2020年より「プログラミング教育」が小学校で必修となります。「コンピュータを授業に取り入れるの?」「プログラマーになるための勉強をするの?」など、一体、何をやるのか? と思っている保護者の方も多いようです。
文科省の新学習指導要領によれば、実際に「プログラミング」という科目ができるのではなく、教科学習の中に「プログラミング」の要素が取り入れられるということ。「プログラミング的思考」を育むことがその狙いとなります。
では、その「プログラミング思考」とは何か? プログラミングブロックMESH(メッシュ)を使った「インクルージョン・ワークショップ」で、そのヒントを探りました。
目次
もともと大人向きに開発されたMESHが、プロムラミング教育の教材として注目されている理由
MESH(メッシュ)とはMake、Experience、Shareの略で、プログラミング言語を知らなくても誰でも簡単にデジタルなものづくりができる「次世代電子ブロック」です。
MESHブロックは、それぞれLED、ボタン、人感、明るさ、動きなどの機能を持っていて、無線でMESHアプリ(タブレットなどのディバイスにダウンロードする)につなげ、アプリ上でブロックを組み合わせることで、さまざまなアイデアを実現することができます。
2015年に発売されたMESHは、ソニーのスタートアップ創出と事業運営を支援する「Sony Startup Acceleration Program(ソニー・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム)」から生まれ、もともとは大人向けの実用商品として開発されました。
例えば、湿度・温度センサーのブロックを使って、植木鉢への自動水やり機を作ったり、人感ブロックを使って薬の飲み忘れ防止機能付きボックスを作ったり。自分のアイデアで生活を豊かにしてもらいたいというビジョンのもとに企画が進み、商品化しました。
「あったらいいな」というアイデアを形にする。しかも、今さまざまな分野で耳にすることの多い「IoT(アイオーティ)」(モノ・コトのインターネット化)を活用して、電子工学やプログラミングの知識がなくても、簡単にその仕組みを作ることができるとあって、MESHはプログラミング教育分野からも注目が集まるようになりました。
インクルージョン教育プログラム・MESHを使ったワークショップをのぞいてみた
MESHと身近なものを組み合わせて、“あったらいいな”を形にするプログラミング的思考を体験
このMESHを使ったワークショップが定期的に開催されています。中でも人気なのが、ソニーの科学教育支援活動「ソニー・サイエンスプログラム」が実施している「インクルージョン・ワークショップ」です。全社員の約70%を障がいのある社員が占めるソニーの特例子会社、ソニー・太陽株式会社が運営し、障がいのあるなしに関わらず、ものづくりの楽しさや興味を深め、相互理解を深めようという子ども向けのプログラムです。
秋も深まる某日。東京・品川にあるソニー本社ビル1階のクリエイティブ ラウンジに、小学生11名と付き添いの保護者が集まりました。講師や各班のテーブルを担当するソニー・太陽の社員の中には、発達障がいなどの障がいを持つ社員もいます。車イスや聴覚障がいを補完するツール(音声文字変換アプリ)を使うなどして、子どもたちをサポートします。
プログラムの目的は、「MESHと身近なものを組み合わせて、もっと便利なもの、もっとおもしろいものをどうしたら作れるのかを考え、それを実際に形にして、プログラミング的思考を体験してもらう」こと。
講師が子どもたちに投げかけます。「プログラミングってどういうことかわかる? 簡単に言うとね、コンピュータに動いてもらうための命令と手順を伝えることなんだ。例えば、自動販売機を思い浮かべてみよう。お金を入れると、商品ボタンのランプがつく、そしてボタンを押すと、商品が出てくる。これはすべてプログラミングされているんだよ。何々をすると、何々をする。これをコンピュータに伝えるのがプログラミングです」
箱やコップなどの素材にMESHのブロックをつけて、オリジナル機能のものづくり
では、MESHでは具体的にどのようなことができるのか。参加者に用意されたタブレットのアプリで、仕組みを作っていきます。
例えば、「ボタンを1回押すと、LEDが光る」だとすると、ドラッグ&ドロップのタッチ操作で、条件設定やプログラミングを行い、無線でMESHと繋げればOK。ボタンのMESHを押すと、LEDのMESHが光りました。
参加している子どもたちは、タブレットをサクサクと操作して、感覚的にノウハウをつかみ取っていきます。周りの大人の方が頭で理解しようとするからなのか、「?マーク」が浮かんでいるようです。
「このMESHの機能を使って、便利なもの、おもしろいものを作ってみよう。例えば、僕はこんなものを作ってみましたよ」と、講師が動きセンサーのMESHを取り付けたコップで水を飲もうとすると、タブレットのスピーカーから「飲んじゃダメ!」と声が飛び出してきました。
「まずは“あったらいいな”を想像して、タブレットで仕組みを作って、MESHをつなげて、身近にある箱やお皿などを使って、実際にその物を作ってみましょう。失敗したって大丈夫! 何度でもやり直せばいいんだから、たくさんチャレンジしてください」と言う講師の言葉を合図に、子どもたちが夢中になってタブレットに向き合い、あらかじめ用意されていた箱やコップなどの素材から好きなものを選び、MESHをくっつけたりして、頭と手をせっせと動かしています。
シンプルな仕組みのMESHの展開と可能性は無限大。
さて、子どもたちはどんな作品を仕上げたでしょうか。
「箱を開けると、声が出る」
「ラケットを振ると玉を打つ音が出る」
「動かすと目が光って鳴き声を出す恐竜」
「ゴミを感知するとベルが鳴り、ゴミ箱へ入れると拍手が起きるゴミ箱」
「帰宅して入れ物を振ると、両親にメールで帰宅を知らせる仕組み」
などなど。個性豊かで楽しい作品を、1時間ほどで完成させ、発表してくれました。あっという間に楽しいものができあがり、子供たちも大満足の様子。
教材として取り入れている学校現場も
「こんなものがあったらいいな」「楽しいな」「便利だな」というイマジネーションからスタートし、次に、それを実現させるためのディテールを理論的に構築し(ゴミを入れると拍手が起こるなど)、実際にMESHを搭載してものを作り上げていく。MESHそのものはシンプルな仕組みなだけに、展開と可能性は無限大。右脳と左脳をバランスよく使えそうだなと感じました。
「例えば、小学校の総合学習の時間に、クラスの問題や困っていることを取り上げて、それを解決するものをMESHで作ってみるなど、いろいろな教科に取り入れていただけると思っています。すでに、MESHを教材として採用をしている学校現場も増えつつあります」とは、ソニー株式会社広報・CSR部CSRグループの岡田康宏さん。
ものづくり楽しさ、プロセスにおけるワクワク感、トライ&エラーを繰り返しながらの発見。机上の空論に終わらないMESHを使ったプログラミング教育が、子供たちの「好き」を引き出して伸ばすきっかけになるかもしれません。
取材・文/神﨑典子