「卒乳」のタイミングはいつがベスト?卒乳後のケアは?ママが知りたいあれこれに助産師さんがお答え

「母乳はいつまで飲ませるのが正解?」こんな疑問を持つお母さんは少なくないはず。今回は、誰もが悩む「卒乳」についてのお話を助産師・岩佐寛子さんに伺いました。

卒乳と断乳(計画的卒乳)の違いって?

赤ちゃんが自らおっぱい(母乳)から離れていくことを「卒乳」と言います。一般的に「断乳」とは、お母さんの都合でおっぱいを断つことを言います。「断乳」というとお乳を絶つという表現で、赤ちゃんにとっては厳しい表現に、お母さんにとって少し心苦しい表現になるかもしれませんね。なので、最近では「計画的卒乳」と言ったりもします。そのタイミングには個人差があるので、赤ちゃんの成長や時期を見極めて進めていきましょう。

母乳育児の意味

母乳は、新生児の発育に伴い、日ごとに変化していき、初乳から移行乳そして成乳へと移行していきます。エネルギー消費が盛んになる赤ちゃんに対応できるような組成(そせい)に変化し、母乳成分濃度もほぼ一定となります。「1歳を過ぎたら水とほぼ同じ」という噂もあるようですが、実験で母乳が出なくなるまで成分はほぼ一定の数値を保っているという結果も出ています。母乳は、栄養面以外にも大切な意味があります。授乳でのスキンシップで子どもの心の安定を作り出し、「自立」の基盤を作っていくことにも繋がります。無理に辞めさせてしまうことは、子どもに過度なストレスを与える事になってしまいますので、成長やタイミングを見極めることが大切です。

夜間授乳は虫歯につながる?

夜の授乳が虫歯に繋がるというお話もありますが、母乳の成分が虫歯を作ることはありません。その理由は離乳食などの食物が歯に付着して、ミュータンス菌(虫歯菌)がついた状態に母乳が来ると、母乳のpHは6.6~6.8なので酸が産生されて脱灰が起きるのです。お口のお手入れが悪いと再石灰化が起こらず、虫歯になってしまいます。だから寝る前にしっかり歯磨きをして、お口のお手入れさえよければ母乳を飲ませていても虫歯にならないと言われています。寝る前のお口の中を清潔にすることを忘れないようにしましょう。

何歳ごろ卒乳を考えればいい?

0歳代での「卒乳」もありますが、その場合、お母さんの母乳の量の減少や病気などのやむを得ない理由が多く、一般的な目安としては、1歳半〜2歳頃です。WHOは、2歳以上かそれ以上までの母乳育児を続けることを推奨していますが、お母さんが「そろそろ卒乳の時期かな?」と思える時がそのタイミングだと思いますので、周りに合わせる必要はありません。

卒乳のメリット・デメリット

卒乳をすると食事の量が増えて、夜もぐっすり眠るようになると言われていますが、それは一般的なことで、卒乳したからと言って食事量が増えなかったお子さんや、それまで食べていたものも食べなくなってしまったというお子さん、夜泣きをしてしまうというお子さんもいますので、食事量UPや夜間睡眠を目的にして卒乳するのは控えましょう。

卒乳前にここをチェック!

【子ども】

・体調は万全か

・離乳食が進み、母乳やミルク以外でも栄養を摂ることはできているか

・ストローやマグやカップを使って飲み物が飲めるか

 

【お母さんや家族】

・お母さんや家族の体調は万全か

・お母さんの乳房の状態は整っているか

・覚悟は揺るぎないか(後悔しないか)

・イベントと重なっていないか

・家族の協力が得られる時期か

 卒乳には家族(特にお父さん)の協力が不可欠

卒乳には、お子さんはもちろん、家族の協力も重要です。家族みんなが健康で、協力を得られるタイミングを見つけましょう。「卒乳」では、お父さんが頼りになります。「パパが子どもと一緒に別室で寝てくれた」「泣いたら気分転換にドライブに連れて行ってくれた」「抱っこしてくれたので助かった」という声を多く聞きますので、協力してもらえるように相談しておきましょう。お母さん一人では体力的にも大変なので、ぜひお父さんにも協力してもらってください。

卒乳のタイミング

頻回授乳のタイミングで「卒乳」をしてしまうと、赤ちゃんも今まで何度も飲めていたものが飲めないことでストレスを感じてしまいますし、お母さんの乳房も母乳をたくさん作り出している状態でやめる事になるので、乳房のトラブルに繋がってしまう恐れもあります。昼間は遊びに集中できる時間を作り、授乳回数を減らして卒乳にもっていきましょう。

保育園入園直前はおすすめしない

「卒乳」のご相談が一番多いのが、お子さんが保育園へ入園される前のタイミングですが、入園ギリギリのタイミングだと、新しい環境に慣れることと重なってしまうので、少し前か、入園して落ち着いた頃を計画してみましょう。

実家は意外な落とし穴!?

実家に帰省して「卒乳」をしようとする方もいるようですが、「孫を泣かせるのはかわいそう、母乳を飲ませたら?」「こんなに泣くならまだ早いんじゃない?」というおじいちゃん・おばあちゃんがいて、全面協力してもらえなかったという例も。実家での「卒乳」は意外にも難しいようです。

 親も子も幸せな卒乳計画とは?

突然卒乳に入ると、子どもも戸惑いやすく、不安になってしまうこともあります。逆に真剣に説明し過ぎても、もう二度とおっぱいが飲めなくなってしまうという不安をあおる事にもなってしまうので、さらっと「〇日になったらおっぱいバイバイしようね」と説明しておきましょう。

【卒乳計画親子編】

  • 1ヶ月くらい前からお子さんに説明しましょう
  • 1〜2週間前から、1日1回カレンダーにシールを貼っていきましょう
  • 規則正しい生活をしましょう(日中は体を使ってしっかり遊ばせましょう)

【卒乳計画ママ編】

  • 卒乳1週間くらい前から、あっさりとした和食を心がける
  • すぐに食べられる食事を準備しておく
  • 規則正しい生活で体力をキープ

カレンダーに「卒乳」の日まで毎日シールを貼ってカウントダウンしていきますが、これもあまり早くからやり過ぎると忘れてしまったり、不安をあおる事になってしまうので、1〜2週間くらい前から始めるのがオススメです。また、日中は遊びに集中できるように規則正しい生活を心がけ、なるべく夜はぐっすり眠れるようにたくさん体を動かしておくと良いでしょう。

お母さんは「卒乳」の日に向けて、あっさりとした食事を心がけ、母乳がたくさん作られてしまうようなメニューは避けておきましょう。

卒乳後のおっぱいケア

「卒乳」に向け、一日の授乳回数が減ってくると、母乳が作られる量も徐々に減ってきますが、突然母乳が出なくなるわけでは無いので、お母さんはおっぱいケアが必要です。

卒乳当日~3日後

「卒乳」当日から1~2日目が乳房の張りがピークになります。そんな時には乳房を両手でおにぎりを握るようにして外側から軽く圧をかけるようにして母乳を搾り出しましょう。おにぎり搾りは大さじ1杯程度が目安です。乳房が張ってつらい時におにぎり搾りを行いますが、あまり搾りすぎると乳汁分泌が収まらないので、搾りすぎないように気をつけましょう。

卒乳3~5日後

「卒乳」から3〜5日後は、乳房が軽くなるようにすっきりするまで搾りましょう。自分では搾り切れないこともありますので、助産師に卒乳ケアを受けることも1つです。

卒乳2週間後

個人差があると思いますが、一般的には「卒乳」から2~3週間くらいで母乳は出なくなりますので、その頃に再度スッキリ搾るようにしてください。ただ、半年~1年くらいは母乳がにじむ程度出る人や、人によっては1年以上出る場合もあるなど、完全に止まるまでには個人差が大きいです。

卒乳にまつわるウソ・ホント

キャベツ湿布・じゃがいも湿布って意味はあるの?

おっぱいが張っているときに痛みをやわらげるために、キャベツやじゃがいもを湿布がわりに使うという方法もあるようですが、おばあちゃんの知恵袋のようなものですね。今は保冷剤で大丈夫です!タオルやハンカチに保冷剤をくるみ、ブラジャーに挟んで冷やすのも良いでしょう。最近ではおっぱい専用の保冷剤も販売していますので、そういうものに頼ってもいいと思います。

母乳が残るとがんになるって本当?

「卒乳」後のおっぱいケアを怠ると、乳房のトラブルのリスクが高くなります。母乳の残りが乳房の中で石灰化することはあります。それが乳がんになるという噂もありますが、乳汁の残りが乳がんになることはありません! ただ、石灰化することで乳がん検査の時にがんが発見しにくくなるということはあるので、石灰化しないためにもしっかりケアしておきましょう。

 おっぱいにわさびやからしを塗る人もいますが?

お母さんのおっぱいにからしやワサビを塗ったり、絆創膏を貼ったり、怖い絵を描いて無理矢理に「卒乳」するという方法を試す方もいるようですが、それは子どもの人権侵害になる行為だと私は思います。大好きだったおっぱいが突然からいものや怖いものに代わってしまった時の子どものショックや悲しみを考えると、かわいそうおすすめできません。何ヶ月のお子さんでも事情を話せばわかるものです。言葉で説明していきましょう。お母さんとお子さんがお互いに納得して、自然に「卒乳」できる方法を考えていきましょう。

妊娠したら卒乳した方がよい?

「卒乳」を考えるタイミングで多いのは、お母さんの妊娠のタイミングです。授乳期間中に妊娠すると、授乳が子宮を刺激して流産に繋がるという噂があります。授乳が流産に直接的に繋がることはありませんが、もしも授乳を続けていて流産をしてしまった時、お母さんは自分を責めてしまいがち。自分を責めないためにも、妊娠を考える前に「卒乳」を選ぶのも自分や赤ちゃんのためかもしれませんね。

子育てに困ったらぜひ近くの助産師さんを頼って

私たち助産師は、日本助産師会という組織に所属しています。ご自分のお住まいの地域の助産師会のホームページを見ていただければ近くにいる助産師を探すこともできます。今回のような「卒乳」のご相談はもちろん、育児のお悩みなども気軽に相談してくださいね。

■日本助産師会

■東京都助産師会

■助産師マップ

記事監修

公益社団法人日本助産師会 助産師・マタニティヨガインストラクター ・
東京都助産師会世田谷目黒地区分会 役員
岩佐 寛子

広島出身。総合病院で助産師勤務をした後、看護学校で教職に就く。その後、夫の転勤で神戸、そして東京に上京。神戸と東京の助産院で数年間勤務した後、現在は世田谷区立産後ケアセンターに勤務。

長年助産師として、新しい命をはぐくむ女性が妊娠・出産・子育てに向き合っていけるよう気持ちに寄り添いながら活動している。また、東京都助産師会いのちの教育委員として性教育を広める活動をしており、保育園児から小中高校生、保護者向け、教職員対象の性教育を行っている。11女の母。

世田谷区おでかけ広場 古民家mamasと特定非営利活動法人 ここよみ のホームページ

 

文・構成/鬼石有紀

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