新型コロナウイルスによる「緊急事態宣言」中、子どもの健康は、子育て世代の大きな不安の一つです。特に、外出自粛によるストレス、心の疲れが気になっているパパ・ママも多いようです。
休校以降、お子さんの様子に変わった点はないでしょうか。また、気になる点があるときは、どのように対処したらよいでしょうか。
長い休校が明けたとき、不登校・非登校につながらず、すんなり学校生活に馴染めるよう、養護教諭・学校関係者・カウンセラーなど教育関連の取材から得た「子どもの心の健康を守るポイント」を紹介します。
心の健康チェックリスト
お子さんの様子が、以下のチェックリストにあてはまるかどうか、チェックしてみましょう。
□イライラして、キレやすくなった
□毎日ゲームやYoutubuばかり
□夜更かしして、朝起きられない
□落ち込むようになった(ぼんやりしている)
□急に親にベタベタ甘えてくるようになった
□食欲がなくなった
□急に食べ過ぎるようになった
□食事よりもおやつ(甘いもの、スナック菓子)を食べたがる
□夜、なかなか寝付けない
□急に泣いたり、わめいたりする
□便秘や下痢、腹痛を訴える
□頭痛やめまいを訴える
□「だるい」「疲れた」とよく言う
上記は、多くの養護教諭が注目している健康チェックのポイントです。心当たりがあれば、子どもの心の健康はすでに黄色信号かも!?
というのも、大人が考える以上に、子どもの心と体は密接につながっているからです。体の調子が悪いときは、心も不安定で不機嫌に。逆に、心の乱れや不安も、身体症状や通常とは異なる行動として現れるのです。
休校中に気を付けたいポイント
養護教諭の養成に関わる鈴木裕子教授(国士舘大学文学部教育学科)をはじめ、現場の養護教諭、教育関係者などに、休校中に気を付けるポイントについてお話をうかがいました。
1.生活のリズムをチェック!
鈴木裕子教授は、「今こそ、子どもの健康や生活状況をしっかり見つめて把握するよい機会」だと指摘しています。
まずは、お子さんの生活リズムをチェック! 起床時間、学習、遊び、食事、おやつ、お風呂、就寝時間…など一日のリズムを思い返してみましょう。以下の2つのうち、どちらでしょうか。
□毎日ほぼ一定のリズム →大丈夫
□夜更かし→朝寝坊→朝食抜きで午前中はボーっと過ごす→昼食(おやつ)のドカ食い→夕食時間が遅くなる→またまた夜更かし…の悪循環に陥りそう →要注意!
生活リズムを整えるには、起床時間を一定にするのが早道です。たとえ夜更かししても、朝、決まった時間に起こすことがポイント。朝早く起きて活動すれば、睡眠時間が少ない分、その夜は疲れて、自然に早寝になるからです。
近年、文科省も力を入れている「眠育(睡眠に関する教育)」。一定の生活リズムを保つことが、健康生活の第一歩なのです!
参考:夜更かし(睡眠と覚醒のリズム)が脳の発達にいかに悪影響について教えてくれるサイト
子どもの早起きをすすめる会 www.hayaoki.jp/gakumon/gakumon.cfm
2.子どもの気持ちを受け入れる・共感する
「勉強しないで、何しているの⁉」「もう、いつも散らかしっぱなしなんだから…」子どもと過ごす時間が長くなると、どうしても子どもの短所に目がいってしまいがち。でも、注意されてばかりでは、子どもは自分を否定された気持ちになってしまいます。
つまり、自分はダメな人間なんだ → 価値のないダメな人間だから何をしても上手くいくはずがない → もう何もしたくない…という負のスパイラルに陥ってしまう危険があるのです。
だったら、いっそのこと、短所には目をつむり、子どもを褒めてみませんか。
褒め方の例
・家族に自分から『おはよう』と挨拶した
・朝ごはんを残さず食べた
・食事前に自分からゲームをやめた
よくよく子どもの行動を見ていれば、褒めどころはいっぱい見つかるはず。親が素直に褒められれば、子どもは喜びます。
一日3回、できればそれ以上を目標に子どもを褒めれば、子どもの自己肯定感が満たされ、親子関係も和やかになるでしょう。
参考:子どもの自己肯定感を育むなら…「小学生のミカタ 見つけてのばそう!自分の強み」
3.おうち時間を楽しむ
「外出自粛=外に行けない」ではなく、「おうち時間を充実させる機会」ととらえましょう。子育て世代へのアンケートから見えてきた、さまざまな家庭の「おうち時間」を紹介します。
子どもとの「おうち時間」の例
・朝炊いたご飯の残りで、昼食用のおにぎりづくり。具は子どもが好きなものを選んでいます。(東京都/S・Sさん お子さんは小4と小1)
・ケーキづくり。お姉ちゃんがネットで作り方を調べて、妹と私(母)、3人で作っています。(神奈川県/C・Sさん お子さんは高2、中1、小4)
・ハマっているのは、「ブロックス」というボードゲーム。いわゆる陣取りゲームですが、ルールがシンプルなのがいいと思います。これから、算数(図形)の勉強にも役立ちそう。(富山県/Y・Hさん お子さんは小1の双子)
・映画・ドラマ鑑賞。古今東西、いろいろな作品を一緒に観ましたが、娘が気に入ったのは刑事コロンボシリーズ。「愛人」「財産目的」など、まだ知らなくてもいい言葉も出てきますが、これも社会勉強!?(千葉県/Ⅿ・Tさん お子さんは小4)
・家族でストレッチ。新体操を習っている娘(今はレッスンがお休み)につきあって、お風呂上りにストレッチをしています。体が固い親をしり目に、娘は「もっと脚を開いて」とうれしそうです。(東京都/K・Aさん お子さんは中1と小2)
・サッカークラブがお休みなので、息子と自主練習。息子が憧れているサッカー選手の動画サイトを見て、親子で取り組んでいます。(東京都/K・Sさん お子さんは高1、中1、小4)
4.親子の会話を楽しむ
親子の会話も、子どもにとっては大切なもの。ただし、親の自慢話や成功体験はNG。「そんなこと言われたって…」と反抗的になるだけです。
むしろ、親の失敗談を打ち明けるほうが、子どもは心を開いてくれます。「漢字練習が嫌いでサボっていたら、学期末にまとめてやることになって、辛かったなあ」「好きだった子に、いじわるしちゃったんだよな~」など思い出話を披露するのも、おすすめ。
ちなみに、意識しておきたいのが「I(アイ)メッセージ」。「I(アイ)メッセージ」とは、「私」を主語にして話す方法です。たとえば、「最近、あなたは、全然勉強していないわね」と言うと、子どもを責めているように聞こえます。一方で「最近、勉強がはかどっていないように見えるから、(私は)あなたが心配なのよ」と素直に気持ちを伝えれば、聞く側の印象が大きく変わってきます。
休校明けに気を付けたいポイント
地域によって、まだまだ先は見えないけれど、いずれは学校が始まります。それでは休校明けにはどんなことに気を付けるべきでしょうか。
スキンシップで安心感を与える
子どもによっては、不安のあまり、赤ちゃん返りをするように突然甘えてくることがあります。幼児はもちろん、中・高学年でもあります。そんなときには、ギューッと抱きしめたり、頭をなでなでしたり、愛情を具体的なしぐさで伝えましょう。
ふだんは一人寝をしている子どもが「一緒に寝て」と言ってきたら、その願いを叶えてあげて。それは決して「甘やかし」ではなく、子どもが今求めている愛情を注ぐことです。
子どもの気持ちを受け入れる・共感する
「休校明けに学校に行くのが不安」「(新しい学年、クラスで)仲のよい友達が出来るか心配」「勉強についていけないかも…」と、休校明けの不安を持つ子も少なくありません。
いつもと違う日々を過ごさなければならない、先が見通せないことから不安になるのは、大人も子どもも同じ。子どもが不安をうまく言葉で表現できず、イライラを抑えられなかったり、泣いたりしても、親は「人生の先輩」として受け入れることが大切です。
おすすめの対処法
「そうか、そういう気持ちなんだね」と受け止める。→子どもは安心し、心が落ち着きます。
「お母さんも、ドキドキするなあ。他にも、きっとそういう気持ちの子がいると思うよ」と共感を示す。→不安や悩みを抱えているのが自分一人ではないとわかり、ホッとします。
希望を持つ
人間、希望を持つことはとても重要です。「学校が始まったら、友達と会えるね。どんな話がしたい?」「外出できるようになったら、おじいちゃんおばあちゃんに会いたいね」と「近い将来の夢」を語り合いましょう。
やりたいことリストを作るのも、おすすめです。
やりたいことリストの例
・友達と鬼ごっこをする
・学校で給食を食べる
・スポーツをしたり、習い事に通う
・学校や公園で虫捕りをする
・児童館で友達と遊んで、一緒におやつを食べる
頑張り過ぎないで、休校明けを待つ
スムーズな休校明けを迎えるために、親子ともに頑張り過ぎないことも大切なポイント。
リモートワークと子育てがうまく両立しなくても、子どもが学習計画通りに進んでいなくてもOK。だって、今は社会のみんなが混乱の時期あり、多くの人が「こんなはずでは…」と思っているのですから。「5割~7割運転なら上等」だと考えれば、気持ちが楽になります。
規則正しい生活リズムを保つことは大切ですが、たとえば「家族みんなで毎朝6時起床」と決めて、何が何でも守ろうとすると、ストレスがたまってしまいます。「いつもより20分ほど遅れたけど、みんなそろって朝ごはんを食べられたから、まずはOK」。こんなふうに少しハードルを下げると、大人も子どもも過ごしやすくなります。
笑顔の練習をする
困難な時期に、笑うのは難しいこと。でも、あえて提言します。みんな、笑いましょう。遺伝子学の第一人者である村上和雄先生(筑波大学名誉教授)も「笑いは陽気な心の元となり、その陽気な心は、よい遺伝子のスイッチをオンにする。すると遺伝子の働きが変わり、病気や健康の状態まで変わっていくように考えられます」と著書で述べています。
また、村上先生はこんなアドバイスも。
「私たちは楽しいから笑うのですが、逆に笑うから楽しくなるという側面もあります。だから、いつも『笑い』を心がけることによってよい遺伝子のスイッチをオンにすることができます」
数々の困難の中、一生懸命に笑顔を造れば、その笑顔に導かれるようにさまざまなよいことが起こる――。今はまだ科学的なエビデンスがなくても、今はそう信じたい気持ちを抑えられない状況です。
さあ、鏡の前で笑顔の練習をして、自らの幸運を呼び込みませんか。それは、試してみても、決して損にはならないでしょう。
参考:遺伝子学者が書いた子育て論 『子どもの遺伝子 スイッチ・オン!』新学社刊
親子で元気を取り戻そう
「あなたのことを大切に思っているよ」「家族は、いつでも〇〇ちゃんの味方だよ」。
ふだん照れて言えない言葉も、こんな時節なら案外素直に言えるはず。子どもを大切に思う気持ちを伝えることは、子どもにもうれしいことですが、親にとっても、言葉にすることで改めて子どもを大切な存在として意識する作用があります。
コロナ禍に苦しむ中、何とか親子で元気を取り戻しましょう。休校中も休校明けも、子どもが少しでも元気でいられるように、親子で一緒に「こころのケア」に目を向けましょう。
今回、お話を伺った先生/鈴木裕子教授(国士舘大学文学部教育学科)
北海道出身。横山市の小・中・養護学校(特別)支援学校で養護教諭として勤務。その後、教育委員会健康教育課指導主事を経て、現在、大学にて養護教諭養成に携わる。
取材・文/ひだいますみ
富山県生まれ。都内の出版社勤務を経て、スタジオ・ペンネ主宰。フリーランスライターとして、子育て・教育系雑誌や書籍の編集・執筆を手がけるかたわら、養護教諭専門誌『健康教室』にて連載された小説「おばあちゃんイスと保健室」(東山書房)がある。