1月7日は七草がゆをいただき、お正月飾りを始末する日。行事研究家・広田千悦子さんに学ぶ「先代の暮らしの知恵」

PR

新年を迎えて松の内も過ぎました。日本の行事・歳時記研究家の広田千悦子さんに、七草がゆ、小正月、お飾りの始末についてなど、お正月というハレの期間を気持ちよく仕舞うあれこれをうかがいました。

「七草がゆ」は、邪気を払い大地の力をいただくためのもの。無病息災を祈っていただきましょう

「開運につながる縁起のいいお正月の祝い方」でもお話ししたように、お正月の期間は、三が日、松の内(7日間)、小正月(1月15日)までというところが多く、昔は旧暦のお正月である2月の上旬くらいまでがお正月の期間で、12月の支度から数えて約2ヶ月間、長く緩やかに続いていました。

さすがに今は、そんなにのんびりとはしていられないでしょうから、それぞれのタイミングでお飾りを外したりして、少しずつ日常に戻っていけば良いのだと思います。

地域によって異なりますが、松の内である7日にお飾りなどを外し、七草がゆをいただくという風習が残っています。

セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロが七草とされていますが、新暦での1月7日ですと、まだ旬には早く、自然の中で見つけることはなかなかできません。

そもそも、この7種類の摘み草を食べて邪気を払う習わしは、中国から伝わったものです。寒い冬を乗り越えて、初めて芽吹く摘み草が蓄えた大地の力をいただくという意味が込められています。

なので、上述した7種類でなくても構いません。ちなみに私は、自宅の庭と畑で摘み草をして、小蕪、三つ葉、タンポポ、明日葉、母子草、はこべ、野蒜(のびる)で、我が家風七草がゆをいただいています。

もちろん、お店で七草がゆのセットを見繕うのもいいでしょうし、八百屋さんで蕪、大根を買い(すなわち、七草の中の、すずな、すずしろ)生き生きとした葉を刻んでいただくのもおすすめです。無病息災や長寿を願いながら、滋養を身体に取り入れてみてください。

1月6日「小寒」。冬の清々しい気を受けて【広田千悦子の子供と楽しむ二十四節気】
季節を感じる二十四節気を子供にも伝えたい 二十四節気とは、太陽の公転周期を分割して一年を二十四の季節に分けたもの。春分、夏至、秋分、冬至な...

叶えたい望みの予祝を込めて。枯れ木に餅花を飾る「小正月」

いよいよお正月気分も抜けてくる1月15日頃を「小正月」と呼び、各地には多様な行事が残っています。旧暦の1月15日は満月で、昔のお正月は小正月だったのではないかという説もあるほどです。

餅花飾りは、小正月の行事のひとつ。枯れ木に、小さく丸めた紅白のお餅をつけて飾ります。これは、「こんな風に実りが多くなりますように」という予祝(よしゅく)が込められています。

「予祝」とは、そうなったらいいなと思ったことを形にしたり、言葉にしたりすること。イメージや思考は現実化するということが様々な世界で研究されていますが、実は昔からやっていた知恵だったのですね。

 

お正月の飾りは、半紙にくるんで塩を添えて始末。「お焚き上げ」の代わりにろうそくを灯して

小正月には、お正月の飾りや門松を「どんと焼き」、「おんべ焼き」、「左義長(さぎちょう)」などと呼ばれる火祭りでお焚き上げをします。お焚き上げをしたその煙に乗って、お正月の神様が帰っていくといわれているので、これにてお正月もお開き、という印象が強いのかもしれません。

 

地域によっては、年間行事のひとつとして「おんべ焼き」を行なっているところも多いのですが、都市ではお焚き上げがなかなかできません。

「お正月飾りをそのままゴミとして始末するのは忍びない」と思っている人も多いのではないでしょうか。実際、「どうしたらいいですか?」と、私が主宰する教室の生徒さんからも、よく尋ねられます。

 

どうしたらいいのか気になるという方々には、お飾りに付いているプラスチックなどを外して半紙などの上に置き、お塩を少し添えて包んで始末することをおすすめしています。

その際、お焚き上げの代わりに、小さいろうそくに火を灯しながら、仕舞いの作業をしてみてはいかがでしょうか。私は、小さい和ろうそくを使っています。

「火」には神様が宿る

火には、神様が宿るといわれていて、良いことの「火種」を絶やさないようにという思いにもつながります。年越しに火を焚くのも、お飾りを火でお焚き上げするのも、火の神様の力をいただくためでもあります。

お焚き上げのように大きな火ではありませんが、ろうそくでも火の神様の力を借りることができるでしょう。

昔から伝わる行事や習わしに込められた「気持ち」や「祈り」を、今の暮らしにも受け継いで

今に残る行事や習わしには、それぞれに本来の意味が込められています。決まりごとを守る楽しみもありますが、その根底に流れる先代の「気持ち」や「祈り」を受け継ぎながら、今の暮らしの様式に合わせて、その人その人の形を作っていくのもまた楽しく、感覚や心を働かせる機会になります。

 

コロナ禍でステイホームが余儀なくされている昨今、家でゆっくりする時間が増えたという人も多いでしょう。こんなときこそ、行事や習わしのことをあらためて知るチャンス。それはきっと、自分自身に立ち返る時間になるはずです。そんなひとときをまずは大人が楽しんでみてください。その背中を見ていればきっと、子供たちにも大切な何かが伝わっていくのではないかと思います。

 

『にほんの行事と四季のしつらい ビジュアル版・くらし歳時記12か月』

著:広田千悦子 写真:広田行正 発行:世界文化社 1,800円+税

正月、節分、七夕、お盆、月見など、四季折々の節句や行事に込められた祈りのかたちである「しつらい」を、美しい写真とともに紹介。伝統的な飾り方だけでなく、暮らしの中に取り入れやすい、シンプルな今流のスタイルを提案。一年を通してめぐり来る節目の行事に、花を刺し、季節を寿ぐ。そんな、古くて新しい和の暮らしのエッセンスを日々に取り入れながら、丁寧に生きることの美しさと大切さを教えてくれる一冊。12のコラム「五節供以外の節供」なども読み応えあり。

教えてくれたのは

広田千悦子(ひろたちえこ)

日本の行事・歳時記研究家。古きを踏まえつつ「ものがたりのあるしつらい」をお題に、季節や行事にちなむしつらえのデモンストレーションや講演、季節の中井などを企画開催。東京新聞の連載「くらし歳時記」は、2021年に15年目を迎える。著書は『おうちで楽しむにほんの行事』(技術評論社)など多数。神奈川県横須賀市に築80年の日本家屋スタジオ秋谷四季を構え、「季節のしつらい教室」を主宰。オンラインでも参加できる稽古も開催予定。

http://www.hirotachieko.com

 

構成・文/神﨑典子 写真/広田行正(『にほんの行事と四季のしつらい』より)

編集部おすすめ

関連記事