日本のママパパへどうしても届けたい本
昨年の発売以来、口コミでママパパにどんどん読まれて話題になっている本をご存知ですか。その本がこちら、『世界最新メソッドでお金に強い子どもを育てる方法』。
「親が変われば、子どもも変わる。親が学ぶことで、子どもの未来が変わります。この本は、日本のお父さん、お母さんへのメッセージです」と語る酒井レオさん。日本人の両親を持ち、ニューヨークで生まれ育った日系アメリカ人で、この本の著者です。
今回は、この本をなぜ日本のママやパパに届けたいのか、アメリカから帰国中の酒井さんに直接お会いして、たっぷりお話を伺いました!
お金に強くなる前段階は、親子のコミュニケーション
酒井さんは2007年、アメリカのメガバンク「バンク・オブ・アメリカ」で史上最年少にして「全米ナンバー1」の営業成績を達成し、30代前半でVice President に就任しました。その背景には、酒井さんを裕福なユダヤ人のコミュニティのなかで育てながら、常に「世の中の仕組み」について問い続けた両親の教育方針があったと振り返ります。
著書のテーマは「お金に強くなる」ですが、酒井さんの言葉で気づかされたのは、その前段階としての「親子のコミュニケーション」の重要性。酒井さんが育った環境は特別ですが、日本で子育てをしていても、参考にできそうなことがたくさんありました。
子どもにお小遣いをあげないユダヤ人
―酒井さんが育った地域はどんなところだったんですか?
僕が住んでいたのはスカースデール(ニューヨーク州ウェストチェスター郡)というところで、ユダヤ人をはじめとした富裕層や、駐在員のトップ層も住んでいるエリアですね。その地域は税金も高いのですが、両親の「ベストオブベストの環境に身を置くことによって差が生まれる」という考えで、幼稚園から高校まで現地校で過ごしました。僕が通った地元のスカースデール高校は、公立だと常に全米トップ5に入るような学校です。
―調べてみたら、スカースデールの住民には「学校税」という特別な税金が課されているそうですね。それが学校に投じられているから、質の高い教育が受けられる。
はい。でもアメリカの場合、私立のほうが教育レベルが高いし、圧倒的にエリートが多いんです。だから、自分たちがトップという感じはしないんですよ。子どもでも、上には上がいることを理解していますから。
ただ、大人になってから、スカースデールに住み、スカースデール高校に通ったことは、自分の人生においてとても大きなポイントになっていると気づきました。銀行で働き始めて、「どこで育ったの?」と聞かれた時に、信頼感が違うんです。
―お金について意識するようになったきっかけを教えてください。
ユダヤ人は、基本的に子どもにお小遣いをあげません。「お金は労働の対価として得られるもの」という考えからで、子どもの頃は家の掃除や洗濯の対価として小銭を稼ぎます。アルバイトができる16歳になると、裕福な家の子どもでもスーパーでレジ打ちをしたり、レストランで給仕をしたりします。僕の両親はユダヤ人の考えを取り入れていたので、僕もお小遣いを稼ぐために家の手伝いをしましたし、アルバイトもしました。
あと、ユダヤ人には男子13歳、女子12歳で成人を迎えるという考えがあり、「バル・ミツバ」という儀式があります。日本の結婚式のように家族、親戚、友人を呼んでパーティーをするんですが、その時に数百万円の祝い金を手にします。そこで親が子どもに聞くんです。「大学に行くために残してもいいし、株を買ってもいい。どうしたい?」と。
金持ちのボンボンにならないために
―それは確かに、子どもの頃からお金についてじっくりと考えざるを得ませんね。酒井さんはどんなアルバイトをしていたんですか?
13歳の時、両親から「自分で使うお金は自分でどうにかしなさい」と言われたので、サッカー部の先輩にどうやったら稼げるか教えてもらって、ゴルフ場でキャディーを始めました。アメリカは私立のゴルフ場だと法律が違うから、16歳以下でも働けるんですよ。
時給制ではなく、指名されないと稼げないので、朝5時に起きてゴルフ場に行って、ほかのキャディーと一緒にお客さんから指名されるのを待ちます。経験のある人たちはガンガン呼ばれて、アジア人で子どもの僕にはなかなか声がかかりません。
でも、両親には「アジア人で辛いと思うけど、それでもちゃんと仕事に行って職場の人とコミュニケーションを取ればなにかの勉強になるよ」と言われていたので、待ち時間は本を読むか、ほかの大人のキャディーと話をしていました。いろいろな人種の人から面白い話を聞けたし、誰とでも話せるようになったので、それだけでキャディーのバイトをした価値がありました。両親は、僕が「金持ちのボンボン」にならないように、あえて、富裕層の子がしたがらないようなことをさせたんだと思います。
食卓での質問攻め
―きっと「お金」以外にも伝えたいことがあったんでしょうね。著書には夕食時、上手に会話のキャッチボールをするためにスモールトークのレッスンをしていたとありました。
そうですね。うちの家は昔から「今日、誰々と遊んできた」みたいな普通の会話はあまりなくて、とにかく質問されます。例えばレストランに行った時に、「なんで牛肉は鶏や豚より高いと思う?」「このメニューはなんでこの値段になると思う?」「自分がこのお店経営するとしたら、どのコストを削る?」とか。
自宅での食事も同じです。僕がサッカーをしていたので、「ベッカムってなにがすごいの?」と聞かれたら、答えますよね。そこから始まって、ベッカムの給料がいくらか、時給でどれくらいもらっているかとか、お金にまつわる話に膨らんで、計算してみたり。
―食卓で会話が少ない家庭もあると思いますが、酒井家のような会話なら家族で楽しめそうですね。
両親はいつも、僕が興味を持ちそうな話題を振って、僕に喋らせていました。両親も答えを知っているわけではないから、一緒に考えるんです。こういう会話をしているといろいろなことについて考えるきっかけになるし、興味の幅も広がって面白いんですよ。 そのうちに、質問されなくてもあれこれ自分で考えるようになりました。
コミュニケーションの積み重ね
―ご両親は、お金という世界共通で生きていくために不可欠の指標を使いながら、「自分の力で考える力と習慣」を磨いてほしかったのかもしれませんね。
そうかもしれません。大学に入ってひとり暮らしを始めてから、親元を離れてラッキーと思って、少し怠けていたんですよ。そうしたら数カ月後、父親から「お前にわざわざ言うことじゃないと思うけど、大体1クラスにどれくらいのお金がかかってるか、知ってるよね?」と聞かれました。それで計算し見たら、オーマイガー!(笑) 俺はどれだけのお金を無駄にしてたのかって思って、それからまじめに授業に行きました。
―幼い頃から積み重ねた親子のコミュニケーションの成果ですね。
お金って汚いものじゃなくて、生きていくために必要なものですよね。使い方によっては、自分への投資にもなる。日本ではお金の話を避けることも多いけど、まずは大人がお金の価値や世の中の仕組みについて学んで、子どもたちに伝えてほしいと思います。大切なのは、親子のコミュニケーション。僕の本に書かれていることを表面的に実践しても、親が子どもと向き合っていなければ、あまり効果は期待できないと思います。
★まだまだたっぷり伺います。インタビュー後編をお楽しみに!
PYDJapan公式ウェブサイト http://www.pyd.jp
取材・文/川内イオ 撮影/五十嵐美弥 構成/HugKum編集部