えているかなどをお互い話し合ってみてくださいね」とニッコリと微笑んで、講義は終了しました。
「言葉の使い方」を考えるきっかけに
汐見先生の講演会では、古代のアテネを例にした「言葉の力」のお話もとても印象的でした。
昔も、言葉は二分されていて、今の夫婦で起きているような討論(相手をやっつけるために言葉を使う)とコミュニケーション(真理をシェアするために言葉を使う)の問題があったのだそう。
また、ジェンダーギャップを考察するときに、「言葉の使い方」を考えることが必要と言うことも分かりました。
古代から続いている言葉の問題に不思議な感覚になったのと、言葉を大切に使える人間になりたいなと思います。
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文/佐藤多恵 編集/HugKum編集部