「親が変われば、子どもも変わる。親が学ぶことで、子どもの未来が変わります。この本は、日本のお父さん、お母さんへのメッセージです」と語る酒井レオさん。日本人の両親を持ち、ニューヨークで生まれ育った日系アメリカ人で、この本の著者です。今回は酒井さんのインタビューの後篇です。
インタビューの前篇はこちら↓
世界で活躍するためには、具体的にどういう子育てが必要?
アメリカのメガバンク「バンク・オブ・アメリカ」で史上最年少にして「全米ナンバー1」の営業成績を達成し、30代前半でVice President に就任した酒井レオさん。
その後、アメリカでNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立し、日米でビジネスコミュニケーションスキル向上のためのプログラムを提供しています。また、ボランティアでサッカーのコーチとして、約1万人の子どもたちを指導してきました。
後編では、酒井さんの著書『世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』をベースに、日本とアメリカで幅広い層とかかわりをもつなかで見えてきた「世界で活躍する人材」について、お話を伺いました。
親子の距離感への違和感
―親と子どもの関係で、日本とアメリカで共通していることはありますか?
日米ともに、今の親は子どもと距離が近すぎると思います。毎日、毎日、「今日、学校はどうだった? 先生とどんなこと話したの?」と聞くし、心配してあれこれ口を出すじゃないですか。僕が思うに、それを子どもたちは嫌がっているし、そのせいで病んでいる子もいると思いますよ。
サッカーに関して言えば、どの人種だろうが伸びる子はみんな同じです。いい選手の親は子どもとの距離の取り方が上手で、試合を観に来ても一言、二言、感想を言うだけで、あとはコーチに任せてくれる。
–過干渉ということですね。
モンスターペアレンツって日本から始まったわけじゃないだろうし、世界中の問題だと思います。周りの目を意識して、自分がどれだけ「いい親」をしているのか、アピールしたがってるんだと思います。でも、それが本当に子どものためを思ってのことなのか。
自分たちが疲れているからって、これで遊んでてと言って、子どもにタブレットやスマホを渡してほったらかしの親もいますよね。そういう姿を見ると、すごくアンバランスな気がします。
マーケティングに負けないために
―酒井さんは著書のなかで「0歳からスマホOK」と書かれていましたが、それとこれとは意味が違いますよね。
はい。自分が楽するためにスマホを渡すのと、子どもの成長のために許可するのはまったく意味が違います。
今の若い子たちがなんでスマホの操作が上手いかというと、触わり始めた時期が早いからじゃないですか。今、アメリカの2、3歳の子どもたちがテレビをつけるときは、スマートスピーカーに「Alexa play TV」と言っていますよ。若い子たちの方が圧倒的にいろいろなものを早く吸収できるんだから、その機会を与えるのは親の責任だと思いますね。
―子どもがスマホやタブレットに依存する、しないはまた別の問題で、それは親がコントロールするべきことですよね。
その子の成長を思えば、子どもに我慢を教えるのもすごく大切なことだと思います。僕が子どもの頃、なにか欲しいものがあった時に、母から「1ヶ月経ってもまだ欲しかったら、その時は話し合おう」と言われていました。そうすると、だいたい忘れちゃうんです(笑)。そこまで欲しいものじゃないから。
スーパーに入ると、その店のマーケティング戦略やお菓子の配置について説明されて、「お店の作戦に負けてお菓子を買うかどうか、人間の弱さが試されている」と教えられました。そういわれると、負けたくないと思って、我慢できたりするんですよね。
―社会の仕組みから説明するんですね。
人の脳ってちゃんとガイドしてあげたらそこそこ強くなっていくと思いますし、ある程度までいくと、自分で判断できるようになりますよ。中学生になると親との会話も減ってくると思うので、小学生までにその子の芯を作ってあげられればいいですね。
質のいい情報を得るために必要なこと
―著書のなかで、お金について学ぶと同時に、詩と絵本を読み聞かせることも大切だと書かれていたのは意外でした。
アートってすごく重要だと思うんですよ。数学はロジックでいいと思うんですけど、アートはクリエイティビティ。意識的にアートに触れることで感情が豊かになるでしょうし、偏らないんじゃないかなって。絵本も詩も短いから、子どもの負担にもならないし。
―子どものクリエイティビティを育てるために、言葉の力を学んだ方がいい?
そうですね。本を読んで過去の人たちのことを知ることで「自分の色」「自分のスタイル」を探す時にも役立ちます。自分と似たような感覚を持っている人は必ずいるので。
―酒井さんはどんな本を読みましたか?
父親が本を読む人間で、実家に1万数千冊本あったので、気になる本を手に取って読んでいました。有名な本とか学校がこれを読んでくださいと勧める本は、僕にはあまり刺さりませんでしたね。
―今はインターネットを使えば無料で情報が手に入る時代ですが、子どもの成長のためにも、読書は必要だと思いますか?
子ども大人も大切だと思います。僕は、成功していて本を読んでいない人に会ったことがないんですよ。みんな、トイレにも本や雑誌が置いてありますから(笑)。
賢い人は、なにかを得るために対価を払って情報を得ています。そして、人との差を生むのは情報の質なんです。インターネットに無料で公開されているものは誰も読めるし、それほど価値がある情報とは言えません。
それに、成功者はたくさんの人に会って、情報を得ています。でも、普通に生活をしていたら、人に出会う数が少ないと思うんです。そういう人が質のいい情報を得るために近道なのが、本を読むことだと思います。
決めつけず、聞いてあげる
―その質のいい情報を親子でシェアすると、良い循環が生まれそうです。
そうですね。うちはいつもオープンに議論をしてきました。僕と父親との会話を他の人が見ると、「喧嘩しないで」と言われるんですけど、普通に喋っているだけ。みんな、嫌われたくないから綺麗なことを言うけど、父親だから言えることもあるじゃないですか。
「親しき仲にも礼儀あり」ということわざを聞きますけど、家族の間でオープンであることがそんなにいけないことですか? そういうところは、子どもを想う愛の強ささえあれば乗り越えるんじゃないですかね。
―酒井さんのお話を聞いて、親子のコミュニケーションについて考えさせられました。
はい。無駄に声をかけるのではなく、子どもに質問して、ボディランゲージを含めて反応をよくみてあげてください。そのなかで、子どもが本当に興味を持っていることもわかると思います。大切なのは、決めつけないで聞いてあげる力。そうすることでそれぞれの特徴を見極めて、サポートするのが親の仕事だと思います。僕は、日本の親が変わったら、日本は良い意味で変わると思いますよ。
PYDJapan公式ウェブサイト http://www.pyd.jp
取材・文/川内イオ 撮影/五十嵐美弥 構成/HugKum編集部