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10代の恋愛の思い出は?父親とのやりとりから初デートまで
―― 新刊『耳たぷ』の表題作などでは、デートをきっかけに自分のそれまでのベストコーデを上回るコーデを探しに行くような、自分をアップデートしようとする若者たちの行動の描写が印象的でした。
福徳さんご自身はデートの前に事前準備をされたことはあるのでしょうか。
福徳さん: 下見的なことはしたことがないですね。真新しい場所に誰かと行くほうが個人的には好きです。
髪を切ったりとか、そういうこともしないですね。ただ、「デートの日までにはニキビできるなよ」とか「今の肌ええやんけ! 頼む、このままいってくれ!」みたいなことを考えたことはあります。
―― 服装はどうでしょうか。
福徳さん: 昔から服をいっぱい持ってるようなタイプではなかったんですけど、デートの前日は必ず洗濯をしたり、ポケットをめくって中のホコリを取ったりとかしてました。
一回、デートに白のポロシャツを着て行った時は、寸前に駅のトイレに入って鏡を見たらポケットの隅が黒くなってて。「なんや!」と思ってよく見たらホコリが溜まってて。気づいてよかった……と。そういう見だしなみのチェックはありましたね。
「こいつ化けるぞ、と…」父親との恋愛トークの思い出
―― 収録作『父さん、母さんには内緒だよ』では、福徳さんご自身の境遇に近いご家庭が描かれているように思いました。
作中にあったように、福徳さんも親御さんにご自分の恋愛を報告したり、相談したりしたことはあったのでしょうか。
福徳さん: 親に相談することはまずないですね。ただ、ちっちゃい頃から父親には「好きな子できたのか」と無茶苦茶聞かれましたね。4人きょうだいで兄ちゃんもいたんですけど、兄ちゃんには全然聞かないのになぜか僕にはめっちゃ聞いてきましたね。
―― なぜ福徳さんだけだったんでしょうか。
福徳さん: ちっちゃい頃に「ガールフレンドいるの? 彼女いるの?」って父親に聞かれて、僕の年子の兄ちゃんは「いない」って答えたんですけど、僕は「まだいない」って言ったんです。父親としては僕が「まだ」ってつけたことにロマンを感じたらしく、「こいつひょっとしたら化けるぞ」みたいな。
そのロマンチックさを大事にしたいと思ったのかもしれないですね。女性に対するマナーとかも、僕はよく伝授させられていたような気がします。
―― その後、化けられた姿はお父様にお見せできたんでしょうか。
福徳さん:見せてないです(笑)。
初デートの思い出は、無地の白Tシャツとわんこそば
―― 10代の頃の恋愛で、こうしておけばよかったと後悔することはありますか。
福徳さん: ドラマ『ビーチボーイズ』が流行っていた時代だったので、無地の白Tシャツが結構好きで。今も好きなんですけど、高校生の時もよく着てたんです。
初デートでも着て行ったら、それを後々結構チクチク言われたんですよ。「めっちゃいややった。肌着にしか見えへんかった」みたいな。でも、デザイン系のTシャツ着ていけば良かったかというと、それはそれで。あれでよかったなと思いますけどね。
―― 初めての彼女さんとの初めてのデートですか。
福徳さん: そうです。ちなみに初デートはわんこそばやったんですよ。これは本当にね、奇跡としか言いようがないんですけど、何気ないうどん屋さんに入ったらなんか珍しいそばがあって、そのそばを注文したら店員さんが横に来て、一杯ずつ入れてくる。完全にわんこそばスタイルで(笑)。
初デートで何喋ろうかなという緊張感もあった分、わんこそばのおかげで和んだというか。「何やねんこれ!」って言いながらめっちゃ食うたんで。いい思い出ですね。
一冊の本との出会いと、「お笑い」や「書くこと」に共通するモチベーション
―― 福徳さんの小説を読んでいると、これまでにかなりの本を読んできた方なのだと想像させられます。今、子どもたちの活字離れが問題とされていますが、文字や本との付き合いについてお考えがあればお聞かせください。
福徳さん: 僕も小さい頃は、親から「本を読め」といろんな本を買ってこられたりしましたが、結果、ほとんど読みませんでした。唯一、小学校の時に読んでいたのが『ズッコケ三人組』。でも、読書自体にハマるきっかけにはならなかったです。
けど、中3くらいの時に偶然図書館で見つけた本があって。僕が知ってる人が本を出していて、「この人、本書いてるんや」と思って何気なく読み始めたんです。そしたらそれが面白すぎて、読み終わった後はちょっと放心状態になりました。おもろすぎるやろって。
―― HugKumでの以前のインタビューでも詳しく話してくださいましたね。
福徳さん: その本を何回も読んで、それから「もしかして、本って、これよりおもろいものがあるってことか?」とふと思い、これよりおもろい本を探そうという気持ちで他の本を読み始めたんですよ。
ずっと「あの本よりおもろないな、あの本よりおもろないな……」の繰り返しで、結局いっぱい本を読む羽目になりました。
きっかけや環境とか、そういう偶然が重なり合わないと、本って読まへんのやろなっていう風に思いますね。
書くこともお笑いも、「再び味わいたい」「好きだからやれる」
―― そこから、どのようにして「書く」という方向に向かったんでしょうか。
福徳さん: 芸人をやっている中で、ちょっとしたきっかけで「ここにショートストーリー書いてくんない?」みたいな話がきました。いざ書いてみたら褒めてもらえて。そこから、吉本興業の情報誌『マンスリーよしもと』で連載が始まりました。
その時は見開きで又吉さんと僕が並んでたんですけど、それがめっちゃいやで! 又吉さんのすごい文章の横に、僕の作文みたいな文章が載っていて「めっちゃいややなこれ!」と思いつつ、「でもまあええか!」と開き直りながら書いていました。書くことに関しては、それがきっかけですね。
―― 最初からフィクションだったんですね。
福徳さん: はい。又吉さんがあまりにもすごい文章でエッセイを書いてたんで、なんかもう、いてもたってもいられず。あえてこの“ペラ”さで逃げようっていう気持ちがありましたね。
―― やはり人の前で立って話すという仕事と、フィクションを作って文字化するということには通じるものがありますか。
福徳さん: 通じるものはあると思いますね。書いてる時は“ゾーン”みたいなのに入って書き続けられる瞬間もあって、書き終わった後にちょっと気持ちよかった、楽しかったなみたいな感覚があります。結局、その楽しさをまた味わいたくて書いている部分があるんです。読書も、あの本よりおもろい本を探そうというのがあったんで、結局、再び味わいたいみたいなことが原動力なんですかね。
―― お笑いのライブにも通じそうですね。
福徳さん: そうですね。NSCに入ってすぐに中間発表っていうのがあって、そこで死ぬほどウケて。これはいいわ、こんな風に笑い取りたいなっていう気持ちでオーディションとか受け続けて。やっぱりウケたいっていう衝動から、お笑いを続けてきた部分はあります。
一方で、10年、15年経ってくると、そんな衝動だけでは続けられない。結局、好きじゃないと続けられないことに気づいて、今はウケたいからというよりも、好きだからやってるというほうが結局勝りましたね。
新刊『耳たぷ』はお子さんの読書のきっかけ&親子の恋愛トークのきっかけにもおすすめ
10代の頃の可愛らしい恋愛の思い出や、読むこと・書くこと、そしてお笑いへの原動力やモチベーションを語ってくださった福徳さん。新作短編小説集『耳たぷ』には、そんな福徳さんならではの視点で書かれた「恋愛」にまつわる24のお話が収録されています。
どのお話も大人なら自分の過去の恋愛を追体験でき、10代のお子さんなら自分の恋愛や思春期の悩みにも前向きになれるようなものばかり。お子さんの読書のきっかけ、もしくは親子の恋愛トーク(…!)のきっかけに、ぜひ手にとってみては。
著者:福徳秀介(ジャルジャル)|1,650円(税込)|小学館
2024年10月16日(水)発売
カバー2種(通常版・初回限定版)
※それぞれのカバー裏に別々の短編小説を収録
※初回限定版は楽天ブックス・セブンネットにてお買い求めいただけます。
【速報】福徳さんの既刊長編小説が、映画化決定!!
福徳さんによる長編恋愛小説『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館刊)が、来春、映画公開されます(2025年4月、テアトル新宿ほか全国ロードショー)。こちらも待ち遠しい!
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取材・文/羽吹理美