「天高く馬肥ゆる秋」は不吉な言葉!? 意外と知らないことわざの真実

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日常的によく使われる言葉でも、その由来・語源に意外な秘密がかくされていたりします。今回は「秋」にちなんだこのことわざについて深堀りしてみましょう。

「天高く  馬肥ゆる  秋」の意味

爽やかな秋晴れの日、空を見上げて「天高く 馬肥ゆる秋」と思わずつぶやいたことがある人もいるでしょう。秋特有の移動性高気圧で空は澄み渡り、イワシ雲やウロコ雲が空の高い位置に浮かび、「天高く」とはよく言ったものです。

おだやかな気候に馬も食欲を増し、肥える(太る)季節と言われるのは、私たち人間も心当たりのあるところですね。

なので、この言葉は下記のような意味です。

秋がさわやかで、心身ともに心地よい季節であることの形容。

『小学館 ことわざを知る辞典』より

「天高く馬肥ゆる秋」は危険な言葉だった?

ところが、この「天高く馬肥ゆる秋」、もともとはそんな穏やかな意味の言葉ではありませんでした。昔の中国では、不吉な意味合いの言葉だったのです。

さて、どんなふうに不吉だったのでしょうか。

1)
秋は、天(神様)が遠のき、馬は重量を増して操りにくくなり、何事もコントロールしづらくなる
2)
天(統治者)に収める税金が高くなり、馬も食欲が増して餌がかさむので、経済的に苦しくなる
3)
空が高くなって秋めいてくると、騎馬民族が肥えた馬にのって侵略しにやって来る

正解は
3)空が高くなって秋めいてくると、騎馬民族が肥えた馬にのって侵略しにやって来る

日本の秋のイメージと大違い!

中国に由来する表現で、「秋高く*塞馬(さいば)肥ゆ」が「秋高く馬肥ゆ」となり、さらに「天高く馬肥ゆ(る秋)」と言い換えられて、広く使われるようになりました。<中略>
しかし、日本のさわやかで牧歌的イメージとは裏腹に、中国では、秋が到来すると、*匈奴の軍馬が太り、変事が起こるという連想が働いていたといいます。

『小学館 ことわざを知る辞典』より

「*塞馬」とは北方の要塞にいる馬のこと。「*匈奴」とは古代中国の北方遊牧騎馬民族のことです。

原典の「秋高く塞馬肥ゆ」は、唐の詩人・杜審言 (としんげん)が、北方遊牧民族の征討に出かけた友人の蘇味道(そみどう)の凱旋を願って詠った『贈蘇味道(蘇味道に贈る)』が初出です。

日本では「秋高」も「馬肥」も秋を賛美する表現で季語としても使われていますが、もとはこんな物騒な意味をもっていたのですね。

よく知られていることわざや故事成語も、由来を調べてみると意外な事実がかくされています。下記記事で取りあげた言葉についても、ぜひチェックしてみてください。

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構成/HugKum編集部
協力/小学館 辞書編集部
イラスト/谷山彩子

小学館 ことわざを知る辞典

編/北村孝一 定価/1900円+税

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