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トーキョーコーヒーとは?
不登校問題は「大人の無理解」という視点から日本の教育についてムーブメントを起こそうと2022年に立ち上げられ、現在その拠点は全国260箇所以上に広がっています。「大人同士が対話し学び合う場」と「子どもが日中に安心して居られる拠点」を提供しています。
詳しくは、こちらの記事が参考になります。

1. 学校に行きたくない理由は子どもにもわからない
必ずしも、何かあったから学校に行けないわけではない。友人関係も良好、クラスも好きなのに、自分でもわからないけど足が動かない、行こうとすると具合が悪くなる、そういう子どもたちもいることを理解してほしい。怠けでもなく、気合でどうにかなる問題ではないんですよ。
ある小学生が書いた詩に「動物は危険を察知したら全力で逃げるのに人間はなぜ逃げてはいけないのか」とあって、ハッとさせられた。
学校教員が回答した不登校の要因の1位は「無気力・不安(49.7%)」※1という文部科学省の調査があります。無気力というのは単に「やる気がない」のではなく、その背景には自分でも気づかないうちにストレスを溜め込んでいる可能性があります。
※1 参考:児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査

学校に行けない理由を突き止めて解決し、早く学校に行けるようになってほしいと思うのも親心。厳しさが当たり前の昔の時代を生きた大人の中には「それくらいで弱音を吐くな」と思う人もいるかもしれません。
しかし、これからを生きる子どもたちには、弱音を吐かない美徳よりも、自分の意見を持ち、選択する力が必要なのではないかと思います。「学校に行きたくない」とSOSを発し、本能的に自分を守ろうとしているときには「なんで?何かあったの?」と聞きたい気持ちをグッと堪え、まずは休ませてあげたいですね。
不登校の兆候や初期対応については、この記事も参考になります。

2. 大人は不登校をネガティブに捉えている
不登校経験から一山越えて(歩む道が見つかって)明るく過ごしているママでも、遠くのスーパーに買い物に行くそう。近所のスーパーで、何気なくでも子どものことを聞かれるのが嫌みたい。
直接何かを言われなくても、平日の昼間に子どもといると周りの目が気になっていました。自分がいい母親ではないと思われるのではないかと思ってしまって。
学校に行くのが当たり前として育ってきた親世代は、不登校となった先の将来を心配し、ネガティブな思考に陥りがちです。
不登校は不幸せではない。学校に行くことが全てではない。不登校の経験から一皮剥けた人たちの話を聞くと、多くの選択肢の中から子どもにあった自由な方法で学び、成長し、自分のやりたいことを全うしている印象を受けます。もちろん、学校に行くことを選択してもいい。でも、学校に行かないことを選択した人たちを偏見の目で見るのは違うのではないかと、私は思います。
「学校に行きたくない」と言われたときに、ためらいなく「そっか、今日は休もうか」と言える世の中にするには、当事者だけでなく、大人ひとりひとりの意識を変える必要があります。
3.学校内の「居場所」の充実度が地域により異なる
学校によって対応や理解度が違うんです。あっちの学校にはステップルーム※2があるのに、こっちの学校にはないとか。支援級※3も、あっちは知的だけでなく情緒※4の支援級もあるのに、とか。
※2 教室へ足が向かない子どもが一時的に通う教室
※3 特別支援学級
※4 自閉症・情緒障害。その他、言語や難聴など7種の困難に合わせた学級の設置が理想(参考:特別支援教育の現状)
ステップルームはなかったので、校長室や職員室など居られる場所を転々としていたけれど、ある日「どこにも居場所がなくて廊下で独り佇んでいた」と後日、本人から聞いて。もっと早く気づいて、安心できる居場所を作ってあげられたら…と大人の無知を痛感した。
私立の学校に進まない限り、選ぶことのできない小中学校。その学校の不登校への対応や、設置する支援級の種類が、学校や先生の考え方、そして市区町村単位の行政の方針によって左右されているのが現状です。
2002年に文部科学省は不登校対応として下記のように掲げています。
児童生徒が状況に応じて学校生活に適応する努力をしやすいよう、保健室や相談室等、学校内の 「居場所」を充実させる。
20年以上前から取り組まれているものの、なかなか充実されたものにはなっていないのが現状。嘆いていてもしょうがありません。まずは現状を知り、多くの大人が問題意識をもつことで日本が動かざるをえない状況となることを願います。
4. 学校以外にも学びの場はたくさんある

先生たちは、どうにかして学校に来れないかということを前提にアプローチしているように思います。不登校者の数が学校や先生の評価に繋がるのかもしれないけれど、もう少し子どもに寄り添い、地域とも協力し、フリースクール等も視野に入れた選択を提案できるシステムになるといいなと。それを実現している市区町村もあるんです。
これに関しても前述した「不登校への対応について(文部科学省)」にて
学校・家庭・関係機関が連携した地域ぐるみのサボートシステムを整備する
と掲げているものの、全国一貫したものにはなっていないようです。
「不登校という言葉も本当はあまり使いたくないんですよね」と平野さんは言います。学校に行かないことを選択した人たちを、少数派としてネガティブな表現にせず、自由に学びの場を選択することがあたりまえな世の中になるといいですね。
5. 学校でも自由な教育を実現できる
先生が前に立って、同じスピードで、同じ内容の教科書で、子どもたちに同じような行動を求める。そして、それを数字で評価するという古くからの学校のシステムを疑問に感じている子どももいることをわかってほしい。
例えば、書くのが苦手(ディスグラフィア)な子どもにとって「漢字をノートに書いて覚える」って苦痛でしかないんです。タブレットでの学習を許可してくれる先生もいます。
自分の考えをもつことや、個性が尊重される現代において、子どもたちをひとつの教室にまとめて同じように進める教育システムには限界があるのかもしれません。ひとりひとりの個性に合わせた教育を…なんて、多忙な先生たちを更に追い込むのか、と思われるかもしれません。でも、今の学習指導要領の範囲内で、自由な教育を実現している学校も日本に存在しています。
例えば、トーキョーコーヒーの多くの拠点でも自主上映されている映画「夢見る小学校」では、きのくに子どもの村学園や公立の伊那小学校などが取り上げられています。これらは文部科学省からの認められた学校でありながら、教科学習にとらわれず体験学習から多くの学びを得る自由な学校です。
学校の考え方ひとつで、自由な教育は実現できるのです。
ひとりひとりの小さな風から、大きなムーブメントを
大人の無理解として挙げたこれらの視点は、ひとりの意識を変えることで改善されるものではありません。多くの大人がこれらの事実を知り、問題意識をもつことではじめて、変革への原動力となります。
うちは不登校ではないから関係ない…では、ありません。日本の教育がより良い方向へ進むためのムーブメントを起こすべく、ひとりひとりの小さな風が大切なのです。
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お話を伺ったのは

薬剤師であり心理カウンセラーの資格を有し、心理学や傾聴の学びを続けており、お茶べり会において「きちんと話しを聴ける人」であることを心掛けている。26歳、24歳、20歳、14歳の四人の子を持つ母でもある。
取材・文/村上詩織