月齢を重ねると赤ちゃんにも自我が芽生え、「怒る」という感情が見られるようになります。赤ちゃんはなぜ怒るのでしょうか、怒るとどんなことをするのでしょうか? 今回は赤ちゃんが怒る理由や怒ったときの行動、生後いつごろから怒るのかなどを解説します。
さらに、ママやパパが赤ちゃんを声を荒げて怒ってしまうことの影響や、そうしたことを未然に防ぐ方法も紹介します。
目次
赤ちゃんが怒るのはどんなとき?
赤ちゃんは、まだ言葉で気持ちを上手に伝えることができません。つまり、赤ちゃんにとって怒ることは「自分の気持ちを表すための手段」です。まずは、赤ちゃんが怒るのはどんなときなのかを見ていきましょう。
思い通りにならないとき
赤ちゃんは「こうしたい」と思うことがあっても、言葉で伝えられなかったり、思ったとおりに体を動かせないことの連続です。自分がイメージしたとおりに物事がうまくいかないときは誰でもイライラして、腹を立ててしまいます。
ですが、赤ちゃんが小さい頭と体で「こうしよう」「ああしたい」といろいろ考えていると思うと微笑ましいですね。
かまってほしいとき
ママやパパの顔が見えなくて不安、さみしいなどと感じたときにも赤ちゃんは怒ってしまいます。身近な人にかまってほしいというサインです。
たとえ、近くにいたとしても、ママやパパがテレビやスマホなどを見ていて、自分にちゃんと向き合ってくれていないと感じると怒って自己主張します。そんなときは抱っこして、赤ちゃんを安心させてあげましょう。
体調が悪いとき
熱があったり、お腹が痛かったり、体の調子がいつもと違う、なんだか不快と感じていても、赤ちゃんはそれを言葉で伝えることはできません。泣いたり、ぐずったりして体の不調を訴えます。
また、ママやパパの見ていないところで体のどこかにぶつけて痛い、汗をかいて痒い、おむつが気持ち悪いなどのときも同じように上手く伝えることができなくて、怒ってアピールすることがあります。
眠いとき
赤ちゃんは、お昼寝や夜寝る前にぐずって、機嫌が悪くなることがあります。「眠いときは、すぐ寝ればよいのに」と考えてしまいますが、そんな時は赤ちゃんは眠いのに眠れない状態になってしまっている可能性があります。
寝る前にぐずってしまう「寝ぐずり」の原因ははっきりとはわかっていませんが、日中に動きすぎて興奮してしまっている、お腹が空いている、暑いまたは寒い、体調が悪いなど、さまざまなことが考えられます。眠たいのに眠れないと、赤ちゃんは機嫌が悪くなってしまいます。
不安なとき
環境の変化に不安を感じて、怒ってしまうこともあります。たとえば、大きな音が出る場所に行ったとき、知らない人がたくさんいる場所に行ったときなどです。また、部屋が暗い、あるいは明るすぎるなどの理由で不安や不快を感じて、怒ってしまうこともあります。
赤ちゃんは怒るとどんなことをするの?
まだ気持ちを上手に伝えることができない赤ちゃん。怒ったときにはどんな行動を取るのでしょうか。一般的な例を紹介します。
泣く、かんしゃくを起こす
赤ちゃんが怒りの感情を表すために取る行動といえば、大声で泣いて、かんしゃくを起こすことです。自分の思いどおりにならないことへの不満や不快に感じていることをうまく伝えることができない赤ちゃんは、そのイライラを泣いたり、叫んだり、ときには体をバタバタと動かすことで伝えようとします。
ものを投げる
おもちゃで遊んでいるときに中断させられたり、自分の思いどおりに動かないといったことがあると、手にしていたおもちゃを投げたり、床にたたきつけたりといった行動をとることがあります。
離乳食を食べているときにスプーンやフォークをうまく使えないときも、手にしていたスプーンやフォークを投げたりしてしまいます。
噛んだり、叩いたりする
自分の気持ちをわかってもらえない、不快で、気持ち悪いことを解決してもらえないと感じた時、ママやパパの腕に噛みついたり、叩いたりといった行動で怒りを表現することがあります。
ほかにもうまく母乳が吸えなくて怒り、授乳中におっぱいに噛みついてしまう赤ちゃんもいます。
うなる、震える
大泣きしているときなどに、体をぶるぶると震わせる赤ちゃんもいます。これは怒りの感情を抑えることができず、思い切り泣いてしまうことで全身に力が入ってしまうためです。
赤ちゃんはいつから怒るの?
赤ちゃんが示す怒りに最初はびっくりしてしまうママ、パパもいることでしょう。でも赤ちゃんが怒ることは自我の芽生えと考えることができます。成長の印と考えてください。ここでは赤ちゃんが怒りだす時期について説明します。
参考:久留米大学「乳児期早期の基本的情動の発達と活動水準および母親の情動表現性の影響」
生後3~4ヶ月くらいから怒りだす
赤ちゃんは、生後3~4ヶ月頃になると、感情の表現が少しずつできるようになってきます。ママやパパの顔がわかるようになり、あやすと笑ったり、手足をバタバタさせて喜んだりするようになります。ニコッと笑った顔にますます愛おしさが増してくる時期です。
反対に気に入らないことがあると体を思い切り反らして、大声で泣いたりする時期でもあります。これは自我が芽生えていることと関係しています。この時期の赤ちゃんは、不快な状態に対して、泣くことで意思表示をしています。赤ちゃんの自己表現はこの時期からどんどん発達していきます。
6ヶ月ごろからは激しくなる
生後6ヶ月頃になると、ますます喜怒哀楽の表現が顕著になってきます。好みもはっきりしてきて、イヤだと思うことに対しては機嫌が悪くなり、うれしい、楽しいときには大声で笑うようになります。また、恐い、さみしい、悲しいなど、いろいろな心の動きで泣くようになるため、「なぜ泣いているのか」がわかりにくくなってくる時期でもあります。
夜泣きや人見知りが始まるのもこの頃です。ママやパパにとっては大変な時期といえますが、赤ちゃんの心が発達している時期なのです。
赤ちゃんを怒りたくなるシーン、正しい対応は?
普段は可愛い赤ちゃん、でもかんしゃくを起こして泣き止んでくれない、危ないいたずらを繰り返すなどというときには、思わず赤ちゃんに向かって声を出し、怒ってしまいそうになります。
ですが、基本的にはどんな場合も、まずは赤ちゃんの気持ちをしっかりと受け止めて、落ちつかせてあげることが大切です。そのうえで、ダメなことはダメと伝えるようにしましょう。ここでは赤ちゃんを怒りたくなってしまったときの正しい対応について考えていきます。
「かんしゃく」への対応
気持ちのコントロールがうまくできない赤ちゃんは、怒りや不安を感じたときにかんしゃくを起こすことがあります。かんしゃくを起こした赤ちゃんは、大声で泣き叫ぶ、奇声を上げる、暴れる、物を投げる、まわりの人を叩いたり、蹴ったりするなどの行動を取ります。
そんなとき、ママやパパは、少しでも早くかんしゃくを止めたいと考えてしまいますが、赤ちゃんがかんしゃくを起こすと、落ちつくまでには少し時間がかかります。
人通りが多い場所や、頭をぶつける危険性がある場所でかんしゃくを起こしたときは、まずは赤ちゃんの安全を確保するために危険のない場所に移動しましょう。かんしゃくを起こしたことには何かしらの理由があるはずです。その気持ちを受け止めて、優しく抱きしめて、背中をトントンしたり、頭をなでたりして気持ちをクールダウンさせてあげましょう。
落ちついてきたら「嫌だったの?」「これが欲しかったの?」「痛かったよね」などの声かけをします。さらに「泣き止んでえらいね」「我慢できたね」などと、落ちついたことを褒めてあげるとよいでしょう。
「危ないこと」への対応
赤ちゃんは好奇心旺盛です。いろいろなものを触ったり、口に入れたりしたがります。興味津々でときには危ないことをしてしまうことも。
赤ちゃんの安全を確保することは、まわりの大人が心がけるべきことですが、万一、赤ちゃんが危ないことをしてしまったときには、しっかりそのことを伝えてください。まだ1歳にならない赤ちゃんでも、危険を伝える親の感情を感じ取ることはできます。
ママやパパが何かほかのことをしていたときは、一旦中断して、赤ちゃんの目を見て、「危ないよ」「痛いよ」と短い言葉で伝えるようにしましょう。親の表情や雰囲気から、危険なことを感じ取り、繰り返し伝えると少しずつ、してはいけないことを理解していくことができます。
「怒ると笑う、わざとする、何度も繰り返す」ことへの対応
赤ちゃんはママ・パパが怒っているのに、逆にうれしそうに笑うことがあります。赤ちゃんは、なぜママ・パパが怒っているか、自分が叱られているかをまだ理解できません。自分に向けられている顔が、怒った顔であっても、ママやパパが注目してくれることがうれしくて、笑顔になります。
赤ちゃんにとって嫌なことは注目されないことです。してほしくない「いたずら」や行動には、注目しないという手段が有効な場合もあります。
2歳前後になると、親の愛情を試すための「試し行動」を始める子もいます。わざと叱られる行動を取り、許してもらえるかどうか、自分が愛されているかどうかを試す行為です。
してはいけないことに対しては、しっかりと叱ったうえで、「そんなことをしなくてもあなたが大好き」という気持ちを伝えます。根気よく続けるうちに、子どもは自分が愛されていることを理解し、落ち着いていくはずです。
「遊び食べ」への対応
頑張って作った離乳食、食べてくれないとガッカリしてしまいます。食べ物を掴んでグチャグチャにしたり、スプーンやフォークを投げたりといった赤ちゃんの遊び食べには、どうしてもイライラしてしまいます。
以下の記事では、遊び食べの原因や対処法について詳しく解説しています。参考にしてみてください。
「いたずら(ティッシュを出す、ものを隠すなど)」への対応
赤ちゃんがあちこち動き回れるようになると、いたずらも始まります。微笑ましいいたずらもあれば、ティッシュの中身を全部引っ張り出してしまったり、大人には想像もつかないような場所に何かを隠したりと、ときには大声で怒りたくなってしまうこともあります。
以下の記事では、いたずらの上手なやめさせ方や、子どもがいたずらをしたときの親の正しい対応などを詳しく解説しています。赤ちゃんのいたずらが始まったら、ぜひ参考にしてみてください。
イライラして赤ちゃんを怒っちゃう…その影響は?
いつもは優しいママやパパも、疲れていたり、寝不足だったりすると、思わず声を荒げてしまいそうになります。そんなときは、ひと呼吸。赤ちゃんを大声で怒ると、さまざま悪影響があるといわれています。ここでは、赤ちゃんを怒ることによる影響を説明します。
影響① 赤ちゃんの思考が停止する
赤ちゃんはまだ言葉を正確に理解することはできなくても、ママやパパの感情や雰囲気を感じ取ることはできます。なので大きな声で怒られると、恐怖を感じて、思考が停止してしまいます。
さらに子どもの脳は怒鳴られたり、子ども自身を否定するような暴言を頻繁に浴びることによってダメージを受けることがわかっています。怒鳴り声を聞いて育った子どもは、性格や知能、理解力などに悪影響を受けると考えられています。
影響② 大人との信頼関係が低下する
赤ちゃんは、たとえ怒られても、ママやパパが赤ちゃんのことを考えて叱っていることが伝われば、愛情を感じて、安心して信頼関係を築くことができます。
これが大声で怒鳴ったり、赤ちゃん自身を否定するような叱り方をしてしまうと、怒られたことへの恐怖心が強くなり、「なぜ叱られたのか」は関係なくなってしまいます。さらに怒鳴られたことで委縮してしまい、甘えることが難しくなって、信頼関係が築けないことになりかねません。
影響③ 赤ちゃんの自己評価が低下する
子どもの自己肯定感は、親がありのままの自分を愛してくれたという経験から育ちます。
怒鳴られたり、感情的に叱られることが続くと、自己評価や自己肯定感が低下してしまいます。これは将来、人間関係を構築する際に影響を及ぼしてしまいます。
影響④ 真似をするようになる
怒鳴り声を頻繁に聞いて成長した赤ちゃんは、自分が聞いてきたことと同じように怒鳴ったり、攻撃的になったり、問題行動を起こすことが多くなるといわれています。「子は親の鏡」という言葉があるとおり、子どもは親の行動を真似するためです。さらに怒鳴ったり、感情的に叱ったりすることは赤ちゃんの情緒を不安定にすると考えられています。
赤ちゃんに怒ることを未然に防ぐ方法
赤ちゃんを大声で叱りつけたり、怒鳴ってしまわないように。ここではママやパパのイライラした気持ちを鎮める方法などを紹介します。
方法① 深呼吸で気持ちを落ちつける
怒りの感情が高まってきたことを感じたら、深呼吸してみましょう。深呼吸しながら、ゆっくり10まで数字を数えるようにすると、より効果的です。
怒りは瞬間的な感情と言われています。少し時間をおくことで気持ちが落ちつくはずです。
方法② 一旦赤ちゃんから離れる
赤ちゃんの安全を確保したうえで、一旦、別の部屋などに行って赤ちゃんと距離を取ってみましょう。物理的に離れることで気持ちを落ちつかせることができます。
方法③ 余裕を持った行動を心がける
お出かけのときや待ち合わせをしているときは、まわりに迷惑をかけないようにとか、時間に遅れないようにという焦りから、赤ちゃんにイライラしてしまうこともあります。
できるだけ時間や気持ちに余裕を持った行動を心がけましょう。最初から「思いどおりにはいかない」という心がけで、余裕をもって動けばイライラする機会は減るはずです。
方法④ ストレスをこまめに発散
ストレスが溜まっていると、どうしてもイライラしてしまいます。ときには自分のために時間を作ってゆっくりリラックスしたり、誰かと話をしてストレスをこまめに発散しましょう。
好きな動画を見たり、音楽を聴いたりすることもおすすめ。お子さんの絵本を大きな声で読んでみると意外と気分がスッキリします。自分に合ったストレスの発散方法を探してみてください。
方法⑤ 思いつめず、気持ちを楽に
頑張り屋さんのママ・パパほど、赤ちゃんにイライラを溜めがちになってしまいます。家事や赤ちゃんのお世話は、完璧にできなくても大丈夫です。「部屋が散らかってるけど、赤ちゃんと一緒にお昼寝しちゃおう」など、できなくて当たり前という大らかな気持ちで無理せず過ごしましょう。
赤ちゃんの気持ちを受け止めて
赤ちゃんが怒って泣き止まないときは、ママ・パパの体も気持ちもぐったり疲れてしまいます。ですが、赤ちゃんが怒ることは、自我が芽生え、成長していることの証です。赤ちゃんの気持ちをしっかり受けとめたうえで、ダメなことはダメと伝えましょう。
一方で、ママ・パパが赤ちゃんに大声で怒ってしまいそうになったときは、深呼吸して冷静さを失わないようにしましょう。ゆったりとした心で、赤ちゃんの成長を見守ってください。
記事監修
河井恵美
看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等に勤務。様々な診療科を経験し、看護師教育や思春期教育にも関わる。青年海外協力隊として海外に赴任後、国際保健を学ぶために兵庫県立大学看護学研究科修士課程に進学・修了。現在はシンガポールの産婦人科に勤務、日本人の妊産婦をサポートをしている。また、助産師25年以上の経験を活かし、オンラインサービス「エミリオット助産院」を開設、様々な相談を受け付けている。
文・構成/HugKum編集部