近年は新型コロナウイルス感染症の影響で、長期的に保育所や幼稚園が休みになった出来事もありましたね。2021年に入っても「コロナ」の影響は続き、保育所や幼稚園への通園が不規則になっている事情もあるようです。
そんなイレギュラーな休みの休み明けに、子どもが保育所、幼稚園に行きたがらなくなって困ったといった経験はありませんでしたか? 「早く行きたい」という子どもがいる一方で、年齢や環境によっては子どもが行き渋る、送迎時に泣いて暴れるケースもあったかもしれません。
そこで今回は、富山短大付属みどり野幼稚園の元園長にして、現在は富山福祉短期大学で非常勤講師を務め、富山県幼児教育センターのスーパーバイザーを務めるなど、その道の専門家である青山仁先生に、長い休み明けに子どもが園に行きたがらなかった場合の対処法を聞きました。
普段の長期休み明けに子どもが行きたがらない場合にも、参考にしてみてくださいね。
園に行きたがらない子どもは「ちょっと意外」
――(インタビュアー/坂本)今日は、よろしくお願いします。今日のテーマは「長期休み明けに、保育所や幼稚園に行きたがらくなった子どもをどうすればいいのか?」についてです。2020年には、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの保育所や幼稚園が休園になりました。わが家の場合も、休み明けに登園した際、特に下の子ども(年少クラス)は、送迎時に泣きました。
青山(敬称略・以下同)「そうですか、ちょっと意外ですね」
――何が意外なのでしょうか?
青山「今まで私自身が28年間、幼稚園に勤務していましたが、入園当初の時期を除けば、幼稚園に来たがらない子どもに出会ったケースのほうがまれです。むしろ長期休み明けの場合、来たがる子のほうが多かったように思います。お盆など長い休みに入ると、『行きたがって困る』と親から言われました」
園のあり方が変わってきている
――むしろ青山先生の幼稚園では、行きたがって困るという意見があったのですね。しかし、インターネット上でも、長期休暇明けにリズムを崩す子どもの悩みが見られます。
青山「登園を嫌がる原因としては、ひとつに園の保育が子どもにとって楽しくないという理由が挙げられます。
私が幼稚園の教諭となった最初のころは、保育自体が子どもの興味や関心を大切にするというより、決められた時間割で『教える』というスタイルが一般的でした。
保育園にしても、『身の回りの生活をできるようになる』という目標に向かって、身に付けさせようとするスタイルが普通でした。運動会や生活発表会になると、毎日練習が行われます。そうした日々を園で過ごす子どもたちの中には、登園を嫌がる子も結構いたように思います。
しかし、新しい『幼稚園教育要領』などで、遊びを通した保育や、主体的に環境にかかわる活動の大切さが言われるようになりました。『訓練』や『無理やり』という姿から、遊びを中心とする方向に園の保育が変わっていく中で、登園を嫌がる子はいなくなったように思います」
自主性を尊重した「規律」
――遊びが大切、遊びが学びという言葉は、わが子の通う園の先生たちからもよく耳にします。また、私の子どもたちが通う園の名誉のために言うと、子どもたちは園が楽しくて仕方ないようです。ただ、授業参観などを通じて見ていると、わが子の園では遊びの中にも規律を大切にしているように思えます。
運動会や生活発表会などが近づくと、整列の練習なども行われ、そうした園では登園を嫌がる子もいるとのことでしたが、先生が園長を務めていた園では、運動会や発表会はないのですか?
青山「もちろん、ありました」
――練習はどのようにさせていたのでしょうか?
青山「何より大切な点は、子どもたちの楽しいという気持ちです。進んでやろうという主体性が大切なので、運動会が近づけば『そろそろ運動会だね』と投げかけます。すると、子どもたちから『じゃあ、そろそろかけっこの練習をしよう』と提案が出てきます。『じゃあ、どうしよう?』と聞くと、子どもたちがカラーコーンを持ってくるなど、準備を自分たちで始めてくれます」
――本当に自分たちだけでできるのですか?
青山「年長にもなると、子どもたちは自分より年上の先輩が、去年どのようにしていたのか覚えています。その記憶を頼りに、自分たちで動きます」
園が楽しければ子どもは行きたがる
――先生が園長を務めていた園では、普段はどういった活動をしているのでしょうか? 例えば登園したら、子どもたちはまず何を始めるのでしょうか?
青山「9時に登園し、自分の準備が出来たら、午後12時から1時までの給食に向けて、ひたすら外遊びです」
――雨の日は、どうするのでしょうか?
青山「雨の日も、雨がっぱを着て、ひたすら泥だらけになって遊ぶだけです。なので保護者には汚れてもいい洋服を持ってきてもらっていました。園庭にはいろいろな木を植えて、季節の花を植え、さまざまな遊びができる環境を整えました。子どもたちは自分で遊びを発見して、その喜びを友達と共有しながら、一緒に考えたり、工夫したり、学び合ったりする、そんな毎日です」
――確かに、園がひたすら友達と遊ぶだけの場所なら、子どもたちも「早く行きたい、遊びたい」となりそうです。先ほど幼稚園教育要領などが変わって、遊び=学びという方向に切り替わったと言っていました。そうなると、最近はどこの園もほぼ青山先生のいた幼稚園と変わりないと考えていいのでしょうか?
青山「子どもの気持ちに寄り添いながら、楽しい保育を進めれば、登園を嫌がる子どもは確実に少なくなるはずです。しかし、いまだに保育者主導で行われている、子どもにとって楽しくない保育が実際には見られます。
個々の保育者の指導力も問われるのでしょうが、保育のあり方を園全体で変えなければ、なかなか解決しないと思います」
親子関係が不安定だと、子どもは安心して親から離れられない
――話が壮大になってきました。こうなると園の問題になってしまって、「いい園を選ぶしかない」という結論になってしまいます。私の仮説では、何か親子の問題、家庭内の問題が行き渋る子どもの一因になっていると思っていたのですが。
青山「そうですね。原因の2つ目として、親子の関係性の問題があると思います。親子関係が不安定だと、子どもは安心して親から離れられない場合が多いです」
――安定した親子とは、どういった関係でしょうか?
青山「親が子どもを手放しで認め、子どもが手放しで認められているかだと思います。親としては、どうしても他の子どもと比べてしまう気持ちがあると思います。しかし、子どもは一人一人違います。子どもの良さをどこに見いだすのか。良さを認めて、子どもが認められていると感じられる、そんな親子関係を安定していると呼ぶのだと思います」
子どもの発達的特性は関係ある?
――親子関係以外で、子どもが登園を渋る原因は考えられますか?
青山「子ども自身の発達的特性の問題が見られる場合もあるはずです。現在、発達障がいが話題になっていますが、興味関心に偏りがあると、友達との関係もうまく築けません。
そういった子どもは、園生活において先生にしかられたり、友達から蔑視されたりする機会が多く、自己肯定感をうまく保てずに、登園できなくなるケースもあるようです。
ただ、発達的特性の問題が少ないのであれば、やはり親子関係など家庭内の問題が考えられると思います。家庭の問題を背負っている子どもは、不安で登園できなくなります。親が安定した気持ちで園へ送り出し、子どもが安心して帰れる家庭があれば、簡単には登園を渋らなくなるはずです」
長い休みの間は生活リズムは変えない
――とはいえ、現実問題として子どもが「行きたくない」とぐずったら、保育所に子どもを預けるパパ・ママからすれば、死活問題です。何か今すぐ試せるテクニックというか、予防法はありませんか?
青山「長期の休みが続くと、生活のリズムが狂いがちです。予防法としては、生活リズムを変えずに寝起きする、食事をするなどの工夫が考えられます。その上で、普段は園に行っている時間に一緒に散歩したり、公園へ出かけたりして、身体を動かして遊べると理想的です。
また、休みが続くと友達との関わりも少なくなります。友達家族を誘って一緒に遊ぶ機会を持てると楽しいと思います。友達との時間を園の外でつくれば、また園で一緒に遊びたいという気持ちや、園に行けば友達に会えるという期待感が持てるはずです」
子ども自身に選ばせる「選択肢」という魔法
――予防法を講じても、なお「行きたくない」と子どもが言い出したら、親としてはどうすればいいのでしょうか?
青山「行きたくないとぐずる場合、本人は恐らく『お母さんは行かせたいと思っている』と、分かっているはずです。それでもなお、ぐずっているわけです。
パパやママも切羽詰まって、どうやって行かせようかと考えがちですが、感情的になるほど逆効果です。本人の行きたくない気持ちをなんとか冷静に受け止めた上で、園での楽しい遊びや、友達の存在をあの手この手で伝えて、『行こう』と最後に誘ってみてはどうでしょうか。
他には、『園の玄関まで一緒行って帰るのと、お母さんがお部屋に少しだけ一緒にいるのと、どっちにする?』などと選択肢を与えて選ばせると、有効な場合もあります。とにかく一度は園の近くまで行かせるわけです。
園の玄関まで行き、友達の顔を見ると、割とスムースに入っていく場面も多いと思います。場当たり的な対応やご褒美で釣ると、しこりを残しがちです」
――それでも、頑として行きたがらない場合はどうすればいいのでしょうか?
青山「それでもなお、子どもの『行かない』という意思がはっきりしている場合は、状況によっては受け入れるという選択肢もひとつではないかと思います。その場合は、単に受け入れて終わりではなく、お母さんなど保護者の願いや思いを冷静に伝えておく必要があります。感情的になってしまうと、子どもは自分でどうすれば良かったのか、考える余裕を持てません。気持ちの切り替えもできなくなります」
行かない場合の家での過ごし方は
――仮に行かせないとなった場合、一日をどう過ごせばいいのでしょうか? 休ませた以上、親としてはダラダラさせたくないという気持ちが働くと思うのですが。
青山「単純な話ですが、子どもに聞いても良いのではないでしょうか」
――仮に子どもがテレビを見たい、YouTubeを見たいと言っても、認めていいのですか?
青山「普段の生活リズムを守った上であれば、いいのではないでしょうか。ただ、あくまでも一般論の話です。子どもと親、子どもと保育者の関係は、一言でその良し悪しは言えません。もっと複雑でドロドロした面もあり、正解は一概に言えないと思います。だからこそ、子育でも保育でも、保育者と子どもがお互いから学び合って、日々成長できればと思っています」
親の意図と子どもの意思、ぶつかりあいが「親子」を育てる
園での生活自体を楽しくする、休み中も生活リズムを乱さず、友達と遊ぶ楽しさを経験させる、そして「行きたくない」子どもの気持ちときちんと向き合う――。休み明けの通園渋りの問題は、私たち大人の姿勢が問われる問題でもあります。
特効薬的な安易な手法はなさそうです。ただ、通園渋りをきっかけにして起こる親の意図と子どもの意思のぶつかりあいが、子どもとじっくり向き合い、わが子の性格やふだんの思いを知るきっかけにもなるようですね。
お話を伺ったのは…
青山 仁
元富山短大付属みどり野幼稚園園長。現在は富山福祉短期大学で非常勤講師、富山県幼児教育センターのスーパーバイザーを務める。
構成・文/坂本正敬 写真/繁延あづさ、写真AC