ふだん子供の病気予防に心を配る親でも、事故に関しては「まさか」「うちに限って」と他人事にしがち。でも現実には、子供が命を落としたり一生の健康を損ねたりする重大な事故は多数起きています。
NPO法人Safe Kids Japan代表を務め、小児の傷害・事故予防を専門とする山中龍宏先生に、家の中で起こりやすい事故の安全対策について伺いました。
目次
毎年繰り返される家庭内の事故
1~4歳の子供が死亡する原因のトップは先天的な病気ですが、次いで多いのが今回取りあげる「不慮の事故」です。不慮の事故で毎年100人以上が亡くなっているのです(平成26年厚生労働省人口動態統計による)。この統計に表れているのは死亡者数ですが、その何倍もの数の親子が、事故による重い後遺障害や辛い治療に苦しんでいるのも現実です。 ちょっと転んだりするのは成長過程で当然あることです。すべての事故をなくそうとするのは非現実的ですが、「重症度が高い事故の予防」を目指すことはできます。子供の健康を願うなら、病気予防と同じように事故予防に取り組みましょう。
「見守り」だけでは事故は完全には防ぎきれない
「子どもから目を離さない」「気をつける」のような心構えも必要ですが、それだけで事故は防げません。24時間子供から目を離さないのは不可能です。事故は、目を離した隙や、親が見ている目の前でも起きているのです。街や道路のような家の外で起きる事故は、個人による対策は限られますが、家庭内の環境なら親にできることがたくさんあります。家庭をより安全な環境にして子供を守りましょう。
これ以上子供の事故を増やさないため、「ヒヤリ」「ハッと」の通報を
子供が事故にあうと、親は「自分が見ていなかったから」と自分を責め、周囲にもあまり話しません。でも、全国では同じような事故が起きているかもしれません。家庭に新しい製品が入ると新しいタイプの事故が発生しますが、事故情報が集まれば製品や環境の安全対策につなぐことができます。交通事故は、原因を徹底的に調べるシステムのおかげで、長年の間に激減してきました。家庭でのヒヤリ、ハッとした事故も下の窓口などに知らせてください。
通報先
・Safe Kids Japanセーフキッズジャパン
・消費者庁「子どもを事故から守る!プロジェクト」
■おうちの危険をチェックしてみよう!
事故例はほんの一例です。安全対策を重ねて事故から子供を守りましょう。
チェック1 浴室
溺れ・転倒・やけど。まさかと思うことが現実に
事故例
●親がシャンプー中、浅く湯を入れた浴槽に子供を座らせていた。気がつくとあおむけに横たわって、水面から鼻と口のみ出ている状態。反応がないので救急車を呼んだ。(1歳)
●実家での朝。別室で遊んでいたはずの子供が浴槽に浮いていた。すぐに心肺蘇生して、救急車を呼んだ。容易に浴室に入れるようになっていた。(1歳)
●洗い場のイスに立って遊んでいて、転倒。入口のコンクリートの段差にあごを打ちつけた。(3歳)
●風呂場で抱っこしていたとき、親が滑って転倒、子供の後頭部を風呂の壁にぶつけた。(1歳)
●浴室で遊んでいて、親が離れたすきに子供が湯の蛇口をひねり、ズボンの上から熱湯がかかった。(1歳)
2歳までは残し湯をしないで!
重症度が高く、特に1歳代に多いのが浴室で溺れる事故です。危険因子の第一は浴槽のふちが低いこと。高さが50㎝以下では身長が70㎝以上の子供がのぞきこめば容易に転落します。また、水深は5㎝でも子供は溺れます。親がシャンプー中は、子供が浴槽に近づけないように親が陣取るなどの工夫をしましょう。入浴後に湯を残すと、危険な時間帯が増加します。子供が小さいうちだけでも残し湯をやめたいものです。
チェック2 窓・階段 ・ベランダ
転落・転倒。あらゆるケースを想定した予防策を
事故例
●友人宅2階のベランダで親子で遊んでいたが、あっというまに柵の隙間から転落。地面に落ちて泣いていた。全身にケガを負った。(1歳)
●洗濯物を取り込むために行ったり来たりする親についていこうとして、部屋とベランダの段差で転倒。ベランダのコンクリートに頭をぶつけて出血。(1歳)
●2階の窓際に置いていたソファによじ登り、網戸を突き破って3m下の地面に墜落。親はまだ登れないと思っていた。(1歳)
●階段の10段の高さから、フローリングの床を越え、玄関のコンクリートの土間まで転落。前歯2本がぐらついて抜けそうになった。(1歳)
転落は重大事故に直結する
ベランダや窓からの転落は1、2、3歳に多く、高層階では死亡事故に直結します。窓からの転落はベランダよりも多発していますが、その原因のひとつは窓際にソファやベッド、イスを置く室内環境です。転落防止のために、高層階の窓は10㎝以上開けられないように規制している国もありますが、日本ではそのような建築規制はありません。手が届かないところにカギをつけて閉める、10㎝以上開かないようにするなど、べ対策を重ねることが大事です。
お話をうかがったのは
記事監修
事故による子どもの傷害を予防することを目的として活動しているNPO法人。Safe Kids Worldwideや国立成育医療研究センター、産業技術総合研究所などと連携して、子どもの傷害予防に関する様々な活動を行う。
出典:『ベビーブック』2017年5月号