小学生の不登校は、親の関わりも大きな要因。「あなたのため」は子どもにとってプレッシャーになる言葉【専門家監修】

文部科学省が2022年10月に発表した、小・中学校における不登校の状況によると不登校の児童生徒数は9年連続で増加。2021年は小学校で8万1498人、中学校では16万3442人と、ともに過去最高でした。ゴールデンウィークや夏休み明けに不登校になる子もいます。 親と子の問題に詳しい、一般社団法人親と子どもの臨床支援センター 代表理事 帆足暁子先生に、子どもが不登校になったときのかかわり方や防ぎ方などについて聞きました。 帆足先生は、同センターで不登校の相談にも対応していて「子どもが不登校になると『私の育て方に問題があったのかも』『勉強のことでプレッシャーをかけ過ぎたかも』と自分を責める親もいますが、親が気づかないような問題を抱えていることもある」と言います。

不登校の要因は複合的なもの。親子のかかわり方だけが問題ではない

文部科学省が202210月に発表した、小学校における2021年度の不登校の児童数は8万1498人でした。不登校の要因は「無気力・不安」が49.7%(4万518人)でトップ。次いで「親子のかかわり方」が13.2%(1万790人)、「生活リズムの乱れ・遊び・非行」が13.1%(1万708人)でした。

コロナ禍以前から上位3要因は変わっていません。コロナ禍で「無気力・不安」は増えましたが、「親子のかかわり方」や「生活リズムの乱れ・遊び・非行」はほぼ横ばいです。最近は、ゲームにのめり込んで寝不足で学校に行かれなくなるなど、近年の不登校の要因にはさまざまなことが絡み合っています。複合的な要因で不登校になる子どもが多いです。

3から不登校になり、親子関係が悪化。立ち直った親子のケース

以前、子どもの不登校について相談に来た方の例を紹介します。

Aくんは小3から不登校になりました。母親は朝、わざと大きな音を立てて起こしたりして、どうにか学校に行かせようとしたのですが、まったく効果はありませんでした。

そのうち親子関係が悪くなってしまい、どうしていいかわからずに相談にいらしたのです。

母親自身の育てられ方が、親子関係に影響している

その方の話をじっくり聞いて、私は子どもへのアドバイスをしながらも「子どものことはひとまず置いておいて、あなたは、今の生活を楽しんでいるのでしょうか?」と聞いてみました。「生活を楽しむなんて考えたことがない」と言うので、「好きなことを見つけるなどして、自分の時間を楽しんではどうかしら?」とアドバイスしました。

親であっても、子どもと同じ一人の人間です。子どもが大好きな人が生活を楽しむモデルとなることは、親の願いである「子どもに幸せになってほしい」姿をイメージさせることにもつながります。子どもが「自分もママ(パパ)と同じように楽しく生活したい」という思いを抱くことが、今の不登校の状況から抜け出すエネルギーになります。でも、彼女はこう答えたのです。

「私の両親はとても厳しい人で教育熱心でした。子どものころから、怒られないように親の言いつけを守ってきました。習い事もピアノや英語など、すべて親が決めたものでした。『楽しんで』と言われても、これまで楽しいと思ってしてきたことがないので何をしていいかわかりません」

この方のように、母親自身の育てられ方が「親子のかかわり」に影響しているケースは多いのです。

母親が資格の勉強を始めてから、子どもに変化が

その方は、真面目なタイプでしたので、「関心があったり、好きなことで、何か資格を取ってみてはどうかしら?」と勧めてみたところ、いろいろと考えて、食関係の資格を取ることに決め、勉強を始めました。勉強がおもしろくなり、彼女は自分が楽しめる世界ができてから、とても明るくなりました。

不登校になった子どもは、家にいる分、親のことをよく見ています。母親が楽しそうに勉強をする姿に影響を受けたのか、Aくんはやがてフリースクールに通い始めました。

絵画コンクールに入賞し、フリースクールから推薦で美術系の高校へ

Aくんはもともと絵が得意でした。母親が資格の試験に合格して一緒になって喜んでいるうちに、自分も何かをやってみたくなったようです。Aくん自身も、絵画コンクールに自分から応募するようになり、何回か入賞を果たしました。そうした実績が認められ、Aくんは、フリースクールから、推薦で美術系の高校に入学しました。

今では親子それぞれの好きな道で人生を楽しんでいます。Aくんから誘われて一緒にカフェに行くこともあるそうです。

この例のように、子どもの不登校は、親も子どもも変わるチャンスになることもあります。Aくんが小3で不登校になっていなければ、今のような親子関係は築けなかったと思います。

乳幼児期から、小さな失敗にめげずにチャレンジする機会を体験させて

子どもたちが不登校になる背景には、無気力やストレス耐性に弱いなどの心の問題もあります。そこで勧めたいのが、なんでもよいので、自分が好きなことを見つけて、「これをやってみたい!」と思う気持ちをはぐくむことです。それがチャレンジして失敗を乗り越える力を養うことになります。これは将来の生き抜く力にもつながります。

【未就学児】失敗しても大丈夫という経験を

遊びやスポーツなど、いろいろなことに親子で一緒にチャレンジしてください。いろいろなことをする中で、自分の好きなことに出会えます。失敗したり、まわりの子よりも上手にできなくても構いません。失敗したときは「頑張ればできるようになるよ!」「さっきより上手だったよ!」と前の子どもの姿との違いを伝えて、明るく励ましてあげましょう。しかったり、まわりの子と比べて評価したり、根拠もなく褒めるのは絶対NGです。一緒にすることで「ママ・パパがいれば、失敗しても大丈夫!」「前よりもできている」「またチャレンジすればいい!」と思える経験をたくさんさせてください。

【小学生】上を目指して頑張る経験を

プライドが高くなり、苦手なことには挑戦したがりませんが、それでよいのです。人間には向き・不向きがあります。得意なこと・好きなことを伸ばすために、その領域のレベルの高い環境を体験させてあげることもよいですし、新しい可能性を求めて、さらにさまざまな体験を増やすのもよいですしょう。

子どもが成長していくと、あきらめてしまったり、ストレス耐性の弱さを実感する体験が増え、心の問題から抜け出すことが難しくなります。小学生でも遅くないのでチャレンジして、自分の力であきらめずに失敗を乗り越えたり、上を目指して頑張る気持ちをはぐくむ経験をすることが大切です。

親の言葉で傷付けられて不登校になることも

先ほど複合的な要因で不登校になる子どもが多いと言いましたが、複合的な要因の1つには親からの言葉に傷付くケースも含まれています。

とくに言ってはいけないのは「子どもなんて生まなければよかった」「あなたのことは嫌いだから」など、子どもを全否定する言葉です。これらの言葉は、子どもの生きる希望をも消してしまう危険性があります。

「あなたのため」という押しつけや、「あなたのせいで〇〇になった」など子どもに責任をもたせる言葉も厳禁です。ほどんどが子どものためではなく、親自身のためであることに子どもが気付き、親への信頼がなくなってしまうからです。

実は親自身が、否定されて育っていたケースが多い

子どもを否定する言葉を子どもにかけてしまう親たちは、自分もそうして育てられたケースが実は多いのです。だから、親が自分を責める必要はありません。でも、子どもはかつてのあなたのように傷付いてしまうので、もし言ってしまったときは、「ごめんね。私の心に余裕がなくてイライラして嫌いなんて言ってしまったの。でも本当は大好き!」と、素直に謝りましょう。子どもは「自分は嫌われていない」とわかると安心して、親を許してくれます。

孤立して、ひとりで悩みを抱え込まないように

子どもが学校を行き渋ったり、不登校になったりして悩んだときは、ひとりで悩みを抱え込まないことが大切です。子どもが不登校になると、子どもだけでなく、親自身も社会から孤立しているように感じることがあります。

相談に来た親の一人は「担任は熱心な先生で、毎日小学校から学級だよりを渡されるのですが、『みんな楽しい仲良しクラス!』とか書かれていて、みんなは、うちの子のことは忘れているんだろうな…と悲しくなる」と言っていました。不登校になると、子どもも親も傷付くことが増えます。

信頼できて、心の整理がつく相談員を選んで

心が傷つき、負のループから抜け出せないときは、カウンセリングを受けることも一案です。

相談できる場所は増えています。医療機関は親子で受診することが原則ですが、子育て相談ができる小児科もあります。また医療機関以外でも、相談ができる専門機関も増えています。

大切なのは相談員との相性です。相談すると安心できたり、心の整理がついて少し先が見通せたりできるような相談員を見つけてください。

相談した後に落ち込んだり、自分を責めたりしてつらくなったら、自分を大切にするため、と考えて思い切って相談先を変えましょう。

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記事監修

帆足暁子先生|公認心理師・臨床心理士
保育士資格、幼稚園教諭一種免許も持つ。専門は乳幼児発達臨床心理学、保育臨床、子育て相談、子どものメンタルヘルス。「ほあしこどもクリニック」(東京都世田谷区)で副院長を約20年務めた経験を持つ。2020年より現職。

取材・構成/麻生珠恵

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