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ウソをつかない人間はいません。ウソは人間の根源的な感情です。
今日は子どものつくウソについてお話ししようと思います。
ウソをつくことは基本的には悪いことです。ウソを野放しにしたら、世の中はめちゃくちゃになってしまいます。しかし、ウソは人間の持っている根源的な感情で、ウソをつかない人間はいません。
その本来の動機は、自分が傷つきたくなかったり、そのまま伝えると相手を傷つけたり不愉快にしたりするのが忍びないから、人間はウソをつくんですね。
私もウソはつきますよ。たとえば家内が心づくしの料理を作ってくれたときに「どう?」と聞かれて、「この味はいまいちだから、こうしたほうがいい」などとは言いませんよ。たとえあまりおいしく感じなくても、「手間がかかったよね。ありがとう」ぐらいは言います。
また、家内が美容院から帰ってきたとき、ちょっと変だと思ったとしても「その髪型、似合うね」と言います。「そんなおかしな髪にしないほうが良かったんじゃないの?」などとは口にしたことはありません(笑)。妻を傷つけたくないからです。
子どものウソは成長の証。でも、頻繁にウソをつくなら、その原因は親がつくっているのかもしれません
その前提を理解していただいたうえで、子どものウソというのはどういったものかというと、それは、ある意味、成長の証です。子どもは知恵がつけばつくほど、ウソをつくものなのです。
4歳を過ぎるころから、自主性や主体性がめばえたことによって、自尊心が生まれてきて、自分の誇りを傷つけたくない為にウソをつくようになります。何か失敗をしたとき、「ボクはやっていない。弟がやった」など兄弟のせいにしたりするのもその表れでしょう。
子どもがよくウソをつくことに悩まれているなら、親は子どもが自分のプライドを守るためのウソをつくことの意味を、考えてみることが必要です。
ウソをつくような状況を、親がつくっているのかもしれないのです。「ウソをつかなければ、ひどく叱られる。プライドを傷つけられる」。そういう気持ちの裏返しで子どもが自分を守るためにウソをついているなら、悪いのは子どもではなく、大人です。
子どもの気持ちをじっくりと聞いてあげる態度で
子どものウソは、自立心が出る時期や反抗期に多くなります。親はどう対処すればいいでしょうか?
たとえば、宿題をしていないのに「宿題をした」と子どもが言ったとき、親はしていないことをわかっていると穏やかに伝えつつ、子どもの気持ちをじっくり聞いてあげたうえで、「今でなくてもいいから今日中にしなさいよ。していかないと明日学校で大変だよ。もし必要なら手伝ってあげるからね」と伝えてあげる。そんな態度がいいのだと思います。
子どもは宿題をいつかはしなくてはいけないことをわかってはいるのです。ですから、その気持ちを推し量りつつ、社会の中で生きていくためにはしなければならないのだということを子どもにやんわりと伝えてあげればいいのです。
このように、子どものいうことを真正面から否定せず、想いをじっくり聞く努力をして、子どもを諭して協力してあげる。子どもはそうされることで親の愛情を感じて、親に対してウソをあまりつかないようになります。
親に自尊心を傷つけられている子どもほどウソをつきます
もし、お子さんが何度もウソをつくようでしたら、日ごろの親子関係を見直してみることも必要です。
子どもが言うことを聞いてくれないからといって、親がいつも厳しく叱っていたり、子どもの自尊心を傷つけるような態度で子育てをしている親の子どもはウソをつくことが多いのです。
なぜなら、そうした子どもは親に対して、自分の弱みや具合の悪い点を言い出せず、自分が傷つきたくないからウソをつくからです。親が子どものウソに対して、感情的に責めたり、証拠をつきつけて迫ったりするのは感心しません。子どもに一種の復讐心と敵愾心を植え付けることになってしまうからです。
その反対に、親が子どもの望むように愛していると、その子どもは親にあまりウソをつきませんし、ウソを中心にした問題もあまり起こらないのです。
「ごめんなさい」が素直に言える子どもにするには
イソップ物語に「北風と太陽」のお話がありますが、それと一緒です。厳しく叱るだけの北風のような子育ては賢明な子育てとはいえません。温かい太陽な気持ちで接してくれる親にふれることによって、子どもは「自分の気持ちを理解して、大切に育ててくれる親の言うことなら聞こう、素直になろう」という気持ちになるのです。
厳しく叱ることが、よいしつけにつながるものではないことを、お母さんやお父さん方はくれぐれも頭に留めておいてください。
たとえばお子さんが悪いとわかっていることをしてしまったとき、自分の意志とは別に失敗してしまったとき、ひどく叱るのではなく、その正しいやり方を教えてあげたうえで、「次からは大丈夫」と言ってあげてほしいのです。
そうやって子どもの自尊心を支えているうちに、ウソをつかずに、気持ちよく「ごめんなさい」と言える子どもになると思いますよ。叱るときは、子どもの自尊心を傷つけずに親の価値観や社会での取り決めを伝えることが、本当の意味でよいしつけと言えるでしょう。
記事監修
1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。
構成/山津京子 写真/繁延あづさ