「ヘクトパスカル(hPa)」は、天気予報でよく使われる言葉です。台風シーズンになると連日のように耳にすることもあり、子どもに意味を聞かれることがあるかもしれません。ヘクトパスカルの使い方や由来、台風との関係について解説します。
ヘクトパスカルとは?
ヘクトパスカルが天気予報で頻繁に使われているのはなぜでしょうか。名前の由来とともに見ていきましょう。
気圧を表す単位
天気予報では、晴れや雨のような空模様のほかに、気温や風速、気圧の高さなどさまざまな気象情報を伝えています。
ヘクトパスカルは気象情報の中で「気圧」を表す言葉です。
「パスカル」は圧力の単位のことで、100倍を意味する「ヘクト」を頭に付けて、ヘクトパスカルとして使っています。畑などの面積を表す単位「アール」にヘクトを付けて、「ヘクタール」と呼んでいるのと同じです。
ヘクトパスカルの由来
ヘクトパスカルのパスカルは、フランス人哲学者「ブレーズ・パスカル」から来ています。パスカルは哲学以外にも、数学や物理学の分野で優れた功績を残した人物です。
大気にも圧力があることを実証したり、圧力の伝わり方の法則「パスカルの原理」を発見したりしたことでも有名です。
気圧の概念を確立した実績から、圧力の単位として「パスカル(Pa)」が使われるようになりました。
天気予報などで耳にするヘクトパスカル
ヘクトパスカルは圧力の単位ですが、気圧以外に使われることはほとんどありません。「ヘクトパスカル=気圧の単位」といってもよいでしょう。ヘクトパスカルと気圧との関係を解説します。
高気圧と低気圧について
国際的な基準では、地上0m地点の大気の圧力を「1気圧」としています。1気圧は1013.25ヘクトパスカルです。
ただし、天気予報で使われる「低気圧」は、1気圧より低いかどうかではありません。高気圧や低気圧は、周囲の気圧と比べて「高い」か「低い」かを表している言葉なので、間違えないように注意しましょう。
気圧の高さは空気の密度に比例します。空気が濃い場所は気圧が高く、薄ければ低くなるのです。空気には薄いほうへ移動する性質があり、低気圧の部分には周りから多くの空気が流れ込みます。
流れ込んだ空気は、行き場を失うと上昇気流となって上空へと向かいます。上空の冷気によって空気中の水蒸気が水や氷に変化し、集まったものが雲の正体です。
低気圧が来ると天気が悪くなるのは、上昇気流によって雨雲が発生するためです。高気圧では全く逆の現象が起こるので、天気がよくなります。
中心気圧925ヘクトパスカルの意味
中心部の気圧が低い場所には、空気が多く流れ込んで強い風が吹きます。低気圧が発達して周囲との気圧の差が開くほど、風も強くなるのです。
発達した低気圧にはたくさんの空気が集まるため、上昇気流の規模も大きく、大量の雨を降らせることもあります。
赤道付近で発生した低気圧(熱帯低気圧)が発達し、低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/秒以上のものが「台風」です。
一般的には中心気圧が低い台風ほど、風や雨が強まる傾向にあります。1959年の「伊勢湾台風」では、中心気圧が929ヘクトパスカルにまで低下し、4万人以上の死傷者を出す大災害となりました。
これまでに日本に上陸した台風で最も中心気圧が低かったのが、1961年の第二室戸台風の「925ヘクトパスカル」です。さらに気象庁の統計開始前の参考記録では、過去に920ヘクトパスカルを下回る台風が発生したとの記録もあります。
このように、中心気圧を見れば台風の規模がある程度推測できます。もし、中心気圧が925ヘクトパスカルという台風がやってきたら、甚大な被害をもたらす可能性が高いと考えてよいでしょう。
出典:気象庁|台風とは
出典:気象庁|中心気圧が低い台風
大型台風の見分け方
天気予報では、台風の様子が「大型で強い」などと表現されます。台風の強さは最大風速を、大きさは風速15m/秒以上の領域の半径を基準にしています。
気象庁が定める台風の強さ(最大風速)の基準は、以下の通りです。
・台風:18~32m/秒
・強い台風:33~44m/秒未満
・非常に強い台風:44~ 54m/秒未満
・猛烈な台風:54m/秒以上
また、強風域の半径が 500〜800km未満の台風は「大型(大きい)」、800km以上は「超大型(非常に大きい)」に分類されます。
例えば、最大風速が45m/秒で、強風域の半径が600kmなら「大型で非常に強い台風」となるのです。
ミリバールとの違いは?
以前は、気圧を表す単位として「ミリバール」が使われていました。小さな頃に、天気予報で聞いた記憶がある人も多いのではないでしょうか。ヘクトパスカルとミリバールの違いを見ていきましょう。
ヘクトパスカル以前に使われていた単位
「ミリバール(mbar)」は、第2次世界大戦の後から1992年まで、ヘクトパスカルと同じように使われていました。
ミリバールの「ミリ」は1/1000を表す言葉です。圧力の単位「バール」にミリを付けて「ミリバール」としています。
また、1気圧は1013.25ミリバールで、ヘクトパスカルと同じです。ミリバールとヘクトパスカルは呼び方が違うだけで、同じ値を表しています。
ミリバールが使われなくなった理由
同じ値なのに、ミリバールからヘクトパスカルにわざわざ変更したのはなぜでしょうか。
物の大きさや重さなどを表す単位は、国によって異なります。日本でも昔は「尺」や「貫」という単位系が使われていました。
国際交流が盛んになると、そのままでは不便です。そこで、世界中で同じ単位系に統一しようという動きが広がり、国際単位系(SI)が定められました。
日本も国際単位系を公式に採用することとなり、国際単位系ではないバールからヘクトパスカルに変更したのです。
天気予報をチェックしてみよう
ヘクトパスカルは主に天気予報で使われている「気圧の単位」です。気圧の変化は、天候に大きな影響を及ぼします。台風で強風が吹くのも大雨が降るのも、周囲との気圧差が原因です。
今後天気予報を見るときは空模様や気温だけでなく、気圧の動きも一緒にチェックしてみるとよいでしょう。
文・構成/HugKum編集部