「虐待」から子供を守る保育園の役割。発見・通告だけでなく「抑止力」も。

保育園を虐待予防の基地に

児童虐待事件がたびたびニュースになっています。
実際に虐待が疑われるケースを目の当たりにした方もいるのではないでしょうか。
保育園は、虐待の発見・通告に加えて、抑止する力も持っています。
日々の丁寧な保育が、虐待の芽を摘み、深刻化を防ぎます。
乳幼児虐待の実態や予防について『0.1.2歳児の保育』編集部がまとめてみました。

数字から見る児童虐待の実態

18歳以下の子どもに起きる虐待を「児童虐待」と呼んでいます。この10年間に、児童相談所が対応した件数を見ると、毎年増加していることがわかります。
平成29年度の対応件数は、13万3778件(速報値)で、過去最多を更新しています。
※ここに掲載したデータは、すべて厚生労働省が公表しているものです。

■児童相談所での児童虐待相談対応件数とその推移

■どのような虐待が多いの?-虐待の内容別発生比率(平成29年度速報値)

○心理的虐待

言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力を振るう(ドメスティックバイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行うなど

○身体的虐待

殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束するなど

○ネグレクト

家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど

○性的虐待

子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器をさわる、またはさわらせる、ポルノグラフィの被写体にするなど

児童虐待は上のように4つの内容に分類されます。かつては身体的虐待の件数が最も多かったのですが、ここ5年ほどは心理的虐待の件数が増加し、全体の約半数を占めています。中でも、家庭において、子どもの面前でのドメスティックバイオレンス(配偶者に対する暴力)を、警察から児童相談所に通告したケースが多くなっています。

■被虐待者の年齢別対応件数(平成28年度)


年齢別に見ると、0・1・2歳児の虐待相談対応件数は約2万4千人でした(平成28年度)。構成割合でいうと、児童虐待全体の19・5%で、およそ2割を占めていることになります。

■虐待死の子どもの死亡時点の年齢(平成27年度)


虐待死や死につながりかねない深刻なケースは、0歳児が突出しています。

■児童虐待相談における主な虐待者比率(平成28年度)


母親の交際相手や養父母のケースが目立つ印象がありますが、実母が最も多く、実父が続きます。

 

虐待予防につながる保育とは?

保育者がその専門性を発揮し、丁寧な保育を行うことで虐待の抑止になります。
では、具体的にはどのようなことが効果的なのでしょうか。
都内の、ある保育園で園長先生に話を伺いました。

1 保護者との信頼関係も、子どもとの関係がベースになる

保育者が保護者との関係を築くベースは、やはり保育者と子どもの関係です。我が子をかわいがってくれる保育者のいうことだからこそ、保護者は聞き入れようとします。その子どものいいところや甘えてくるかわいさを伝えましょう。その子のことが「大好き」という、態度と言葉の交流が大事です。

2 自分の子のことだけにこだわる親は、保育参加で意識が変わる

「自分の子どもだけがよければいい」とほかの子を排除する意識は、かえって虐待につながる考え方です。よその家の子どもを抱いたりおんぶしたりする機会は現代の暮らしの中ではあまりないことですが、保育参加を通してしてみると楽しいものです。また、ほかの子どもの中で我が子がどのようにふるまうのかを見ることができます。
保育者がどのように子どもを扱うのかを見ることも有益です。

3 会話のキャッチボールができる関係を早めに作っておく

虐待の疑いがある親子を目の当たりにしたとき、いきなり保育者が「虐待はだめですよ」といっても、聞き入れられません。かえって反発心を招き、「見張られている」と感じて、保護者は虐待の兆候を隠すようになり、事態は悪い方向へと進みます。そうならないようにするためにも、ふだんから保護者とのかかわりを作っておくべきです。一方的な声かけでなく、会話のキャッチボールができる関係、家庭のことも話し合える関係を作っておくことが、いざというときの助けになります。

4 子どもをかわいいと思えるようにして家庭に返す

家庭にないもの、ことを補えるのが保育園のよさ。お風呂に入れてもらえていない子は体を洗ってあげる、髪の手入れがされていなければ、かわいく結んであげる。そんなことをしてあげてもいいのかもしれません。
「この髪型似合うな」「いいにおいだな」。そのように思わせることも虐待防止につながるのです。

5 保育園だけで抱えずに関係機関とつなげて18歳まで地域で見守る

円滑に子育てができるように、保護者が自分から子育て支援センターに相談に行けるようにするのも保育園に期待したい役割です。保育園には6歳までしかいられませんが、子育て支援センターは卒園後も相談に乗ってもらえます。子どもが18歳になるまで、地域で見守ります。

 

あなたの園は大丈夫?虐待につながりかねない保育者の対応

子どもとの適切な接し方を保護者に見せることも、保育者に期待されています。
自身の振る舞い方もふりかえってみましょう。虐待につながるような言動を無意識にしていないでしょうか。

1 抱きぐせがつくからと、赤ちゃんが泣いても抱っこしない

まだ言葉で訴えることのできない赤ちゃんは、泣いて要求を伝え、応えてもらう権利があります。泣いている理由を察することができるのは保育者の専門性でもあります。さらにそれを保護者に伝えることも求められます。
「抱きぐせがつくから、赤ちゃんが泣いたからといってすぐに抱っこするのはよくない」と以前の保育者や保護者はいったものですが、今の時代、それは適切ではありません。

2 無理やり食べさせる、無理やり寝かせる

「好き嫌いをなくすのはその子のためを思ってのこと」と、よかれと思い、苦手な食材にも挑戦させる保育者は多いかもしれません。しかし、子どもが嫌がっているのに無理に食べさせるとしたら、それは虐待に近い行為だと考えられます。また、午睡の時間だからと、無理に寝ることを強要するのも同様です。
大人が人それぞれ個性があるように、子どもにも一人ひとり、違いがあることに気づく必要があります。

3 お仕置きとして保育室から締め出す

大人のいうことを聞かない子どもを、一定時間保育室から締め出して廊下で遊ばせる、園庭に出すというような保育をしている園もあると聞きます。これも虐待につながりかねない対応だといえます。子どもはいろいろなことをいってよい存在です。そういう意識で保育をしているなら、保育室から締め出すような対応はないでしょう。

4 「何度いったらわかるの」「もうご飯食べさせないよ」などと脅す

大人が子どもを自分の思いどおりに動かそうとする言葉を聞いて、子どもは「悪いことをしてしまった」という反省をするのではなく、そのように叱られたことに心が傷つきます。ただし、保育者は、それが心理的な虐待につながるような言動だとは気づきにくいものです。園の職員同士が、互いに気をつけあい、「今の言い方だいじょうぶ?」と声をかけあうことを決めておくのもよいでしょう。

 

まだ言葉で伝えられない乳児だから…。児童虐待早期発見のためのチェックリスト

このチェックリストは、児童虐待を発見するためのポイントを示しています。
東京都教育委員会が作成したリストをもとにして、編集部がまとめました。

子どもの特徴

体や身なり・心の様子

□ 顔や腕、足などにいくつもの傷やけが、やけどの跡がある。
□ 体重や身長の伸びが悪いなど、発育不良が見られる。
□ 食べ物への執着が強く、与えられるとむさぼるように食べる。
□ 季節にそぐわない服装をしていたり、衣服が破れていたり、汚れたりしている。
□ 衣類を着替えるとき、異常な不安を見せる。
□ こわがる、おびえる、急に態度を変える。
□ 表情が乏しく、受け答えが少ない。
□ 警戒心が強く音や振動に過剰反応し、
□ 大人が手をあげただけで顔や頭をかばう。

保護者とのかかわり方

□ 保護者の前では硬くなり、極端に恐れている。
□ 子どもと保護者の視線がほとんど合わない。
□ 不自然に子どもが保護者に密着している。
□ 保護者といるとおどおどし、落ち着かない。

友達とのかかわり方

□ 威圧的、攻撃的で乱暴な言葉遣いをする。
□ 落ち着きがなく、過度に乱暴だったり、弱い者に対して暴力を振るったりする。
□ 激しいかんしゃくを起こしたり、 かみついたりするなど攻撃的である。
□ 友達関係がうまく作れない。

その他

□ 忘れ物が多い。
□ 小動物をいじめる。
□ 年齢に不相応な性的な興味・関心を持っている。

 

保護者の特徴

子どもとのかかわり方

□ 子どもに対して、ことあるごとに激しく叱ったり、ののしったりする。
□ 子どもを抱いたり、話しかけたりしない。
□ 子どもが病気でもあえて病院に連れて行かない。

園とのかかわり方

□ 欠席の理由がはっきりしなかったり、連絡がなかったりする。
□ けがについての説明が不自然である。
□ 子どもに関していっていることに一貫性がない。
□ 話し合いや面談を拒む。
□ 体罰や年齢不相応な教育などを「しつけ」「家庭の教育方針」などと正当化する。

家族の状況

□ 絶え間なくけんかがあったり、家族への暴力があったりする。
□ 必要な予防接種や健診を受けさせていない。

地域での状況

□ 近所づきあいがほとんどない。

※当てはまる項目の多少によって虐待かどうかを判定するものではありません。
※このチェックリストは、すべての子どもを対象に一律に点検するためのものでもありません。
※それぞれの項目の中には、障がいやその他の要因によるものがありますので、チェックに当たっては十分注意することも大切です。

 

出典/『0.1.2歳児の保育』2018年冬号 文/『0.1.2歳児の保育』編集部 イラスト/上島愛子

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