ネット社会の現代では、子どもたちは簡単に性情報にアクセスできます。子どもたちが間違えた情報をうのみにしないために、家での性教育の必要不可欠です。とは言っても、いったいいつごろから、どんな話をすればいいのか困惑しますよね。2018年から公立小学校や企業主宰のイベントで、性教育の授業やワークショップを展開している医師夫婦のユニット「アクロストン」が、ママ&パパのお悩みに応えます。
目次
Q:10代の妊娠相談が急増のニュースに不安を感じています。学校で性教育はどこまでやってくれているの?
新型コロナウイルスで休校期間中に「10代の妊娠相談が急増」というニュースを見ました。その原因に日本の性教育が不十分だからと言われていますが、実際のところ、学校ではセックスについてどこまで教えてくれるのでしょう? また、家では子どもにいつごろからどんなことを話せばよいのでしょうか。(8歳の娘、6歳の息子の母)
A:小学校でも中学校でも、セックスについては教えません
ワークショップなどでお母さんたちによく聞かれるのが、親世代が受けた性教育と今の性教育って何が違うの? ということです。当然もっと進んだんだろうという期待を込めて聞かれますが、実際はそれほど進んでいません。
4年生で月経と射精について。5年生で受精と妊娠中の胎児について学びますが、セックスについては触れません
現在、小学校で教えているのは、4年生の保健で月経と射精について、5年生の理科で、受精と妊娠中の胎児の成長について。しかし、文部科学省が定める学習指導要領には「人の受精に至る過程は取り扱わない」とあり、セックスについてふれることはありません。
中学校では1年生の保健体育で、月経や射精の詳細なメカニズムを教えます。受精についても教えますが、ここでも「妊娠の経過は取り扱わない」とされています。3年生の保健体育では性感染症や性のトラブルについて。教科書の一文に感染症を防ぐことは有用です、ということが書いてあるのみで、実際にコンドームの使い方は教えません。
つまり小学校でも中学校でも「セックス」については教えないということ。いわゆる「歯止め規定」と言われるもので、これが今の学校での性教育のハードルになっています。
いちばん最初に子どもに伝えたいのは「自分の体は自分のものだし、人の体は人のもの」ということ
セックスについて学校で教えないとなると、家で話したほうがいいか、というと………確かにそうしたほうがよいですが、いきなり子どもとセックスの話をするのは難しいものです。また性教育というのは、セックスの話さえすればいいというものでもありません。
性について、いちばん最初に子どもに伝えたいのは「自分の体は自分のものだし、人の体は人のもの」ということです。
自分の体について、何か言われたり、さわられたり、イヤなことがあればはっきりとイヤと言っていい。同時に、他人の体を勝手にさわってはいけないよということです。
そのうえで、できれば小学校3年生ぐらいまでに月経や射精、どうして赤ちゃんができるか、思春期までに性的同意(性行為の前に互いの意思を確認すること)や避妊について教えたいものです。
ただ年齢が上がるほど、親が話すのは難しくなりますから、なるべく小さいうちから生理の話などをし、その延長線上に話すと話しやすいでしょうね。
リビングの本棚に、性について自然に学べる本を
わが家は小学校4年生の娘と小学校2年生の息子がいますが、性の話をしようと思ったときには、もう本で読んで全部知っています、って言われちゃったんです。
私たち夫婦がこういう活動をしていることから、わが家のリビングの本棚には性教育の本がたくさんあります。
そうすると子どもは、自然と手にとって読むんです。これは、すごく楽な方法です。何冊かお勧め本をご紹介しましょう。
『マンガ おれたちロケット少年(ボーイズ)』『マンガ ポップコーン天使(エンジェル)』
子どもの未来社/刊
成長期を迎えた男の子と女の子の悩みをマンガでわかりやすく解説されていて、ワークショップですすめたら、どの子もかじりついて読んでいるようです。
『あっ! そうなんだ! 性と生~幼児・小学生そしておとなへ』
エイデル研究所/刊
読み聞かせにも最適な絵本。セックスの話も淡々と書いてあるので、大人も淡々と読めるんです。
タブレットを子どもに渡すときには、ひと言添えて
子どもが動画を見たり、電子書籍を読んだりするときは、タブレットを渡すこともあります。フィルターはかけていますが、ポルノがらみの広告が出ることがあるかもしれませんので、タブレットを渡すときは「そういうのを見るとこわくなったり、具合が悪くなったりすることがあるから出たら言ってね」と伝えています。
子どもに聞かれたら性教育のチャンスです
性について子どもから質問されたら、はぐらかさないことも大切です。
よくあるのが、お母さんが生理中に子どもといっしょにお風呂に入ると、子どもから「血が出てる! ケガしたの?」「どうして血が出るの?」と聞かれるという話。
そのときも、お母さんは「女の人は子どもを産むために生理ってあるんだよ」と、子どもの成長に合わせて、生理についてかみくだいて話すとよいでしょうね。
答えにくい質問は「ちょっと調べてから、明日答えるね」と期日を決めて先延ばしにしましょう。その間に答えを調べたり、パートナーと話し合ったりして、期日に答えてあげる。そうすると、子どもはそれが正しい知識として、しっかりと身につくでしょうね。
教えてくれたのは
妻のみさとは産業医、夫のたかおは病理医をしながら、2018年に「アクロストン」としての活動をスタート。公立の小学校の授業や企業主催のイベントなど、日本各地で性にまつわるワークショップを行う。『3~9歳ではじめるアクロストン式「赤ちゃんってどうやってできるの?」いま、子どもに伝えたい性のQ&A』(主婦の友社)、『思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになっているなんて!』(主婦の友社)、『10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック(ほるぷ出版)』が発売中。
構成/池田純子