SDGsとは、Sustainable(サスティナブル)・Development(デベロップメント)・Goals(ゴールズ)の略で、「持続可能な開発目標」という意味。地球の暮らしを守るため、2030年までに解決したい17の課題目標が2015年に定められました。「親子で学ぶSDGs」では、今、全世界が取り組んでいる持続可能な循環型社会のための「新しい社会と暮らし」の実践例を紹介していきます。ナビゲーターは、武蔵野大学環境システム学科のオサム先生こと明石修准教授。第3回は、食品ロス問題の専門家でジャーナリストの井出留美さんに、世界と日本における食品ロスの現状と、暮らしの中で自分たちができる解決策についてうかがいました。
目次
食べ物は単なるモノではなく「命の結集」。だから、無駄にすることなどできません
日本の食品廃棄物は年間2550万トンで、そのうち食べられるのに捨てられる食品、つまり「食品ロス」の量は612万トン、その半数近い46%の食品ロスが家庭から出ているそうです。食品ロスをテーマに学びを深めている明石ラボの学生H さんの、「食品ロスを減らすために自分にもできることは何か?」という提案から、食品ロス問題の専門家である井出留美さんへの取材が実現しました。
—— 今、世界と日本における食品ロスの問題で注視していることはありますか?
コロナ禍の影響もあり、世界的に生産の段階でのロスが大きくなっています。たとえば、牛乳。日本でも学校給食が休止になり、日々生産される牛乳の無償配布が始まりました。旬の野菜も生産者の段階で大量に廃棄されている状況です。一方、フードバンクの利用者は増えているのですが、企業の動きがストップしているため需要と供給のバランスが崩れてしまっています。
それと並行して、イギリスの政府が立ち上げたWRAP(ラップ)という組織が、賞味期限切れの食品を再利用する際のガイドラインを出しました。パスタなら賞味期限を過ぎてから何か月はOK というように、具体的ですばらしい取り組みだと思います。
知っていますか?「賞味期限」と「消費期限」の違い
賞味期限とは「美味しく食べることができる期限」で、期限を過ぎたらすぐに食べられなくなるということではありません。例えば、スナック菓子や缶詰、カップ麺など。消費期限とは「期限を過ぎたら食べないほうがよい」もので、弁当やサンドイッチ、惣菜など。 出典/農林水産省・厚生労働省「食品の期限表示について」より
日本での食品ロスの半数近くは、家庭からでています。消費者一人ひとりの意識を変えることで無駄をなくせます
——実際に食品ロスの問題解決につながっているプロジェクトで印象深いものはありますか?
食品に電子タグをつけ、期限になると自動的に値下げ価格が表示される「ダイナミックプライシング」は、イスラエルの会社がスペインで実験し、食品ロスが30% 減少しました。日本でも試験的な取り組みが始まっています。
——日本における食品ロスの46%が家庭から出ているという報告が衝撃的でした。私たちにできることはありますか?
まずは、第一次生産での無駄に意識を向けることが大切です。農業、漁業、畜産業など命の源である食の生産者が弱者になっているシステムを逆転させる必要があります。生産者から直接、購入できるオンラインマルシェ「ポケマル」の利用や道の駅などの直売所で流通に乗せられなかったB級品を買うなど、消費者一人ひとりが変わることで、転換の起点となることができるでしょう。
日本における食品ロスの量は、なんと年間612万トン(平成29年度推計値)。そのうち約半量の284万トンが家庭から出ています。 出典/農林水産省のホームページよりwww.maff.go.jp
例えば、自分で野菜を育ててみる。大変さや食べ残さないことの大切さがわかるはず
——子育て中の家庭でできる、食品ロス削減のおすすめ方法を教えてください。
子どもと一緒に豆苗を水栽培したりバターを手作りしたりして、食べ物を作ってみることをおすすめします。自分で育てたり作ったりすると、大変さや大切さが身に染みます。また、ゴミを減らすことは食品ロスを減らすことにつながります。生ゴミ乾燥機やコンポストを導入するのも一手です。
——食品ロスの問題を子どもたちにどう伝えたらいいですか?
「もったいない」を強要しても食べ残しは減りません。苦手な食べ物が食べられるように小さな工夫を重ね、子どもに自信を持たせることが大切。食べ物は命の結集であり単なるモノではないことを子どもと大人が共に体感すれば、食べ物を無駄にすることなどできなくなるでしょう。
*フードバンク/まだ食べられるにもかかわらず賞味期限が近づいているという理由などから流通できない食品を、食べ物に困っている人へ届ける活動や組織のこと。
野菜クズがスープに変身!おいしい「ベジブロス」を作ろう
家庭での食品ロスを減らすための方法のひとつとして、井出さんご自身も実践しているのが「ベジブロス」。
ベジブロスとは、野菜からとったスープだしのことで、そのまま味をつけてスープとしていただくだけでなく、カレーやシチュー、雑炊などにも使えます。多くの家庭で生ゴミとして捨てられているタマネギやニンジンやダイコンの皮、グリーンピースのさや、シイタケなどキノコ類の石づき、セロリの葉っぱなど野菜の切れ端を冷凍保存しておき、ある程度の量がたまったら、水とお酒でコトコトと煮出していきます。
生ゴミが減るだけでなく、ブイヨンを買う必要もないからお得。ちょっとした工夫で、生ゴミがおいしいスープに生まれ変わります。
野菜クズは冷凍保存しておき、ある程度たまったら、コトコト煮込む。エビの殻などを入れてもOK。
教えてくれたのは
井出 留美
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で食料廃棄に憤りを覚え、誕生日を冠した(株)office3.11設立。日本初のフードバンクの広報を委託される。食品ロス問題をテーマに国内外を取材し、講演会や教育現場での講義、書籍、インターネットなどを通じ幅広く発信。『賞味期限のウソ』(幻冬舎新書)など著書多数。http://www.office311.jp/
「食品ロス」をなくしたら『1か月5,000円の得!』(マガジンハウス・刊)
「もったいない」という意識とちょっとした工夫で、家庭内の食品ロス問題が解決&家計にも好影響!「買い物は、食後に行くだけで、640円の得」など、具体的な65のワザを井出さんが指南。今すぐ実践できるアイデアばかりです。
記事監修
明石修准教授(オサム先生)
武蔵野大学環境システム学科准教授。主宰する「明石ラボ」では、人と自然が共生したサステナブルで循環型の社会はどのように実現できるのか、について日々、学生たちと研究と実践を行っている。専門分野は、自然エネルギーや持続可能な食と農(パーマカルチャー)、モノの消費と循環経済など。 https://akashi-lab.com/
「親子で学ぶSDGs」は『小学一年生』別冊HugKumにて「21世紀的地球の暮らし方」のタイトルで連載中です。
1925年創刊の児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターとともに、子ども達各々が自身の無限の可能性を伸ばす誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載し、HugKumの監修もつとめています。
『小学一年生』2020年8月号 別冊HugKum 構成・文/神﨑典子 写真提供/井出留美