子どもを思い通りに動かそうとしていませんか
子どもに対して、普段何気なく「すごいね」というほめる言葉や、「ダメでしょ」という叱る言葉をかけていませんか。子どもにとって、ほめる言葉は「ご褒美」に、叱る言葉は「罰」になります。
親にとってやってほしい行動をしたときだけ「ほめる言葉」をかけ、そうではないと「叱る言葉」をかけていると、子どもは親からご褒美がもらえる行動や、罰を受けない行動をするようになります。親にそんなつもりはなくても、親の言葉で子どもを思い通りに誘導できてしまうのです。
「誘導しない子育て」が自主性と自己肯定感を育む
親からのご褒美や罰が行動の基準になってしまうと、子どもの自主性はなかなか育ちません。また、「ほめられる行為をしている自分」だけが親に愛されていると認識するようになり、ありのままの自分を受け入れてもらえていると感じられず、自己肯定感も育ちにくくなります。
自分で考えて行動する子に育ってほしいと願うなら、「誘導しない子育て」を心がけることが大切です。3歳までのお子さんの場合は、言葉かけを行う前に、大切な3つの環境を整えることから始めましょう。
「誘導しない子育て」のために! 3つの環境を整えよう
①物理的環境 「子ども用のものを用意する」
この時期の子どもは「自分でやりたい!」という欲求が強いので、子ども用の机や椅子、道具を用意したり、子どもに触られたり壊されたりしたら困るものは手が届かないところにしまっておくなど、まず物理的な環境を整えましょう。
②心理的環境 「失敗を歓迎できる心を持つ」
家庭が子どもにとって安心して過ごせる場所であることが大切です。子どもがさまざまな失敗をしたとしても、おうちの人は叱ったりがっかりしたりするのではなく、むしろ失敗を歓迎し、やり方を一緒に考えるような環境であるよう心がけましょう。
③人的環境 「長期的なゴールを見据える」
人的環境とは、親の意識のこと。短期的な視野ではなく、将来どういう人間になってほしいかという長期的なゴールを見据えて子育てすることが大切です。今している声かけや接し方はそのゴールに矛盾していないかどうかを意識しましょう。
ほめ方編
日常のよくあるシーンでのほめ方について島村華子先生が解説してくれました。
結果ではなくプロセスに注目する
ほめるときに大切なのは、結果や能力、性格をほめるのではなく、取り組んでいる過程でがんばったことや工夫したこと、挑戦した姿勢など、プロセスに注目することです。難しく感じられるかもしれませんが、たとえば「自分でできたね」と言うだけでも、プロセスに注目している言葉になります。
幼児期に「プロセスほめ」をされてきた子どもたちは、挑戦を楽しんだり努力したりできる子に育つ、という研究結果もあります。
大げさにほめるのではなく解説者のように簡潔に伝える
あまり大げさにほめたたえると、それが子どもにとって「ご褒美」になり、ほめられることが目的になってしまいます。これでは自主性が育たないだけでなく、「大げさにほめられ続けると、その子の自己肯定感はどんどん低下する」というオランダの大学での研究結果もあります。
ほめるときはスポーツ中継の解説者のように「事実を簡潔に伝える」ということを意識して。なるべく具体的な言葉で伝えるとさらにいいでしょう。
シーン① お友だちに「どうぞ!」ができた
NG…「〇〇ちゃんさすがだね! えらい!」
OK…「お友だちに貸してあげたんだね」
子どもの行動や起こった事実を淡々と伝えて
この年代の子どもは自分の欲求が最優先なので、この行動は相手を思いやってやったのか、はたまたおもちゃに飽きて気まぐれで友だちに渡したのかはわかりません。そのような行動に対して「さすが!」「えらい!」と大げさにほめられると、「相手に優しくする」ことが目的ではなく「親にほめられること」が目的になってしまいます。
このようなシーンでは、心の中ではガッツポーズしたとしても、言葉は事実を簡潔に伝えること。その言葉から、相手を思いやるということについて自分で考え、学んでいきます。
シーン② トイレでおしっこができた
NG…「トイレでおしっこできてえらいね! ごほうびにお菓子を食べよう!」
OK…「おしっこ、トイレで自分でできたね!」
もののご褒美で釣ると本来の目的がわからなくなる
「トイレでおしっこができたらすごい」というのは、あくまでも大人の都合であり、それがうまくいったから大げさにほめる、というのは、大人の都合で子どもを操っているということになります。「お菓子」など、もののご褒美で釣るのも本来の目的から逸れてしまいます。
このときに大切なのは、「自分でできた」というプロセスに注目した言葉を、「よかったね!」という気持ちを込めてかけること。喜びを共有すれば、気持ちは相手に伝わります。
叱り方編
日常のよくあるシーンでの叱り方について島村華子先生が解説してくれました。
ひと言目は子どもを受け入れる言葉を
叱るときはいきなり「ダメでしょ!」と否定の言葉をかけるのではなく、ひと言目に子どもの気持ちや行動を受け入れる言葉をかけましょう。「~がしたかったんだね」「~で悲しかったんだね」とまず言葉にすることで、「自分の気持ちをわかってくれる人がいる」という安心感が生まれます。
それがあって初めて、こちらの伝えたいことに耳を傾けることができます。いきなり否定の言葉をかけられると、子どもはそこで考える機能がフリーズしてしまうのでご注意を。
簡単に理由を説明して根気よくルールを伝える
この年代の子どもが好ましくない行動をしたとしても、「いたずらしよう」「困らせよう」という考えがあってやったわけではなく、好奇心や欲求が勝ったことによる行動です。そのため、頭ごなしに否定したり叱ったりするのではなく、やってはいけない理由を伝えます。
長く話しても伝わらないので、なるべく短く簡単な言葉で伝えること。一度伝えたからといってすぐに理解できるわけではないので、機会があるごとに何度も根気よく伝えましょう。
シーン① ティッシュを箱から全部出した
NG…「なんでこんなことするの!ダメでしょ!」
OK…「ティッシュで遊びたかったんだね。みんなが使えるように元に戻そうか」
いたずらしているつもりはないので、気持ちを受け止めて
大人にとってはやってほしくない行動だとしても、ティッシュを引き抜くときの動きや音が楽しかったり、くり返しできることに夢中になったりと、その子なりの何らかの理由があっての行動です。そのため、第一声から怒ってしまうのはNG。まずは「遊びたかったんだね」と気持ちを受け入れて、その上で一緒に片づけるよう誘いましょう。
指先を使いたい欲求の表れかもしれないので、同じ動きができるおもちゃを用意しておくのもいいですね。
シーン② スーパーで「買って買って!」と駄々をこねる
NG…「いつもダメって言ってるじゃない! 買わないって約束したよ!」
OK…「お菓子欲しくなっちゃうよね。でも、今日は野菜選びを手伝ってくれると助かるな」
積極的に子どもを巻き込んで買い物自体を一緒に楽しむ
できればスーパーに入る前に、「今日はお菓子を1個だけ選んでいいよ」など、その日のルールを簡単に決めておくこと。その上で、子どもも買い物の当事者になれるよう、積極的にお手伝いをしてもらいながら、買い物自体を一緒に楽しむといいでしょう。
教えてくれたのは
オックスフォード大学博士・修士課程修了(児童発達学)。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者。著書に『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
『ベビーブック』2022年2月号 イラスト/石塚ワカメ 文/洪 愛舜 構成/童夢
小学館の知育雑誌『ベビーブック』は、毎月1日発売。遊び・しつけ・知育が一冊にぎっしりとつまっています! アンパンマン、きかんしゃトーマス、いないいないばあっ!など人気キャラクターがお子さんの笑顔を引き出します。はってはがせるシール遊びや、しかけ遊びでお子さんも夢中になることまちがいなしです。
再構成/HugKum編集部