自分の髪を伸ばして寄付する「ヘアドネーション」でできることと。25歳でがん患者となった元SKE48矢方美紀さんが語る「医療用ウィッグ」がくれる日常の大切さ

大切に伸ばした髪の毛を寄付する「ヘアードネーション」は、子どもから大人まで幅広くできる社会貢献として広まっています。子どもは難しくも、一緒に病気について考えるきっかけにと挑戦している親御さんも多いようです。

でも、実際に挑戦するとなるとどんな注意が必要なのか、どんな風に使われるのかなど、子どもにきちんと説明できますか? 
今回はヘアードネーションを受け付けている団体・病気でかつらが必要になった人・ヘアードネーションに挑戦する人・協力している美容師さんなど、それぞれの立場で考えたこと、気づいたことを教えていただきました。

髪の毛があるって実は“当たり前”じゃない

今回はヘアケアブランドフィーノ」が2022年に始めた医療用ウィッグに関わる全ての方が360°つながるプログラム「HAIR TOUCH YOU のばせば届く。」で、新たに始動したキャンペーン「#髪からはじめるちょっといいこと」の一環として開催されたイベントに伺いました。会場では、10組の小学生の親子が集まり、医療用ウィッグとヘアネーションについて学ぶワークショップを実施。そこではヘアードネーションに関わるさまざまな人たちが集まりました。

最初にNPO団体・全国福祉理美容師養成協会(以下、ふくりび)の野島美都さんがフィーノと取り組むヘアドネーションの活動についての全体的な説明をしてくれました。

「髪の毛があることって当たり前っていう風に思っていませんか。例えば、髪の毛が長い人、短い人、あるいは髪の毛がないっていう人もいるんですね。でも、どんな姿であっても、それはその人が持つ自分らしさということは受け止めてほしいなって思っています。もしも髪の毛のアレンジが好きだったり、髪の毛が長いのが好きな人たちが、病気とか何かで髪の毛を失ってしまったら、どんな気持ちになるでしょうか。そう、とても悲しい気持ちになる。ヘアドーネーションというのは、そんな髪の毛があればいいな、と思っている人たちに、私たちが髪の毛を伸ばして寄付するということです」(ふくりびの野島さん)

髪の毛がなくなる大きな理由が、病気になって髪の毛が抜けてしまうこと。病気になるだけでも辛いのに、自分の見た目まで変わってしまうのです。そんなときに、もし髪の毛 がある自分っていうのを取り戻して、いつものようにおしゃれができて、自分らしくやれたら、もっと自分の気持ちまで元気になるのではないでしょうか。

そこで登場するのが、医療用ウィッグ。最近はハロウィンの仮装やディズニープリンセスなど、おしゃれでつけるウィッグもあります。それに対し、病気の人向けのものが医療用ウィッグ。大きな違いが、医療用ウィッグは長時間つけられるよう、着心地が工夫されている点。そしてもう1つが、髪質が本物の人の毛髪で作られています。やはり仮装用のウィッグなどに比べると自然で、より本物の髪らしく見えるのです。

そのために必要となるのが、たくさんの人の髪の毛。医療用ウィッグを作るためには、髪を織り込んだりする部分も必要なため、ショートカット用にも31㎝以上の長さが必要です。

ふくりびさんで制作した医療用ウィッグ。
ふくりびさんのウィッグは、長時間着用しても快適なように裏にたくさん工夫されています。
本物の髪の毛を使い、頭の形に合わせてオーダーメイドで作られているものもあり、医療用ウィッグは大変高価。それでもたくさんの人からの善意の髪の寄付のおかげで、必要な人に届けられています。

4つの工程で届いた髪をウィッグへと加工

集められた髪は、finoウィッグBankの場合、まずは毛を長さや状態別に箱に仕分ける作業から始まります。そして仕分けられた髪の毛は、殺菌・消毒や、キューティクルをはがしたり、残したりする作業をする工場へと送られ、ウィッグになじみやすい髪へと加工されます。その後、ウィッグ製作工場に移され、熟練の職人さんの手によって植えこんでいく作業などを行います。そして最後に仕上がりのチェックが行われた後、いよいよ医療用ウィッグを必要とされる方へと届けられるのです。

「似たような髪の毛を集めて使うのですが、それでもやはり少し色も違っています。 それをまず、染めていまのウィッグにしています。さらに、このぼさぼさのままでは使えないので、医療用ウィッグを必要とされる方にサロンに来ていただき、一人ずつに試着いただきながら、自分が希望するヘアスタイルになるように整えていきます」と」(野島さん)

がん患者だった矢方美紀さんが語る医療用ウィッグがくれる日常の大切さ

次に登壇されたのは、ご自身もがん罹患により実際に医療用ウィッグを使用されていた SKE48 の元メンバーで、現在はタレント・声優として活動されている矢方美紀さん。がん患者となったのは25歳という若さでした。

こどもたちに語り掛ける矢方美紀さん。

「がんになってしまって、治療をしなくてはいけないのでお薬を体に入れるじゃないですか。そのときにお薬の影響が強いので、髪の毛が全部なくなっちゃうよって言われたんですね。で、ま、この今、1枚目のパネルが、 ちょっと、まあ、5年前の私としましたら、この癌の治療が始まると、体に変化も起きるっていう風に、先生から教えられました」(矢方さん)

矢方さんが描いたがん治療のイラスト。

「髪の毛が抜け始めたのは、お薬の治療を始めてから10日後ぐらい。抜けた時は髪が抜ける痛みとかはないのですが、このままだとお友達に会ったりとかお仕事場に行くのに、髪の毛がないってなったらびっくりされてしまう。あと、実は、この眉毛もまつ毛もなくなっちゃうんですよね。そういう変化っていうのに、すごく当時は驚いちゃいました。お薬の副作用で体調がどう変わっていくかっていう説明は病院の先生からもあるんですが、実際にやっぱり 体験してみると、想像以上で。あと、お父さんとかお母さんにもその姿を見られるのが恥ずかしかった。そのため、基本的には家の中でも お風呂以外はウィッグをかぶって過ごしていました」(矢方さん)

ウィッグを髪の毛が抜け始めてすぐから使っていた矢方さんでしたが、最初は医療用ウィッグではなかったそうです。その理由は、やはりお値段が高額だから。おしゃれで着用するウィッグが3000円前後からあるのに対し、医療用のウィッグを購入するには当時で1つ30万円から50万円ほどもかかるため、当時25歳だった矢方さんには簡単に支払える金額ではありませんでした。

「そのため、最初はインターネットで買った安いものを使っていたのですが、ずっと着用していると頭に腫物ができたり、かゆくなってしまいました。そんなときに知った医療用ウィッグは、通気性もよく、1年を通して着用しやすいように作られています。私もそこから医療用ウィッグに切り替えました。私も自分の好きな色に変えてもらったり、自分の好きな髪形に変えることができます」(矢方さん)

ヘアサロンでのヘアドネーション実演を見学

finoウィッグBankでは31㎝からヘアドネーションを受け付けていますが、実際にはどうやって送ればいいのでしょうか? 今回は来場した小学生よりもちょっとお姉さんの中学 1 年生の莉衣紗さんが登場。莉衣紗さんをモデルに、ショート・ボブ専門の美容師として活動される大野道寛さんによるドネーションカットのデモンストレーションも実施されました。

大野さんによると、美容師の専門学校ではヘアドネーションのカット方法などは、少なくとも大野さんが学んだ当時は教科に含まれておらず、多くの美容師はその方法を知らないそうです。そのため、適当に切ってしまうと31㎝に満たなかったり、医療用ウィッグを作るのに適さない形になってしまう場合も。また、対応してもらえない美容室もあるそうです。せっかく伸ばした大切な髪ですから、まずは知識があり、きちんと対応していただける美容師さんにカットをお願いするのがおすすめ。大野さん自身もたくさん勉強したそうです。

美容師の大野さん(写真左)とヘアドネーションを行った莉衣紗さん(写真右)。

「ヘアドネーションのカットは、髪の毛を分けて、結ぶことも大切です。まず(結び目の分も合わせて)31㎝のところで結ぶことや、髪の毛の長さを揃えて切るなど、ヘアドネーションにきちんと使えるように切っていただけるお店を探す必要があります」(大野さん)

今回2度目のヘアドネーションを行った梨衣紗さんは、「2年間伸ばしてきた髪が困っている人のためになど役に立つのが嬉しい」と教えてくれました。

今回はヘアドネーションに関わる人たちからそれぞれの役割と思いを直接伺える貴重な機会となりました。一度挑戦したいと思っている方も、より意義がわかるのではないでしょうか。挑戦せずとも、こういった体験をしているお友達の話になったときなど、少し話し合う機会を作ってみてはいかがでしょうか。

フィーノでは医療用ウィッグを必要とする人に、心地よく質の高い医療用ウィッグを届けられるようにフィーノがヘアドネーションを募り、集めた髪を医療用ウィッグ製作のために提供する「fino ウィッグBank」を設立しています。また、近隣にヘアドネーション対応の美容室がない人でも寄付ができる「fino オリジナルドネーションキット」を無料配布しています。ドネーションキットはNPO法人「ふくりび」が提携する全国約120のサロンへ配布しているほか、公式サイトからの受付けも行っています。

HAIR TOUCH YOU のばせば届く。

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