「1日10秒」子どもの隣に「ただ、いる」だけでいい。6000人の親子を救った「見守る子育て」の第一人者たかもりくみこさんに聞く。子どもが自分から動き出す、今日からできる「見守り方」

「早くしなさい」「勉強したの?」その一言が、実は子どもの自立を妨げているかもしれません。今回お話を伺ったのは、最新刊『ただ見守る科学的子育て』の著者であり、一般社団法人コンシャス・ペアレンツ・ジャパン代表のたかもりくみこさん 。3人の息子を一橋、慶應、東京藝大へと導いた背景には、管理を捨てて「10秒だけ」心と目を向ける、驚くほどシンプルなメソッドがありました 。18年以上、6000人以上の親子を支援してきたたかもりさんに、読者が今日から実践できる「見守り」の核心を伺いました 。

子どもの心の隣に座る。1日10秒の“見守り”

― 「1日10秒、見守るだけ」というフレーズ、親御さんには驚きをもって迎えられそうですが、具体的にはどのような関わり方なのでしょうか?

たかもりさん: 私はよく「心のベンチの隣に座るようなイメージです」とお伝えしています。どうしても親は子どもを「正しい道へ導かなければ」と、上から目線になりがちですよね。でも、正しさを押し付けられると、子どもは防衛本能でスッと心を閉じてしまうんです。

大切なのは、子どもにとって安心安全な「心の空間」をつくり、親が「ただ、いる」こと。物理的な距離ではなく、心がその子のすぐ隣にある感覚ですね。1日のうち、たった10秒でいい。ジャッジするのを止めて、その子に心と目を向ける。それだけで「つながり」が回復し、親子関係は劇的に好転し始めます。

― 「ジャッジをしない10秒」……言うは易しですが、つい「なんでできないの?」と口が出そうです。

たかもりさん:そうですよね。でも、「どうせあんたはいつも忘れるから」といったレッテルや、「もっとできるよね」という過度な期待がある限り、子どもは心を開けません。子どもが心から安心し、「親と一緒にいるのが楽しい」と感じられる空間を作ること。つまり、子ども側が「自分は120%受け入れられている」と実感できること。 それさえあれば、あとはどうにでもなります。逆にこれがないと、どこかで行き詰まってしまうんです。

たかもりさんの三人の息子さんの幼少期。性格は三人三様だったそう。

― 今日からすぐにできる「10秒の関わり方」を教えてください。

たかもりさん: 私自身も実践してきた、シンプルだけど強力なアクションが3つあります。

①スマホを置いて「おやつ」を一緒に食べる
教育的な話や「今日学校のテスト何点だったの?」などの詮索は一切なし。「これ、特売で半額だったのよ」なんて、本当にたわいもない話だけで笑い合う。そんな空気感が子どもに伝わることが大切なんです。

②「行ってらっしゃい」の瞬間に目と心を向ける
忙しい朝、つい「忘れ物ない?」とチェックしたくなりますが、それはいったん横に置いて。純粋にただそこにいる子どもの目を見て心を向けて送り出します。家事や仕事の段取りを考えたい気持ちを10秒だけオフにして、心配も圧もない「ただその子を思う時間」を作る。この10秒が、子どもの一日を支える大きな安心感になります。

③就寝前の「3つの良かったこと」の共有
寝る前に「今日良かったことを3つ」お互いに言い合う。

― 実践すると、やはりお子さんは変わっていくものですか?

たかもりさん: 私の場合、三男が小1の頃、何に対しても文句が多かったのに辟易して「良かったこと3つ」に取り組むと、2、3週間も経たないうちに普段の文句が減っていったのを覚えています。受講生の方の中には「翌日子どもが一人で朝、起きるようになった!」という方も。「自分の心の隣にちゃんといてくれている」という実感が、子どもの主体性を引き出すエネルギー源になる「究極の方法」だと思っています。脳科学や心理学的にもいくつもの効果があると言われていますし、何より、自分自身のメンタルにもとても良かったです。

親子の幸せは「つながり」があってこそ

― 「つながり」こそが一生の宝物だともおっしゃっていますね。

たかもりさん:はい。親子が「本当につながっている」という感覚さえあれば、物事は必ずいい方向へ動き出します。逆に、ここがないと、どんな言葉も想いも届きません。子どもを応援したい、良くなってほしいと願うのは親として自然なこと。

でも、もし「勉強しなさい!」が口癖になっていて、子どもの顔を見れば勉強の話……という状態なら、少し立ち止まってみてほしいんです。その口癖のせいで子どもとのつながりを失ってしまっているとしたら、それはあまりにももったいないことですから。

― なぜそこまで「勉強」に執着してしまうのか、親自身も苦しいところかもしれません。

たかもりさん:そうですね。なぜ自分はこんなに勉強させなきゃいけないと思い込んでいるのか。一度、自分を深く見つめてみてはいかがでしょうか。「自分が応援してもらえなかったから」「自分が学歴で苦労したから」といった、親自身の過去の「痛み」が原因で、無意識に子どもを追い詰めている場合もあるんです。

― たかもりさんは、お子さんが幼い頃からその「つながり」の重要性に気づかれていたのですか?

たかもりさん:長男が生後数カ月の頃、「どういう状態だったらこの子は幸せなんだろう?」と徹底的に突き詰めて考えたことがあったんです。そのとき、自分の期待や「国際的に活躍する人になってほしい」といった願望をすべて横に置いてみたら、たどり着いたのは「自分らしく幸せに楽しく豊かな人間関係の中にいること」でした。

― それは、科学的にも証明されていることなのですね。

たかもりさん: ハーバード大学の有名な長期研究でも、人生の幸せを左右する最大の要因は、年収や地位ではなく「良い人間関係」、つまり「つながり」であるとはっきり示されています。だからこそ、わが家では家庭内での成績の話をしませんでした。家庭を「評価やジャッジの場」にしない。それよりも、たわいない雑談で笑い合い、楽しく過ごす、心のつながりを最優先にするようにしてきました。

「この子は怪物」。三男に絶望したから気づけた「見守り」の大切さ

―たかもりさんが「見守る」メソッドにたどり着いたのは、三男さんの育児での壮絶な体験がきっかけだったそうですね。

たかもりさん: はい。三男は赤ちゃんの頃からとにかく怒りがいっぱいの子で、一歳半のときに一番の絶望を味わいました。児童館で他の赤ちゃんを押し倒して、泣いている子を見てヘラヘラ笑って逃げてしまう……。「そんなことしちゃダメだよ」と道徳的な注意をしても、 怒ったりすかしたり、あらゆる方法を試しても、全く響かない。上の子二人とは全く違う反応に、「この怪物のような子をどう育てればいいんだろう」と、切迫感と絶望感でいっぱいでした。

土の中に埋まって遊ぶ三男

― 「怪物」。……そこまで追い詰められていたのですね。そこからどうやって変化が起きたのでしょうか?

たかもりさん:あるとき、ふと気づいたんです。「あ、この子は私の中にある怒りに反応しているんだ」って。私のイライラや「ちゃんとさせなきゃ」という緊張感や“圧“を、彼が身をもって表現しているだけなんじゃないかと。

たとえば、それまで穏やかだったのに、礼儀に厳しい人が来た瞬間に荒れ出すことがありました。彼は、その場にある「厳しさ」や「怒り」の空気を敏感に察知して、共鳴していたんですね。それに気づいてから、「これは私の課題なんだ」と自分自身の内面を受け入れ、癒やすことに集中し始めました。すると、あんなに激しかった三男の癇癪が、嘘のように落ち着いていったんです。

― 親が変われば、子どもも変わる。それを身をもって体験されたのですね。

たかもりさん: はい。子どもの困った行動は、実は親への「幸せの招待状」のようなもの。親が自分の無意識の「地雷」に気づいて減らしていく、楽に生きられるようになると、子どもも本来の穏やかさを取り戻していくんです。

「見守る」と「放任」はまったく違う

― 「そのままを受け容れる」ことが大切だとわかっても、一歩間違えると「放任(ほったらかし)」になってしまいそうで不安だという声もあります。この二つの決定的な違いは何でしょうか?

たかもりさん: まったく違うんですよ。「放任」というのは、子どもへの関心が薄く、あっても気まぐれ。そこには温かな「まなざし」が欠けています。一方で「見守る」というのは、「主権」を子どもが持ち、その子のことを100%受け入れ、心とまなざしを向け続けている状態です。私はこれを「監視」とも区別しています。子どもに「主権」がなく、批判的でコントロールしようとするのが監視、温かく心を向けて、困っていたら手を差しのべる、のが見守りです。

― では、多くの親が良かれと思ってやってしまいがちな「逆効果な関わり方」はありますか?

たかもりさん: 最も多いのは、親自身の不安からくる「先回り」と「過干渉」です。「忘れ物はない?」「明日の準備はした?」「早く起きなさい!」。これらは一見、親切心や責任感に見えますが、実は子どもの「自立する責任」を親が奪ってしまう。親が心配すればするほど、子どもは「自分は信頼されていない」と感じて、主体性を失っていきます。

親の中にある「未来への不安」をまず、一つひとつ脇に置いてみてください。それだけで、家の空気は驚くほど軽やかになりますよ。

― 最後になりますが、今、子育てに悩んでいる読者の方へメッセージをお願いします。

たかもりさん: 私自身、今でも見落とすことはいっぱいありますし、後から子どもに「あのときこうだったんだよ」と指摘されて、「うわあ、ごめん!」となることもよくあります(笑)。でも、それでいいんだと思います。子育てというのは、子どもを立派に育てるためだけの苦行ではなく、親自身が子どもと一緒に「どうすれば自分も子どもも楽に、楽しく生きられるか」を見つけていく、幸せなプロセスでもあるはずですから。

完璧な親を目指して、焦らなくても大丈夫。今日、あなたが大切なわが子と10秒間、ただ目を合わせて笑い合えたなら、それだけで100点満点です。どうか肩の力を抜いて、今この瞬間の「つながり」を慈しんでくださいね。

※写真はたかもりさんご提供

お話をきいたのは

たかもりくみこ 一般社団法人コンシャスペアレンツジャパン代表

18年以上で延べ6,000人以上の親子を支援。自身の育児で三男の激しい癇癪に直面し「怪物のような子」と絶望した経験から、親の無意識が子に与える影響に着目。「親が内面を整えれば、子は自然と主体性を発揮する」という概念を提唱する。私生活では、3人の息子を一橋、慶應、東京藝大へと導いた。著書に、『ただ見守る科学的子育て:3兄弟が一橋、慶應、東京藝大に合格!わが子に主体性が勝手に身に付く最も簡単な方法』(Gakken)、『男の子を大きく伸ばす方法 ダメにしない秘訣』(さくら舎)『子どもが幸せに育ち自立する 頑張らない子育て』(創藝社)がある。「親自身が楽になり、子の自立が驚くほど進む」と多くの親から絶大な信頼を寄せられている。名古屋大学法学部卒。

たかもりくみこ 学研 1650円(税込)

塾なし、最小限の関わりで3兄弟を一橋、慶應、東京藝大へ現役合格させた秘訣は「1日10秒の寄り添い」でした。6000人以上の支援と、気難しい三男の育児で苦闘した著者が辿り着いたのは、管理を捨てて「心の安心空間」をつくること。朝の送り出しや雑談だけで、主体性は勝手に育ちます。親が威圧感を手放し、ただ「心の隣」に座るだけで、低コスト・省エネで子どもの才能が伸びる驚きのメソッド。子育ての不安を希望に変える一冊です。

この記事を書いたのは

黒澤真紀 ライター

愛媛県出身。大学時代まで自然豊かな愛媛で過ごし、都内の学習塾に勤務した後、2011年よりフリーライターへ。教育分野を中心に、医療やライフスタイルなどのテーマで執筆しています。息子たちが小学生の時に大学院を受験し、2019年、お茶の水女子大学大学院修士課程修了(社会科学修士)。子育てもひと段落。最近、俳句を始めました。

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