市立小・中学校で有機米100%のオーガニック給食を実施!千葉県いすみ市の挑戦とは

SDGsとは、Sustainable(サスティナブル)・Development(デベロップメント)・Goals(ゴールズ)の略で、「持続可能な開発目標」という意味。地球の暮らしを守るため、2030年までに解決したい17の課題目標が2015年に定められました。「親子で学ぶSDGs」では、今、全世界が取り組んでいる持続可能な循環型社会のための「新しい社会と暮らし」の実践例を紹介していきます。ナビゲーターは、武蔵野大学環境システム学科のオサム先生こと明石修准教授。今回は、小・中学校の給食で100%有機米を達成した、千葉県のいすみ市を訪ねました。子どもたちの健康と教育だけにとどまらないオーガニック給食の取り組みをレポートします。

有機米のオーガニック給食で、みんなが喜ぶ地域づくり

2017年、千葉県いすみ市は、全13市立小中学校の給食で使用するお米の全量(42トン)を、無農薬無化学肥料の有機米に切り替えました。翌18年には、一部有機野菜の導入もスタート。お米も野菜もいすみ市で生産されたものです。ヨーロッパや韓国では、オーガニック給食がスタンダードになりつつある昨今、日本ではまだまだ少数というのが現状です。そんな中で、「公立の学校がどのようにオーガニック給食を取り入れていったのか?」「導入後の反響や子どもたちへの影響」などについて、いすみ市(農林課の鮫田晋さんと房総野生生物研究所の手塚幸夫さん)にお話を伺いました。

―――有機米を学校給食に取り入れた経緯を教えてください。

いすみ市  2012年に行政と市民と農業者で設立した「自然と共生する里づくり協議会」が、そもそものきっかけです。環境と経済を両立させるためには、生物多様性豊かな地域づくりが必要だということで、有機稲作を推進することにしました。田んぼにコウノトリなどをはじめとする生き物を呼び戻すためです。それまで、いすみ市で有機米の生産はゼロでしたので、まさに手探りの状態からスタート。しかし、13年は失敗に終わり、14年に指導者を迎えて本格的に有機稲作を学び、4トン生産することができました。15年にその有機米を、1か月分ですが、給食に導入することができました。

―――はじめにオーガニック給食ありき、というわけではなかったようですが、給食と結びつけようというアイデアはどんな理由から?

いすみ市  安全な食べ物を子どもたちに食べさせたいという農業者の強い思いが一番の理由です。健康のためだけでなく、地域の農業や環境への関心を持ってもらうことは、生産意欲の向上と地域産業の未来につながります。

―――その2年後には、100%の有機米を導入するほどまでに生産量が上がりました。すごいですね。

いすみ市 有機米を導入したということが市民や学校で話題になり、好意的な意見がたくさん寄せられました。そんな手応えがあったので、慣行農業から有機栽培に移行する農家さんも増え、有機米産地としての基盤ができました。

有機米にしてから残食が10%減りました

―――子どもたちや保護者の反響はどうでしたか?

いすみ市 まずは、残食が10%減りました。保護者からの注目度も高く、試食会の希望が殺到しています。試食会に参加された方からは、「こんなにおいしいお米を食べているの!?」と驚かれています。

いすみ市の小・中学校では、有機米だけでなく、少しずつオーガニック野菜の導入もスタート。野菜をたっぷり使った「季節のカレー」や「豚汁」などが大人気。

食と環境と農業を一体的にした教育につなげる

―――食育にもつながりますね。

いすみ市 モデル校では1年間に30時間、稲作と田んぼの生物観察、里の暮らしの体験学習をしています。食育という観点をさらに広げ、食と環境と農業を一体的に扱う教育プログラムの実践に取り組んでいます。子どもたちは「こんなに楽しい授業はない」と言っています(笑)。

自分たちが給食で食べているお米を、自分たちで手がける。その過程で子どもたちは、学科を超えて多くのことを学ぶ。オーガニック給食を軸に、いのちのつながりを体感できる教育プログラムを実践。

『いすみの田んぼと里山と生物多様性』と題したテキストと、フィールドでの体験学習の相互効果で、学びが深まる。いすみライフスタイル研究所でダウンロード可能。www.isumi-style.com

 

「自然と共生する里づくり」「いすみ生物多様性戦略」を進めるいすみ市。コウノトリもウミガメも人も、共に暮らせる環境を目指す。

 

―――今後の展望を教えてください。

いすみ市 有機米だけでなく、野菜も100%いすみ産のオーガニックにしていきたいと思っています。オーガニック給食で子どもたちが変われば、大人も変わり、環境が改善され、経済も回っていく。地域を大きく転換・向上する可能性を秘めているので、このような取り組みが各地域へ伝播していくといいですね。

ブランド米「いすみっこ」のオーナー制度も開始

子どもたちが給食で食べているお米が、安全性の高い特別栽培米コシヒカリ「いすみっこ」として、ブランド化されています。もともと、温暖な気候と夷隅川の肥沃な土壌に恵まれたいすみ市は、おいしいお米の産地として知られていました。やや小粒ながら、粘りとコシ、甘みが特徴。農薬や化学肥料を使わずに、自然に寄り添って育てられた「いすみっこ」は、いすみ米本来のおいしさを味わうことができます。その実力は、大手航空会社のファーストクラス機内食に採用されたほど。田植え、草取り、稲刈りなどの米作り体験ができる有機米オーナー制度も実施しています。

特別栽培米コシヒカリ「いすみっこ」2kg 1,400円、5kg 3,500円。いすみ農業共同組合、JAグリーンスパいすみなどで販売。https://isumikko.com

 

記事監修

明石修准教授(オサム先生)

武蔵野大学環境システム学科准教授。主宰する「明石ラボ」では、人と自然が共生したサステナブルで循環型の社会はどのように実現できるのか、について日々、学生たちと研究と実践を行っている。専門分野は、自然エネルギーや持続可能な食と農(パーマカルチャー)、モノの消費と循環経済など。 https://akashi-lab.com/

「親子で学ぶSDGs」は『小学一年生』別冊HugKumにて連載中です。

1925年創刊の児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターとともに、子ども達各々が自身の無限の可能性を伸ばす誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載し、HugKumの監修もつとめています。

『小学一年生』2021年1月号 別冊『HugKum』 構成・文/神﨑典子 写真提供/千葉県いすみ市役所農林課

今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 15 陸の豊かさも守ろう

SDGsとは?

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