空撮写真家・山本直洋さんに聞く「夢を見つけ、叶える」ことの素晴らしさ。世界初「七大陸最高峰空撮プロジェクト」出発へ!

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写真絵本『そらをとびたい』の空撮写真家・山本直洋さん。2022年2月には世界初「七大陸最高峰空撮プロジェクト」でアフリカ・キリマンジャロに挑む一児の父でもあります。夢への挑戦と、活動を通じて取り組みたい自然環境保全について、そして亡き師匠や、チャレンジを支えてくれている家族への想いを伺いました。

成功すれば世界初!「七大陸最高峰空撮プロジェクト」

世界初「七大陸最高峰空撮プロジェクト」とは?

山本:僕は「地球を感じる」をテーマに空撮写真家として活動しています。今回のプロジェクトでは、世界七大陸それぞれの最高峰の上空をモーターパラグライダーで飛んで撮影し、いまの地球の状態を記録して、後世に残したいと考えています。

世界七大陸最高峰
アジア大陸 エベレスト 8,848m
ヨーロッパ大陸 エルブルース 5,642m
北アメリカ大陸 デナリ 6,194m
南アメリカ大陸 アコンカグア 6,959m
アフリカ大陸 キリマンジャロ 5,895m
オーストラリア大陸 コジオスコ 2,228m
南極大陸 ヴィンソン・マシフ 4,892m

なぜ「大冒険」にチャレンジすることに?

山本:冒頭でお話しした通り、僕のテーマは「地球を感じる」なのですが、当初は海外にばかり目が行っていました。

そんなある日、写真評論家の飯沢耕太郎さんに「海外で空撮をしている人はいっぱいいるから、まず国内で撮りためてみたら?」と言っていただいて。

たしかに日本にもダイナミックな景色はいっぱいあるので、10年ぐらい国内に集中して作品撮りをしました。おかげさまで憧れだったキヤノンギャラリーで「ZIPANGU 〜Earthscape of Japan〜」という「日本で地球を感じる」写真展も開催できました。

伊豆の大室山、彼方に富士山も!(キヤノンギャラリー「ZIPANGU 〜Earthscape of Japan〜」展示作品)

 

目標だったカメラ雑誌『アサヒカメラ』や『日本カメラ』、『ナショナルジオグラフィック』などに載せてもらえるようにもなりました。

夢のようなことを実現できて「順調だなぁ」と思っていたんですが……それで業界で有名になるワケでもなく、写真家として一歩抜きん出られないことにだんだん、もどかしさを感じ始めて。

家庭を持ってからは稼ぎが良くないことがプレッシャーにもなっていたし、「これからどうしようか」と悶々としている時に「もう一度海外に出よう!」と。

でも再び外に出るのであれば、何かしらおもしろいネタを作りたい。それで思いついたのが「七大陸最高峰空撮」でした。

大学時代からの夢をさらにブラッシュアップ!

大学生の頃から「いつかは七大陸最高峰に登りたい」という夢だけはあったのですが、技術も知識も何もなかったので、行動を起こしたりはしていなかった。

だけど空撮写真家として10年やってきて、いまの自分になら「七大陸最高峰を正攻法で登るのではなく、空撮という付加価値をつける。そんな、そうそう誰にもできないことができるんじゃないか?」と。

思い立った時「コレはいいぞ!」とピンと来て、ものすごいやる気になって、いろいろ動き回りました。「まずキリマンジャロを」ということになったのが、5年くらい前です。

キリマンジャロから始めるのはどうして?

山本:最初は標高が一番低い、オーストラリアのコジオスコ(2228m)から挑戦することも考えました。

ただ、いざとなると現実問題として費用がかかります。スポンサーを付けたりするとなると、話題性のあることをしなきゃならない。そこで知名度の高い山からスタートすることにしました。

またスペイン人のラモンという世界的に有名なパラグライダーパイロットが、キリマンジャロの空撮をしたことがあるんです。彼が来日した時に仲良くなって、情報をもらえたのも大きいですね。

「資金とか、入国や撮影の許可とか、準備が整ってから行動しないとダメかな」と思ったこともありましたが、それを待っていたら、いつまでも何もできない。動き出さなければ実現できることなど何もないから、とりあえず始めちゃうことにして。

自分から動き始めると、コネクションも増えてくる。冒険家とか、山岳業界ですごいクラスの話も聞けるようになって「これはいけるんじゃないか」という思いが強くなってきました。

「小さい頃は夢の中で、タケコプターで空を飛んでいた」と語る山本さん。2021年9月発刊の空撮絵本『そらをとびたい』を手に。発行元・小学館の前で。

SDGsや自然との距離感etc.空撮写真家として考える環境保全

プロジェクトの目的に「地球のいまを記録」とありますが?

山本:自然環境保全に関わりたい、という思いはすごくあって。尊敬する写真家の方々も積極的な活動をされていますし、いまの僕にそんな余裕はないのですが、ゆくゆくは自分も、と思っています。

そういう意味では「七大陸最高峰空撮プロジェクト」で、いまの地球の状況を記録しておくのは、ひとつ価値のあることではないかと。

キリマンジャロも氷河が溶け始めているという問題に直面していて、地域の生活にも大きく影響しています。注目されている課題ですし、研究をされている先生もいらっしゃるので、そういった方面ともつながっていけたら、と考えています。

SDGsの最前線!と思いきや、アレレ、なんだか不満そう?

山本;いや、SDGsという言葉は「使い方に気を付けないと」と常々思っているので(苦笑)。

それぞれの場所で、それぞれちゃんとやっていくべきところ全てを、SDGsのひと言で片付けてしまうような感じを受けることがあって。なんでもかんでもSDGsと言ってしまうところがあるから、逆にうさん臭く感じちゃうというか。

とはいうものの、小学2年生の娘がこの間「SDGsがね」と言い始めて「知ってたの?」と驚きました。そういう意識が自然と育つために、一般化していくのはいいことです。ただ、だからこそ使い方が難しい。

自然環境について、どう記録し伝えていくか。いろんな難しさがありますね。

自然環境を記録し伝えていく、難しさとは?

山本:例えば僕が使用しているモーターパラグライダーはエンジンを使って飛ぶので、大きな芝刈り機くらいの音がします。ヘリコプターと比べれば音量は小さいですし、風が巻き起こることもないのですが、近づき過ぎると動物たちを驚かせてしまうかもしれません。

僕は知床でシーカヤックガイドなどをしていたこともあるのですが、国の天然記念物で絶滅危惧種にも指定されているオオワシやオジロワシなどは特に注意が必要です。

あの種の鳥は上昇気流に乗るのは上手ですが、羽ばたいて飛ぶのは苦手。特に子どもの頃は羽ばたくのにすごいパワーがいるらしく、長時間は飛べません。それを知らずに近づくと思いっきり大きく羽ばたいて逃げようとするので、追いかけたりするのは厳禁です。

ほかにも、ラムサール条約に指定されている場所などの近くは飛ばないようにしています。

今回のプロジェクトの撮影をどう進めるかは、天候やスケジュール次第ですが、自然環境も考慮して、地上は地上で撮影し、空撮と合わせた記録にするというのも、ひとつの方法と考えています。

また自然環境保全と表裏一体なんですが、今回のキリマンジャロも、国立公園の撮影には許可申請のための費用がかかります。ほかのエリアの撮影を希望すれば、また別にお金が必要です。

そういう意味で資金集めやスポンサー探しなどは、ハードルといえるかもしれません。だからといってもちろん、あきらめるつもりもありませんが(笑)。

写真集「Earthscape of Japan」は公式サイトほかで販売中。売上はプロジェクト資金に。

急逝した師匠への想い、そして僕を父にしてくれた妻へ

出発前、プロジェクトをあきらめかけたこともあったとか?

山本:実は今年1月、師匠の塚部省一さんが亡くなりました。前日までLINEでやり取りをしていたくらいに突然で、あまりにショックで「キリマンジャロも無理なんじゃないか」と。

僕には小さな頃から「空を飛びたい」という夢があって、モーターパラグライダーの存在を知ってからは、空撮写真家になるためにモーターパラグライダーを始めることにしました。師匠は栃木で「スカイトライアル」というパラグライダースクールを立ち上げた人で、空撮の経験も豊富だった。僕は師匠を訪ねたその日に弟子入りして、空の飛び方も空撮も、師匠から教わりました。

約16年間、お世話になってきた師匠と、本当は一緒に行きたかった。でも「師匠がいないからって、中止にするのもよくない!」と思い直しました。

師匠のためにもキリマンジャロ、必ず成功させたいですね。

山本さんの独立後も常にサポートをしてくれた塚部省一さん。

師匠と並んで長く支えてくれた存在、もいらっしゃるのでは?

山本:妻、ですか(笑)。

妻と最初に会ったのは、小学3年生の時です。

僕は親の仕事でマレーシアにいて、帰国してから東京の中野にある小学校に入りました。その学校に妻がいて、でも僕が入ったのとほぼ同時に大阪に引っ越してしまって。

僕はその後、中2まで中野にいて、逆に妻は中2になって大阪から戻ってきて。でもちょうど同じ頃、今度は僕が親の仕事でノルウェーに引っ越してしまった。

僕たち家族はその後、帰国したのですが、実家は東村山というところに移動してしまいました。でも成人式の後に中野の頃の同窓会に参加したら、その席に妻がいて。「誰?」ってなって話を聞いたら、入れ替わりでほとんど会っていなかったことが分かって。

そんな出会いから付き合い始めて、23年になります。

インタビュー時の山本さん。左手薬指の指輪に家族への思いが。

 

ニューヨークで写真の勉強をしていた頃は遠距離恋愛。2008年に独立して、でも31~32歳ぐらいまではアルバイトを3個ぐらい掛け持ちしながら生活して。

いまもフリーランスですから収入も不安定ですし、いつ金になるか分からない作品撮りにガソリン代をかけて出かけたりするワケですから……妻がフルタイムで働いて家計を支えてくれています。

実はキリマンジャロの空撮は、一度延期しています。2019年9月に大事故を起こして、2カ月近く入院しました。モーターパラグライダーはきちんとした飛び方をしていれば安全なスカイスポーツなので、その点については誤解していただきたくないのですが、僕は短期間で無理やり、エンジンのパワーを上げるための改造をしてしまって。いまとなっては安全に対する意識を見直すいい機会だったと考えていますが、妻や家族には心配をかけてしまいました。

苦労させた分、これからしっかり稼いで、お金の心配はさせないようにしないといけないですね(笑)。

パートナーに感謝、しなくちゃいけませんね!

山本:それ、あっちこっちで言われます(笑)。でも妻に一番感謝しているのは、子どもができたことかな。

娘が3~4歳になるまでは保育園の呼び出しだっていつ来るか分からなかったし、自分の作品のための空撮にも行けなくて、子育てもすごい大変でした。でも、それ以上に「幸せ」と思える時間が増えました。

僕の人生論なんですが「人間は幸せじゃなきゃいけない」みたいな考えとか、あんまり好きじゃないんです。子どもは欲しかったけど結婚願望もなかったし、僕は別に、幸せのために生きているワケじゃない。

だけど娘の寝顔とかを見ていると「いま、俺、世界で一番幸せだな」って。

自分が求めたワケじゃないんだけど、それって子どもがいなかったら絶対に思えなかったことで、こんな風に思わせてくれる娘ってすごいなって。

その子どもを産めたのも子育ても、妻がいなきゃできなかった。だから何て言うのかな、僕の夢を支えてもらっているのも感謝しないといけないのですが、子どもを一緒につくれたことに対する感謝がすごい大きい。

妻と娘のためにも、何よりも安全第一で、元気に帰ってこようと思います。

山本父娘の「タンデム飛行」。パパと一緒で、この笑顔!

キリマンジャロへ飛べ! 空と大地から「地球を感じる」作品を

いよいよ出発ですが、ご準備はいかがですか?

山本:いま主にやっているのは、高高度テストですね。

5,000mまではテスト飛行も成功して、次はさらに上を目指します。キリマンジャロの標高5,895mを想定した6,000mまでは、まだ実際には上がったことがありません。

キリマンジャロでは上昇気流をうまく活用して、6,000mを狙います。

チャレンジ的な要素が強くなりますが、小雨季が明けて天気にも恵まれる1~2月に、どうしても行きたい。

2月15日に出発して3月に帰国する予定です。(2021年12月現在)

アフリカでは、どんな写真を撮ってきたいですか?

山本:撮りたいものを探し始めるときりがないので、空撮をまず成功させて。

そのうえで地上でも動物、フラミンゴや象、ガゼルとかキリンとか。あとは植物、植生や、人々の暮らし、生態系。「地球を感じる」写真を、できるだけたくさん撮れたら、と思っています。

それを『そらをとびたい』の第2弾なのか、写真集なのか、写真展なのか分かりませんが、たくさんの方々にご覧いただけたらうれしいですね。

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――写真絵本『そらをとびたい』の読者から「山本さんの写真はドローンではなく、生身の人間が空を飛んで撮っているからこその“ワクワク感”がある」という声が寄せられました。写真家自ら空を飛び、地球を五感で感じながら、七大陸の最高峰をひとつひとつ、カメラに収めていく。地上で空を見上げる私たちは冒険の過程を追いながら、一緒に夢を実現していくような気持ちになるのかもしれません。

山本直洋さん、いってらっしゃい!「地球を感じる」作品を楽しみにお待ちしています。

お話を伺ったのは・・・

山本 直洋さん

1978年東京生まれ。ニューヨークのフォトスタジオに勤務後ファッションフォトグラファー、風景写真家に師事。2008年に独立し、フリーランスフォトグラファーとして活動する。モーターパラグライダーによる空撮を得意とし「Earthscape」と題して“地球を感じる写真”をテーマに作品制作を行う。現在、世界七大陸最高峰を全てモーターパラグライダーで飛行しながら空撮する 世界初「七大陸最高峰空撮プロジェクト」を計画中。

http://www.naohphoto.com/

https://twitter.com/AerialNaoh

https://www.instagram.com/naohphoto/

※2021年12月31日まで神奈川県大和市の冒険研究所書店で写真展も開催。

構成・文/ちかぞう

 

写真・山本直洋/文・ちかぞう小学館|1650円(税込)

背中に大きなプロペラ付エンジンを背負って、飛ぶモーターパラグライダーに乗り、空から大地を撮影。
空の向こうに見えるのは、光が作り出す「天使の階段」、黄金に輝く雲、虹のリング……。
ドローンの進化で、空撮映像を見る機会が増えましたが、モーターパラグライダーで撮影した写真は、ひと味もふた味も違います。この絵本では、富士山より高い高度4000メートルからの風景を収録。富士山を見下ろす気分を、 絵本を開いて体感してください。

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