「朝ごはんが大事」とよく言われますが、なぜなのでしょうか。子どもの脳を育てる食事「育脳ごはん」のパイオニアである、管理栄養士の小山浩子さんに、栄養学の見地から、脳を働かせるために効果的な朝ごはんの工夫を教えていただきました。
なぜ、朝ごはんが大事なの?
人間の脳の成長期は、案外早く訪れます。なんと、6歳で大人の脳の90%までできあがり、そして、12歳にはほぼ完成してしまうのです。脳も、体と同様に、食べ物から摂取した栄養で作られています。
つまり、賢い子どもにする第一歩は「いい脳をつくるための栄養をきちんと摂取する食事」です。食事の中でも、朝ごはんは特に大事です。なぜなら、朝の食事は、一日の活動に備え、脳をスタンバイ状態にする大切な役目をもっているからです。
私たちの体は、寝ている間に消エネモードとなり、体温が約1℃下がります。そして、体内に蓄えられていた脳を動かす栄養素のブドウ糖は、睡眠中に消費されてしまいます。ですから、朝起きた時、私たちの体は動く準備ができておらず、ブドウ糖は空っぽに近い状態です。
とりわけ、成長期の子どもにとって体と脳を目覚めさせるための大事な食事。それが、朝ごはんです。
どんな朝ごはんが脳にいいの? 花まる朝ごはん4つのルール
朝ごはんに摂りたい栄養素は、脳を働かせるために必要な糖質・タンパク質・脂質の3つ。特に、エネルギーとして消費される量が高いタンパク質は、欠かせません。
ルール1 エネルギーの素になる3大栄養素を摂る
1 糖質
脳を動かすエネルギーはブドウ糖(糖質)です。お米やパンなどの主食に含まれる栄養素です。朝、目覚めた時は脳を動かすエネルギー源はほぼ空っぽ。必ず、主食を摂って糖質を摂取しましょう。
2 タンパク質
タンパク質は、脳の40%を構成する重要な成分。朝ごはんにおいては、睡眠中に下がった体温を上げる役割も担っています。肉や魚の他、卵や大豆も良質なタンパク質の供給源です。卵や牛乳、ヨーグルトなどの乳製品は、吸収効率も高いのでおすすめです。
3 脂質
脳の60%は脂肪でできています。脳を成長させるのは「脂質」と言っても過言ではありません。脳の神経細胞が柔らかいと脳内情報がスムーズに駆け巡ることができます。「脳を柔らかくする良質な油」の代表格がDHA。魚介類、特に、さんま、さば、いわし、まぐろに多く含まれます。
ルール2 ビタミン・ミネラルで脳の働きをサポート
脳を育てる「主役」をサポートする2つの栄養素も、朝ごはんには欠かせません。
ビタミン
ビタミンB1は、糖質からエネルギーを生産する酵素を手助けする働きをもっています。なので、ビタミンB1が不足すると、いくら糖質をとってもエネルギーを効率的につくり出すことができません。これは、注意力や集中力がダウンすることにつながってしまいます。そして、ビタミンB2は、脂肪を分解してタンパク質を合成し、記憶力の低下を防ぐ働きがあります。
ビタミンB1を多く含む代表的な食品には、ごま、胚芽米があります。ビタミンB2は、牛乳、チーズ、ヨーグルトなの乳製品に多く含まれます。
ミネラル
ミネラル類も脳の働きには重要です。記憶力と深い関係のある「亜鉛」は、貝類や、大豆で摂取することができます。酸素を運び、血液をよい状態に保つための「鉄分」は、大豆やドライフルーツに多く含まれています。骨のカルシウム維持には、ワカメなどの海藻類に含まれている「マグネシウム」が活躍します。
ルール3 冷たい食べ物は避ける
睡眠中に1℃下がった体温を上げるために、せっかく、肉や卵などのタンパク質を摂っても、冷たい飲み物を飲んでしまっては効果はゼロどころか、マイナスになってしまいます。朝ごはんには、冷たいままの牛乳ではなく、ホットミルクに。ホットミルクにカルシウムを多く含む麦芽飲料をプラスして飲むのもおすすめです。
ルール4 唾液を出すためによく噛んで食べる
咀嚼も脳の発達には欠かせないものです。主食のごはんやパンはもちろん、ヨーグルトやミルクなどの飲み物も「噛んで食べる」ことを意識しましょう。噛むことによって唾液が多く出て、胃腸の活動モードをあげ、消化力をあげることにつながります。
いつもの朝ごはんを、プラスワンの工夫で「育脳朝ごはん」に
「朝からそんなたくさんの食材を使ったメニューはムリ!」と心配しないでください。冷凍食品や缶詰、レトルトパックの食材をうまく活用すれば、ぐんと楽に、かしこい朝ごはんが作れます!工夫の例をご紹介しましょう。
<主食>
白飯、食パンにタンパク質をプラスワン!
・白米ごはん+卵、瓶詰めの鮭フレーク、納豆
・トースト+ハム、チーズ、きな粉(きび砂糖を混ぜる)
*白米を胚芽米や雑穀米に、パンを全粒粉パンにすれば、血糖値コントロールができて、さらにレベルアップ!
<副菜>
みそ汁や牛乳にタンパク質・脂質・ビタミンをプラスワン!
・おみそ汁+イワシのつみれ(おみそ汁はインスタントでOK!つみれは脳にいいDHAがたっぷり!)
・牛乳+トマトジュース(牛乳とトマトジュースは1:1。鶏ガラスープの素を少々入れて温めます)
・牛乳+鮭缶(鮭缶小に牛乳2カップ、鶏ガラスープの素を少々、みそ大さじ1を加えて温める。ブロッコリーなどを加えればさらによし。パンにもご飯にも合います。)
タンパク質とカルシウム補強に。スキムミルクに注目!
私が、おすすめしている食品の一つにスキムミルクがあります。スキムミルクは、牛乳から脂肪分を除いた脱脂乳を粉末状に乾燥させたものです。脱脂粉乳とも呼ばれます。
スキムミルクには、炭水化物・脂肪・タンパク質の三大栄養素がバランスよく含有されています。牛乳に比べてカロリーは高く、栄養成分量も多いのですが、かなり低脂肪であるため、ダイエットの意味でも注目され、このごろは「大人のスキムミルク」を謳った商品も多く出ています。
私たち日本人は、摂取しているエネルギーの中で、特にカルシウムが不足しています(参照・一般社団法人Jミルク資料)。カルシウムは一度にたくさん摂っても体にためておくことはできず、必要のない分は排泄されてしまいますので、常に意識して摂り続けたい栄養素です。
過剰になりがちな脂質の摂取量は増やさず、タンパク質やカルシウムなどの大切な栄養を摂るにはふさわしい食品がスキムミルクです。パン作りをされる方には、入れることで風味アップとふんわり食感がでるので、おなじみかもしれません。長期保存が可能な食品ですし、ヨーグルトに入れたり、シチューなどのお料理にひとふりするなど、成長期のお子さんの栄養補給の意味で積極的な活用をおすすめします。
教えてくれたのは
大手食品メーカーを経て2003年にフリーに。料理教室の講師やメニュー開発、特に育脳レシピを数多く手がける。2014年『目からウロコのおいしい減塩「乳和食」』(主婦の友社)で、グルマン世界料理大賞を受賞。著書に『子どもの脳は「朝ごはん」で決まる!』『かしこい子どもに育つ! 育脳離乳食』(小学館)など多数。最新著書は『やる気と集中力を養う3~6歳ごはん』(池田書店)。公式ホームページ
イメージカット/山本彩乃 構成/Hugkum編集部