日本では現在、エネルギー問題に直面しています。以前から国では対策を講じてきましたが、東日本大震災後に再び悪化している状況です。日本のエネルギー供給構成や問題点と併せて、個人でできる対策についても紹介していきます。
日本の一次エネルギー供給構成
エネルギーには原子力・石炭・石油・水力・風力など多数の種類があります。日本が抱えるエネルギー問題は、一次エネルギー供給構成が原因の一つです。日本のエネルギーの供給構成について詳しく解説しましょう。
約8割が化石燃料に依存
1970年代は中東の情勢が悪く、原油価格が急騰しオイルショックが起きました。73年の日本のエネルギー供給構成は、石油75.5%・石炭16.9%・液化天然ガス(LNG)1.6%と、エネルギー全供給のうち94%を化石燃料に依存していたため大きなダメージを受けたのです。
オイルショックを機に、国内では化石燃料への依存度を下げるためにエネルギー供給構成が見直されました。2010年には石油40.3%・石炭22.7%・液化天然ガス18.2%と、化石燃料は全体の81.2%にまで減少して原子力や再生エネルギーに分散しています。
しかし11年に発生した東日本大震災で原子力発電所が停止したため、再び化石燃料による火力発電へ依存し、18年には化石燃料依存度が85.5%まで増加しました。
参考:経済産業省 資源エネルギー庁「2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
日本が抱えるエネルギー問題
日本では、エネルギーの自給率・電気料金・温室効果ガスについて問題を抱えています。それぞれの問題点について解説しましょう。
自給率の低さと海外依存
日本はエネルギー消費大国でありながら、自給率が低く輸入による海外への依存度が高い状況です。東日本大震災前の2010年の自給率は20.3%でしたが、11年の震災で原子力発電所が停止したことで11.6%に減少し、14年には6.4%まで下がっています。
その後は再生エネルギーによる供給率がアップし、18年には11.8%まで回復していますが、OECD(経済協力開発機構)加盟の35カ国の中で自給率は34位です。
19年の化石燃料の輸入率は、石油99.7%・液化天然ガス97.7%・石油99.5%と非常に高い割合になっています。石油はサウジアラビアやUAEなど、全体の約92%が中東からの輸入です。紛争などが起きた場合、安定した供給ができなくなるかもしれません。
参考:経済産業省資源エネルギー庁「2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
電気料金の高騰
太陽光・風力・バイオマスなどの再生可能エネルギーは、国内で生産可能かつ温室効果ガスが排出されないため、重要なエネルギー源です。12年に固定価格買取制度を導入してから、設備容量が年平均18%の割合では急速に伸びています。
一方、東日本震災以降の日本では原子力発電所の停止や再生可能エネルギーの賦課金などで、国内の電力料金は19年には家庭向けで約22%、産業向けでは約25%も高騰しており、これが問題になっているのです。再生可能エネルギーの買取費用は19年には3.8兆円を超え、一般家庭での平均モデル負担額は774円/月と上昇しています。
また前述のように、石油は情勢が不安定な中東からの輸入がほとんどで、供給面や価格が不安定な状態です。さらに先進国や他の新興国による化石燃料の需要が高まり、IEA (国際エネルギー機関)では中長期的に価格の上昇が続くとみています。
参考:経済性 | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁
温室効果ガスの排出
化石燃料への依存割合が高い日本にとって、地球温暖化の要因である温室効果ガスの排出も重要な問題です。地球の気候変動に対する国際的な枠組みを決めたパリ協定の締結国では、温室効果ガスの削減目標を提出しており、5年ごとに更新されます。
日本の目標は、30年までに13年度と比較して26%の削減です。東日本大震災以降、日本の排出量は一旦上昇しましたが、19年には13年と比較して14.0%削減しています。また50年までに温室効果ガスを実質排出しない「カーボンニュートラル」を目指して動き始めています。
参考:
「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」経済産業省資源エネルギー庁
「2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」経済産業省資源エネルギー庁
日本のエネルギー問題への取り組み
今後の日本では、どのような取り組みを行っていくのでしょうか?現在取り組んでいるものと、2030年と50年を目標にした取り組みについて解説します。
基本方針は「3E+S」
日本のエネルギー政策の基本方針は、Energy Security(安定供給)・Economic Efficiency(経済効率性)・Environment(環境適合)とSafety(安全性)です。安全性を確保したうえで、エネルギーの安定供給や経済効率性を高めて、低コストなエネルギー供給を目指しています。
安定供給においては自給率を約25%まで引き上げ、経済効率性は電力コスト9.5兆円の引き下げが目標です。また21年4月のアメリカ主催の気候サミットにおいて、日本は30年度の温室効果ガス削減目標値を13年度から46%削減と発表しています。
参考:2020—日本が抱えているエネルギー問題(後編)|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
2030年エネルギーミックスの実現
エネルギー資源に恵まれない日本が、エネルギー自給率を約25%まで引き上げるには、さまざまなエネルギー源を組み合わせる「エネルギーミックス」を実現しなくてはなりません。30年までに再生可能エネルギー22~24%、原子力発電20~22%、化石燃料56%のエネルギーミックス水準を設定し、達成に向けて努力しています。
再生可能エネルギーは、電線の低コスト化や電力を受け入れやすくする工夫が必要です。自然環境からの影響を受けやすいため、カバーするための火力発電など調整力の準備もしなくてはなりません。
原子力発電は、今後の依存度をなるべく低減させつつ、安全最優先で原子力規制委員会の基準をクリアした後に再び稼働させていきます。使用済み燃料対策も重要な課題です。
化石燃料については、発電効率を高める技術の開発に取り組んでいます。
参考:「新しくなった「エネルギー基本計画」、2050年に向けたエネルギー政策とは?」資源エネルギー庁
2050年エネルギー転換と脱炭素化
日本が掲げている温室効果ガス80%削減の目標を達成するには、エネルギー転換をして脱炭素化へ挑戦することが必要不可欠です。約30年後には革新的な技術が開発される可能性もありますが、確証はありません。
20年12月21日には、今後のエネルギー政策を検討する「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」が開催されました。そこでは50年の脱炭素化達成に向けて、50年には電力量の50~60%を再生可能エネルギーにする参考値を示しています。
また、個別に目標数値を設定するのではなく、多種多様な選択肢を追求する方針で取り組み、最新の情報や技術の動向に基づき、科学的な調査・検査・議論によって重点ポイントを決定していくと発表しました。
参考:
「新しくなった「エネルギー基本計画」、2050年に向けたエネルギー政策とは?」資源エネルギー庁
2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討|資源エネルギー庁
個人でできるエネルギー対策
国が取り組むエネルギー対策だけでは、2030年に掲げた目標の達成は難しいでしょう。そのため、個人でできるエネルギー対策を三つ紹介します。
節電を心掛ける
エネルギーの消費が少なくなれば、大量のエネルギー源は不要です。日常生活では照明・エアコン・冷蔵庫など、さまざまな電化製品で電気を消費しています。
まず、使用していない場所の照明は、こまめに消すようにしましょう。エアコンの暖房の設定温度を1℃下げると約10%の節電につながるので、それだけでも省エネ効果があります。
家庭内の大型家電の冷蔵庫やテレビも要注意です。冷蔵庫は扉の開閉のたびに庫内の冷気が外へ逃げるので、開閉の回数を少なくしたり開けている時間を短くしたりするようにしましょう。テレビの画面も適度な明るさに調節することで節電になります。
個人単位でみると少しかもしれませんが、一人ひとりが取り組めば大きな力になるでしょう。
省エネ家電に買い替える
近年、さまざまな電化製品で省エネ家電が毎年発売されています。省エネ家電とは、消費するエネルギーを抑えた家電製品です。省エネ技術は日々進化しており、家電の中で消費電力が大きい冷蔵庫では、10年前と比較して約50%も省エネできます。
メーカー各社は「省エネラベリング制度」の対象製品には省エネ性能を表示しているので、購入の際にはチェックしておきましょう。省エネラベルは、国が定めた目標を100%以上達成している製品はグリーン、100%未満にはオレンジのマークと分類しています。
省エネ家電に買い替えれば、毎月の電気料金も削減できるので一石二鳥です。
再生可能エネルギー電力に切り替える
再生可能エネルギー電力に切り替えれば、化石燃料への依存度が低減し、エネルギー自給率を上げられます。CO2の排出量も少ないため、環境への影響も抑えられるでしょう。
太陽光発電システムなどを自宅に設置すれば、再生可能エネルギーへの切り替えも可能です。購入・設置の費用は高額ですが、発電した電気を自宅で使用するため電気料金がゼロもしくは大幅に軽減できます。
手軽に切り替えたい人は、再生可能エネルギーをより多く使用している電力会社と提携してもよいでしょう。
エネルギー問題に関心を持とう
日本が抱えているエネルギー問題は、主に自給率の低さと電気料金の高騰です。また、化石燃料による温室効果ガスの排出によって環境にも影響を与えています。2030年までに削減目標を達成するためには、国に任せきりにするのではなく、個人の取り組みも必要です。
節電・省エネ家電の購入・再生可能エネルギーへの切り替えなど、エネルギー問題に関心を持って対策に取り組むことが、環境維持につながっていくでしょう。
文・構成/HugKum編集部