「ぐっすり」は、good sleepではありません!
「ぐっすり」は江戸時代から使われている、正真正銘の日本語です。
江戸時代の『俳諧清書帳(はいかいせいしょちょう)』という雑俳集(遊びの要素が強い俳諧を集めたもの)に、「ちゃんと爰(ここ)へ来てグッスリと寝て」と出てきます。『俳諧清書帳』は享保(きょうほう)年間(1716~36年)、つまり徳川8代将軍吉宗の時代のものです。その時代に「good sleep」はないでしょう。
「すっかり」「そっくりそのまま」という意味も
ただ、本当の語源は何かと聞かれるとちょっと怪しくなってきます。昭和初期の辞書『大言海』には、「クヅチ」すなわち「鼾(いびき)」の転だとしていますが、いびきをかかずに熟睡することもあるので、ちょっと信じがたい気がします。
「ぐっすり」には深く眠るさまという意味だけでなく、江戸時代から「すっかり」「そっくりそのまま」という意味でも使われていましたので、その「じゅうぶんなさま」という意味から派生したのかもしれません。「ぐっすり眠る」は、浅い眠りではなく、じゅうぶんに眠る熟睡状態をいう語だからです。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。