絵本作家の方はどのように絵本と出会い、楽しんでいるのでしょうか。
モノクロを生かした画とぬくもりのある物語で、世界的に注目を浴びる、みやこしあきこさんにうかがいました。
目次
絵本の中に入り込んだ記憶
絵本の主人公に自分を重ねていた幼少期
小さい時に読んで、一番覚えているのは林明子さんの絵本です。『こんとあき』『はっぱのおうち』が好きで、主人公の女の子に自分を重ねていました。『こんとあき』は、ぬいぐるみのこんが砂に埋もれた絵にドキッとして、ドラえもんが壊れちゃった、みたいに寂しい気持ちになりました。これは大人になってから買い直したのですが、小さい女の子がこんな大冒険をしていたのか!と、大胆なお話で驚きました。昭和を感じる背景、服装もリアルでいいんです。何より、何気ないポーズや表情が子どもそのもの。だから4、5歳の私も、自分の身の周りで起こっていると感じられたのだと思います。
『てぶくろ』も絵本の世界にのめり込む楽しさを味わった1冊。白夜みたいな空の感じが印象的で、どこか遠くのこの世界の冷たい空気まで感じていたような気がします。お話は少し怖さもありつつ、不思議な感じがするのが好きでした。
人生を変えた「よあけ」との出会い
絵本は育児のためというイメージが払拭された
絵本はずっと身近にありました。両親が教師で、父は「毎晩読み聞かせをした」と言うのですがあまり記憶がなく…(笑)。絵を描くのは昔から好きで、小学生の頃は漫画っぽいものを描いては友達にあげたら、褒められて自信が出てきて。でも当時の憧れは、スタジオジブリのアニメの影響もあってアニメーターや漫画家。
絵本作家になりたいと思ったのは、美大の予備校に通っていた時に出会った『よあけ』がきっかけかもしれません。それまで漠然と絵が好きで、仕事にできればと考えていたものの、絵本は育児のためのものというイメージがあったんです。でも本屋さんで『よあけ』を見て覆されました。テーマはシンプルなのに、めくることで展開していく絵本ならではの表現。絵本はこんなことができるのか、自分でも作ってみたいと思いました。今も私が目標にしている絵本です。
カナダ人作家との交流も生まれた「おはなをあげる」
文章はなく、限られた色だけで丁寧に描写した優しさあふれる本
『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』は美大時代に見つけて、絵のかっこよさに心を奪われました。作者のオールズバーグの絵本は最初に『急行「北極号」』を読んで、迫力のある世界観に惹かれていろいろ読みました。私の絵本デビュー作『たいふうがくる』はオールズバーグの作風、アングルなどを意識したところがあります。
『たいふうがくる』は最後にバーッと青空が広がるシーンを描きたくて、他の場面はモノクロにしました。私の場合、必要な色だけを入れて、要らないと思えば入れません。最近出会った『おはなをあげる』は色が絞られている上に、文章はなく、でも細部まで丁寧に描かれていて優しさあふれる本です。すると、驚いたことに作者のジョナルノ・ローソンさんから、私の絵本が好きだと連絡をいただいたのです。 昨年、イタリアのボローニャ・ブックフェアで、今度は絵のシドニー・スミスさんに直接お会い創作についてお話できてうれしかったです。
1枚のタブロー画から絵本を作っていきたい
シンプルで普遍的なことを言い当てている絵本を描きたい
こうして挙げてみると、自分が好きなのはどれもシンプルで誰もが共感できる普遍性があり、絵の中に没入させてくれる絵本ですよね。この二つは私にとって、とても大事な気がします。絵本を描く時は、必ず1枚のタブローからアイディアが広がります。
前に1年ほどドイツのベルリンに住んでいたことがあったのですが、路地を入ると向こうの家のリビングが丸見えだったり、一人でご飯を食べているおじいさんがいたり。一つ一つの生活が窓を通して切り取られて見えたんです。『よるのかえりみち』は架空の世界を描いてはいるけれど、これまで自分が見てきたもの、ベルリンでのことが投影されていると思います。これからも1枚の絵からイメージを膨らませて何か普遍的な大切なことを言い当てている絵本を描いていきたいです。
みやこし あきこさんのおすすめ絵本
子どものころに読んだ絵本
『こんとあき』
林明子(作) 福音館書店 本体1300円+税
小さな女の子のあきと、ぬいぐるみのこんの冒険物語。あきと一緒にドキドキしたり、子どもが自分を重ねて読めるロングセラー。
『てぶくろ』
ウクライナ民話、エウゲーニー・M・ラチョフ(絵)、内田莉莎子(訳) 福音館書店 本体1000円+税
雪の降る森でおじいさんが落としたてぶくろの中にどんどん動物たちが入っていって…。ありえない!という展開に引き込まれる。
『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』
クリス ヴァン・オールズバーグ(作)、村上春樹(訳)あすなろ書房 本体1500円+税
犬の散歩中に庭園に入った少年は魔術師と出会う。不思議な世界へ…。
『おはなをあげる』
ジョナルノ・ローソン(著)、シドニー・スミス(絵)ポプラ社 本体1400円+税
女の子が道端に咲く花を摘んで誰かにあげると小さな奇跡が起こり…。読んでいるうちに世界が美しく色づいてくる、字のない絵本。
影響を受けた絵本
『よあけ』
ユリー・シュルヴィッツ(作)、瀬田貞二(訳)福音館書店 本体1200円+税
静まりかえった湖のほとり。木の下でおじいさんと孫が寝ています。水墨画を思わせる静謐な絵で、1日の目覚めを描いた絵本。
子どもたちにおすすめ
『かしこいビル』
ウィリアム・ニコルソン(作)、松岡享子・吉田新一(訳)、ペンギン社 本体1000円+税
兵隊人形のビルは大好きなメリーの旅の荷物に入れ忘れられて大泣きするものの、全速力で追いかけます。「疾走感がたまりません!」(みやこし)
『わたしのろばベンジャミン』
ハンス・リマー(作)、レナート・オスベック(写真)、松岡享子(訳) こぐま社 本体1200円+税
女の子とロバとの触れ合いを描いた写真絵本。「ロバを拾って仲良くなる設定がひょんでおもしろい」(みやこし)
みやこし あきこさんの絵本
『よるのかえりみち』
みやこしあきこ(作・絵)偕成社 本体1300円+税
遊び疲れたうさぎの男の子は、お母さんに抱っこされて家路へ。静かな夜の街の風景がさまざまな人々のドラマを想像させてくれる。
プロフィール・みやこ しあきこ
1982年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。2009年「ニッサン童話と絵本のグランプリ」絵本大賞の『たいふうがくる』(BL出版)でデビュー。2012年『もりのおくの おちゃかいへ』(偕成社)で第17回日本絵本大賞、2016年『よるのかえりみち』(偕成社)でボローニャ・ラガッツィ賞特別賞受賞。その他の絵本に『ピアノはっぴょうかい』『これだれの?』(ブロンズ新社)、『かいちゅうでんとう』(福音館書店)、『みてみて おかあさん』(白泉社)など。11月に新刊『ぼくのたび』(ブロンズ新社)が刊行予定。
提供元 『おひさま』017年6/7月号