「万引き」にまつわる2つの語源説とは?
買い物客を装い、店員や店内監視員などの人目をかすめて商品を盗み取ることを「万引き」と言います。なぜこのような行為を「万引き」というのか、ご存じですか?
多分そうだろうと考えられている語源説が、2つあります。
「間引く」からの変化
ひとつは、「間引(まび)く」から生まれたという説。「間引く」は、野菜などをじゅうぶんに生育させるために、生育の途中で間を隔てて抜き取ることです。その「まびく」に「ん」が加わり、「まんびき」になったというのです。
「時のはずみ」という意味の「間拍子」からの変化
もうひとつは、マンは「間拍子(まびょうし)」または「拍子まん」の「間」「まん」と同じで、チャンスという意味だというものです。「間拍子」は、音楽や舞踊で、リズムを生むための休拍と強弱を示す拍子のことです。これが、その時のひょうし、時のはずみという意味でも使われます。「拍子まん」は、めぐりあわせや運、調子という意味です。「万引き」はチャンスをねらってするから、チャンスの意味のマンだというのです。
確実ではありませんが、ひとつめの説の方が有力だと考えられています。ただ、「万引き」と同じ意味で、「万買(まんが)い」という語がありました。「買い」は盗むという意味の隠語です。そして「万引き」も「万買い」も江戸時代から使われていました。
江戸時代から使われていた「万引き」
たとえば、「万引き」には、「こりごりしろと万引をぶつ」という、江戸時代後期の雑俳の例があります(『俳諧觽(はいかいけい)–三〇』(1831年)。「こりごりしろ」は、もう二度とやるまいと深く思えという意味です。そう言いながら捕まえた万引きをたたいているのです。場面が浮かんでくるような句ですね。
「万引き」「万買い」が同じ頃から使われていた語だとすると、「万」の方に意味があったような気もしてきます。「間引き」→「万引き」ではなく、チャンスの意味の「万」だったという説も、私には捨てがたいのです。
「万引き」は刑法では「窃盗」
ちなみに、刑法には「万引き」という語はありません。「万引き」は「窃盗」に当たり、刑法第235条には、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とあり、この法律が適用されます。「万引き」は犯罪なのです。軽く考えてはいけません。