松丸亮吾さんによる対談連載、第3回のゲストは、ゲームを学習に取り入れる「ゲーミフィケーション」の研究者、東京大学の藤本徹先生。前編では、お2人のゲームでのダイエット体験とゲーム学習論の具体例、中編ではゲームをやることで培われる力について語っていただきました。後編では、ゲームを規制することの是非と、家庭でできるゲーム学習論について語ります。
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「18歳未満はゲーム1日60分まで」の規制は正しいか?
子育て中の親にとって、日常のなかでゲームの扱いは常に悩みの種だと思います。今年3月18日に香川県議会で成立(4月1日から施行)した「18歳未満はゲーム1日60分まで」という条例についてどう思いますか?
松丸 数年前からテレビで「ゲーム脳」や「ゲーム依存症」という言葉が取り上げられて話題になったこともあって、子育て世代の間でゲームに対して悪い印象が広まってしまったと思うんです。世論に敏感な政治家もそれに影響されてしまった結果だと思います。
もちろん、依存症という言葉がある通り、どんなことでも時間をかけてやりすぎるのは悪いことでしょう。でもそのバランスを考えるのは国じゃないし、一律で一時間という規制はちょっと違うんじゃないかと。
藤本 知らないから怖いというのもあると思うんですよ。ゲームをやらない人は、子どもがなにをやっているかさっぱりわからない。だから、自分が理解できないことにはまっていることに不安を抱く。そうなると、悪い話にばかり注目してしまう。2019年にWHO(世界保健機関)が「ゲーム依存症」を障害として認定したこともあって、ゲームは怖いというイメージが加速したんだと思います。それで、怖いものは規制するという流れですね。
親も子どもと一緒にゲームをやって、もっと知るべき
松丸 「知らないから怖い」というのは核心を突いていると思います。僕もよく親御さんから相談されるんですけど、ゲームについて不安を抱いている人ほど、ゲームをやったことがないですよね。無知なことに関しては語りえないと思うので、ゲームについて不安なら、まずはお子さんと一緒にやってみてほしいです。そうしたら、なにが楽しいかわかるかもしれないし、意外に頭を使うゲームだと感じるかもしれません。
藤本 ゲームについては世界中で研究が行われていますが、良いと言いたい人は良いデータばかり集めるし、悪いと言いたい人は悪いデータばかり集める(笑)。お酒が体に良い悪い、というのと同じです。ただ、現時点でハッキリしているのは、科学的にゲームそのものを「決定的に良いとも悪いとも言い切れないけど、良くなるように使うことはできる」ということと、ゲームに限らず「なにごともやりすぎはよくない」ということ。
もし、子どもと一緒にゲームをするのが難しければ、子どもが好きなゲームについて興味を持って話を聞いてみるだけでもいいと思いますよ。なにを楽しんでいるのか理解しようという姿勢をもってコミュニケーションを取れば、不安な部分はなくなると思います。
松丸 まったく同感です。
「勉強は苦行じゃなきゃいけない」という考えから目を覚ませ!
藤本 今は、危ないとか汚れるとかいろいろな理由で、子どもたちが森の中で昆虫採集をしたり、砂場で遊んだりする機会が減っています。その時代に、昆虫採集的な要素があるポケモンや、砂場で遊ぶような感覚の『マインクラフト』(ブロックで構成された世界で冒険や建築などを楽しむ世界的人気ゲーム)が人気になっています。
子どもたちが外でできなくなったことを、デジタルゲームの世界でカバーしている一面もあるんですよ。ゲームはすべて駄目だと言ってしまうと、子どもたちの遊びの機会自体を減らしてしまう。
世界的にも「ゲームは悪」というイメージが浸透しているんでしょうか?
藤本 どこにでも、ゲームをやりすぎると暴力的になるとか、頭によくないと主張する人がいますが、必ず別の研究者によってその証拠が正しくないという反証がなされています。むしろ、学習にゲームを使う流れは加速していて、アメリカやヨーロッパは既に大きな市場ができていて、アジアだとシンガポールや韓国もゲームを使った教育に投資をしています。
例えば、町づくりゲームの老舗『シムシティ』は学校の先生向けの教育用ガイドブックや授業で使える追加コンテンツを提供しています。文明を発展させる人気ゲーム『シヴィライゼーション』も教育コンテンツのパッケージを出していますし、『マインクラフト』の教育版も欧米の学校で導入されています。
松丸 それは楽しそうですね! 日本だと「勉強は楽しんでやるものではなく、苦行じゃなきゃいけない。つらいとか大変だという経験を通して忍耐力が養われるんです」と言う人がいて、そういう人たちは、楽しく勉強することが許せないんですよね。
本当に、目を覚ましてください! と言いたいですね。
楽しく学べるならそっちのほうがいい
藤本 苦行に耐えて結果を出せた人がそういうことを言うんですよね。スポーツの指導者にも多いんです。いわゆる精神論で、苦行に耐える、我慢することを美徳にしている。でも、苦行に耐えられずに勉強やスポーツが嫌いになる人も多いわけです。自分が苦しかったんだから次の世代も同じように苦しむべきだ、じゃなくて、自分がした苦労を次の人がやらなくて済むように考えること。そうして社会が健全に発展していくんだと思います。
僕は、我慢しなくて済むならしなくていいと思うし、楽しく学べるならそっちのほうがいいし、教えなくても自然に学べるならそっちのほうがいいと思うんです。それが、ゲーム学習論の研究を始めた理由でもあります。
ゲーミフィケーションを家庭に取り入れる!
松丸 僕の両親はゲーム学習理論的な考えをしていました。僕は子どもの頃からゲームが大好きだったので、うちの親はゲームを使って勉強をさせる方法を考えたんです。最初はゲーム1時間制限があったんですけど、それだと1時間やったら満足して、必ずしも勉強をしない。それで発想を変えて、勉強を3時間やったら、ゲームはいくらでもやっていいというルールにしました。そうしたら、僕はゲームがやりたいので、朝早く起きて1時間勉強して、学校で昼休みにも1時間やって、帰ってきてから1時間やるようになりました。そうしたら日が暮れる前からゲームができるので、なんて最高なんだって思っていましたね。
藤本 それは素晴らしい! こうやればどんな子でもゲーム的に勉強できるようになるというお手軽なメソッドはないんです。「いまより勉強すること」をゴールにして、子どもたちが乗りたくなるようなルールを作ることが重要です。
松丸 家庭のなかで通貨制度を作った人がいますよ。掃除をしたら1コインみたいに。すごいと思ったのは、「ゲームをやって感想文を書いたら2コイン」というルール。もともと、「本を読んで感想文を書いたら2コイン」というルールだったけど、それはぜんぜんやらなかった。そこで発想を転換して、ゲームをした後に、どういうところが面白くて、どんな発見があったかということを書かせるようにしたんです。そうしたら、ゲームをするとコインが手に入るから、嬉しくてどんどんやる。すごくうまい制度だなと思いました。
藤本 ポイントとかレベルとか、遊びの要素を兼ねてやるといいですよね。親として、「毎日やってほしいけど、なかなか習慣づかないこと」をゲーム化すると、うまくいくかもしれません。そのためにも、子どもがどんなゲームが好きか話を聞いて、子どものタイプによって工夫する。それを考えたり、うまくいくように試行錯誤することもゲームみたいで面白いので、ぜひ試してほしいですね。
プロフィール
プロフィール
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
◀︎前編はこちらhttps://hugkum.sho.jp/120810
◀︎中編はこちらhttps://hugkum.sho.jp/120932
取材・文/川内イオ
撮影協力/コロコロ堂(東京都の上野にあるボードゲームカフェ)http://korokorodou.com/
▼第1回 高濱正伸先生(花まる学習会)との対談はこちら
▼第2回 宝槻泰伸先生(探究学舎)との対談はこちら