「本の読み聞かせ、いつまで続ける?効果は?」子ども&本に詳しい塾講師・海沼栄造先生に聞いた

本の読み聞かせは、子供が「もういい」というときまで続けましょう

寝る前などに本を読み聞かせるのは、親子の大事なスキンシップの時間とされていますが、これは子どもが何歳ぐらいまで続けるのがいいのでしょうか。今回は、長く子どもと本に関わってこられた学習塾「悠愉学舎」の海沼栄造先生に、親子の読み聞かせについて伺いました。

――子どもが小さい頃は当たり前のように本の読み聞かせを行っていたご家庭も、子どもが小学校に入ったあたりからは自分で読むスタイルになっている気がします。だいたいその年齢ぐらいで終わりにしていいのでしょうか。

海沼:本の読み聞かせは、できるだけ長い間するほうが良いと思います。本人が「もういらない」と読み聞かせを拒否するまで続けるといいでしょう。それが何歳で出てくるかは、お子さんによってそれぞれなのでわかりません。中には、幼稚園の頃から小学校高学年向けの本を読む子もいますが、ほとんどの子は、小学1年生ぐらいでは字だけの本をすらすら読めないと思います。

読み聞かせは親の愛情を感じられる至福の時間

もちろん、自分で読みたいというなら読ませてあげればいいのです。でも、どこかの時間で、「じゃあ今度はお母さんが読もうか」と言って、お母さんが読んであげる時間を持ちましょう。忙しくてなかなか時間が取れないかもしれませんが、寝る前の少しの時間でもいいので、膝に乗せたり、抱っこしたりして読んであげてください。子どもにとって、お母さんに抱かれて本を読んでもらう時間は、体全体で愛情を感じられる時間です。自分で本を読むのと、お母さんに抱かれて読んでもらうのとは、似て非なるもので、まったく違う行為。1人で本を読むのは自立していくということ、読み聞かせは親の愛情を感じるということ、その両方が子どもにとって必要なことなのです。

字だけの本の移行に、急ぐ必要はまったくありません!

――小学1年生ぐらいでは、どのような本を読むのがいいのでしょうか。絵本から児童書に移行するタイミングなどはありますか。

海沼:字だけの本に移行するのに、急ぐ必要はまったくありません。むしろ、山ほど絵本を読んでから、児童書に行けばいいと思います。絵本は、想像力を育み、美しいという感覚を育みます。絵本作家たちは、大人が見ても、子どもが見ても、いいなと思う絵を描きます。そういう絵を見て、絵の持つ美しさを感じるとる力が絶対に必要だと思います。例えば、梅田俊作と梅田佳子の「まんげつの海」という絵本は、絵を見て、海の美しさ、水の中の美しさが感じられる1冊です。絵本を通じて、海の美しさを感じられるのは素晴らしいことだと思います。これは大人が美術館に行って、いい絵をじっくり堪能しながら、自分の中の感性を研ぎ澄ませることと同じだと思います。

美しい絵本は子どもの美的感性を磨く

絵を見て楽しめる本はたくさんあります。吉田遠志という絵本作家の「アフリカの動物絵本シリーズ」は、想像力が膨らむ作品です。ライオンやゾウといった動物たちが動いてると子どもには感じられることでしょう。私もいま小学1年生の孫娘に読ませています。ほかにも、寺島圭三郎の『ひぐまのあき』や『しまふくろうのみずうみ』、堀内誠一の『太陽の木の枝』や『こすずめのぼうけん』、海外の作家ですと、バーバラ・クーニーの『にぐるま ひいて』や『オーパルひとりぼっち』、ユリー・シュルヴィッツの『よあけ』、ロバート・マックロスキーの『海べのあさ』などもおすすめです。どれもこれも子どもの美的感性を磨き、心の部屋を膨らませる最高の贈り物だと思います。

小さいころの読書体験は、その後の学力にも影響する

――小さいころにたくさん本を読んでおくと、学力も上がるようになるのでしょうか。

海沼:あくまでも僕の経験値ですが、もちろん学力にもつながると思います。たぶん、数学以外の科目は、ほとんど心配ないでしょうね。数学的ものの考え方は国語力だけではどうにもならないものがあるのですが、それ以外の科目は基本的に大丈夫です。

また、本を読んできた子と、読んできていない子では、文章力にも差がでてくると思います。本を読むことで勝手に語彙がたまってくるからです。しかし、小学校低学年ではまだ語彙がたまっていないので、読書感想文などはそこまで上手く書けないでしょうね。小学1年生はまだ本を楽しみながら、想像力を膨らませ、語彙をためている時期なんです。ですから、お子さんが本を読んでいることだけを褒めてください。「本を読んでてすごいね~」と。

子どもが本好きになるには、どんなアプローチが有効?

――本が苦手にならないように、親として気を付けることはありますか。

海沼:ひとつは先ほども言ったように、親の読み聞かせを意識的に続けることです。今の時代、テレビやゲームなど、本より楽しくて刺激的なことが山ほどありますよね。そっちのほうが面白いと思えてしまうのもわかりますが、そこは親がひと踏ん張りするところです。子どものあるがままにさせないのも子育てですから。読み聞かせが続いていれば、本の面白さ、お母さんに抱かれて本を読むことの嬉しさが子どもの心に残っているはずです。

親も一緒に本を読み、楽しむことが不可欠

私の塾に通ってきている中学生の中に、小学校4年生ぐらいまでお母さんに本を読んでもらっていた子がいます。『大草原の小さな家』などの長いシリーズものを、じっくりお母さんに読んでもらっていました。その後、自分だけで本を読むようになってからも、読書を愉しみながら、じっくりと考え、他者の意見にも熱心に耳を傾ける子に育っています。『ナルニア国物語』なども親子で読むのにいい作品だと思います。

もうひとつは、親も自分の好きな本を読む時間を作ることですね。親が本を読まない生活をしているのに、子どもに本を読みなさいと言っても、聞きませんよね。ネットで情報を取り寄せることはいくらでもできますが、ものを考えていく力は本を読むことで培われるものだと思います。そのためにも、親の背中を見せてあげることが必要でしょう。

――息子のためにまずは自分が本を読み、そして想像力を膨らませる作品をたくさん与えてあげようと思いました。ありがとうございました。

 

海沼 栄造(かいぬま えいぞう)先生
1967年に東京学芸大学入学。1989年~1999年の間、経堂で子どもの本屋「もみの木」を営業。1995年に学習塾「悠愉学舎」を開き、現在に至る。遊びを取り入れながら学ぶことによって五感を通じた学ぶ面白さや、自然 社会の中に潜むたくさんの不思議さに気づいてもらい、自分で考えて判断し行動する人間に育ってほしいという想いで 子ども達と一緒に学んでいる。子どもの本(現在は大人の本も)を読む「エヴァの会」を約20年、子どもの教育などの本を読む「樹の会」を約10年、塾の現役•OBのお母さん達、地域の方々と一緒に続けている。

▶︎悠愉学舎

取材・文/井上加織

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