松丸亮吾さんによる対談連載、第3回のゲストは、ゲームを学習に取り入れる「ゲーミフィケーション」の研究者、東京大学の藤本徹先生。前編では、ゲームのおかげでダイエットに成功した2人の思わぬ共通体験から、ゲーム学習論の具体例について語っていただきました。中編ではポケモンやボードゲームの話から、ゲームで培われる力について語ります。
前編はこちら
45年以上前からゲームを学習に取り入れているアメリカ
世界では、ど のような教育×ゲームの取り組みが行われているんですか?
藤本 歴史は古くて、アメリカではパソコンが普及し始めた頃から始まっています。例えば、『オレゴン・トレイル』というゲームは、1974年に教育用ゲームとして発売されて大人気になり、いまだにバージョンアップ版が発売されています。
松丸 そんなゲームがあるんですね! 45年以上前ですか。
藤本 はい。19世紀の西部開拓時代に開拓者が歩いたオレゴン・トレイルをモチーフに、お金や物資などを管理しながら、家族で西海岸を目指すという内容で、その過程でアメリカの地理や歴史を学ぶことができます。
歴史や地理を学べるアメリカのゲームの事例
1985年に発売されたゲーム『カルメン・サンディエゴ』も、プレイヤーが刑事になって、アメリカの各地を逃げ回る怪盗「カルメン・サンディエゴ」を追跡しながら、訪れた都市の歴史や地理を学ぶ仕組みになっています。
ここに挙げた2つは、アメリカの子どもたちならみんな知っていると言えるほど有名なゲームです。
松丸 やっぱりアメリカは進んでいますね。
教育×ゲームの取り組みは日本のゲーム機が加速させた!
藤本 そうですね。でも、教育×ゲームの取り組みが一気に普及するきっかけになったのは、日本のゲーム機なんです。2004年に任天堂の携帯ゲーム機「DS」、2006年に家庭用ゲーム機「Wii(ウィー)」が出て、脳トレとか体を動かす『Wii Fit』(ウィー・フィット)が人気になって、教育に使えそうな面白いゲームが出てきたということで、アメリカで教育に活用する研究が活発化したんです。
特に「Wii」が出た時には、ボーリングをリハビリで使うとか、老人ホームで子どもとお年寄りが一緒にプレーすることで親和性が高まるとか、リハビリ、ヘルスケア、教育などいろいろな分野でゲームを使おうという動きが出てきました。
松丸 実は僕も今、「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」の『リングフィット アドベンチャー』というゲームをやっているんです。敵を倒していくと気づいたら筋トレになっているというフィットネスゲームなんですけど、本当にすごいと思うのは、とことん楽しい見た目で、とことん喜ばせてくれるから、やってることはシビアなことでもなぜか続けてしまうんですよ。
僕は筋トレが本当に嫌いで、何度始めても1週間持たなかったのに、楽しいゲームにしてくれたことで1カ月連続でやっています。
藤本 まさに僕は、『リングフィット アドベンチャー』のように、ゲームで目的を達成しようとして、付随的に学習効果が出たり、健康増進になるゲーム学習が好きで、以前から研究しています。楽しみながら謎を解いていたら、自然と発想力や考える力が身につく松丸さんのナゾトキも同じですね。
松丸 ありがとうございます!
学校の成績では測れない子どもの力が、ゲームなら見えてくる
藤本 面白い実験があるんですよ。数学のゲーム教材と普通の教材で学んだあとに数学の問題をやらせたら、点数に差はありませんでした。しかしさらにその後、数学の問題をゲームの内容と結び付けるような説明をしてやると、ゲームで学んだ人の点数がさらに伸びたんです。「これはゲームの中のあれと一緒だよ」と話すと、「ああ、なるほど」と理解が深まった結果です。すぐに知識としてつながってなくても、ゲームをやっていることで、自然と数学的な思考が鍛えられているのかもしれません。
松丸 そう考えると、ポケモンなんかにも共通していますね。バトルのときにこの敵にこの技はダメージが1.5倍とか2倍とか違いがある。子どもは自然に計算して、ダメージの強いほうの技を選んでいます。目の前の敵を倒すことに一生懸命になって、知らず知らずのうちに頭の中では算数と同じ計算をしますから。計算に強くなる。
藤本 そういうときにサッと頭の中で繋げられるのは、ゲームをやっている人のほうが得意ですね。
東大生はみんな、ゲーム好き!?
松丸 エビデンスにはならないと思うけど、僕の周りにいる東大生はほぼ全員、ゲームをしています。僕が知っている東大生でゲームをしたことがないという人は1、2割ぐらいかな。
藤本 確かに東大の学生はゲームが上手かったり、強かったりしますね。私は職場(東京大学 大学総合教育研究センター)のスタッフから誘われてボードゲームをやることがあるのですが、いつも負かされながら学んでいます(笑)。
松丸 僕も友達とボードゲームをやりますよ。ボードゲームは、親子でやるのにもお勧めですよね。コミュニケーションが多いので、例えば交渉が上手な子、交渉が苦手な子とか、得意、不得意、人間性も見えてくるんですよ。学校教育だと、科目ごとの点数でしか評価できないけど、ボードゲームだとテストで測れない力を見ることができる。子どもとコミュニケーションしながら、お子さんの見えない力を見極めるいいツールになると思う。
藤本 そうですね。ボードゲームもデジタルゲームと同じ効果がありますし、ああでもないこうでもないといいながら会話ができるがいいですね。
ゲームが強い人に共通する「考える力」
松丸 小学校低学年ぐらいなら、『ハイパーロボット』というゲームがお勧めです。何回、駒を動かしたらゴールにたどり着けるか、頭のなかで最短の手数を考えて競うゲームで、簡単なルールを覚えればすぐにできるし、答えが何通りもあるのが面白いんです。
藤本 これは面白いですね。ゲームだと、子どもが親や先生を負かすことがあるじゃないですか。それもゲームの良さのひとつです。
松丸 僕もそう思います。ナゾトキも親が子どもに負けるのは普通だし、一緒に考えながらやっていても、子どもの頭の柔らかさに親がびっくりするんですよ。
藤本 ナゾトキは、日々継続して考える力を鍛えるのに良いと思います。
松丸 ありがとうございます! デジタルでもアナログでも、ゲームが強い人に共通しているのは、勝つための方法を考えるのが上手だということ。普通の人よりも「ゲームに勝つためには、こういうプロセスを通るのが一番効率的だ」と考えるスピードが速いし適切だと思うんですよ。だから、東大に入るためにはこういう勉強をしたほうが効率がいいとか、こういうふうにマネジメントしたら成績が上がるとか、戦略ゲームみたいに捉えて楽しく勉強してますね。
藤本 学校の成績でいうと、学習にゲームを使ったり、ゲームをしながら学ぶことで、直接的にテストの点数が上がったり、成績アップの早道になるということではないんですよね。でも、例えばナゾトキなら、発想だったり思考力と直結するところがある。そういう非認知能力を鍛えるツールとして、教育プログラムが提供できたらいいなと思います。
(後編につづく)
プロフィール
プロフィール
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
取材・文/川内イオ
撮影協力/コロコロ堂(東京都・上野にあるボードゲームカフェ)http://korokorodou.com/
◀︎前編はこちらhttps://hugkum.sho.jp/120810
◀︎後編はこちらhttps://hugkum.sho.jp/120974
▼第1回 高濱正伸先生(花まる学習会)との対談はこちら
▼第2回 宝槻泰伸先生(探究学舎)との対談はこちら