ひとりっ子の家庭が約半数を占める時代に
日本では、かつてはひとりっ子世帯よりも、きょうだいがいる世帯のほうが多数派でした。しかし、2019年の国民生活基礎調査によると、ひとりっ子世帯ときょうだいがいる世帯の割合はほぼ同じになり、社会の変化の中で家族や親子のあり方も多様化しています。
おうちの方は、「きょうだいがいたほうがいいの?」と気になるかもしれませんが、現在ではひとりっ子世帯は決して珍しい存在ではありません。結論から言うと、ひとりっ子でもきょうだいがいても、どちらでもよいのです。
きょうだいの有無よりどう育てるかが大切
兄・姉という立場で育つ子は社会的に兄・姉の役割を求められる場面が増えますし、ひとりっ子なら家庭内で同年代の子と触れ合う機会はないまま育ちます。このような環境の違いは子どもの育ちに影響を与えますが、それ自体は悪いことではありません。
それぞれの環境で育つことを前提としたうえで「わが家ではこう育てたい」という方針を明確にして、兄・姉や弟・妹の役割をどのくらい意識させて育てるのかを調整したり、不足しがちな体験を補ったりしていくことを心がけましょう。
【3人兄弟のパパ小﨑先生に聞きました】生まれ順によって育て方は変わる?
小﨑家の場合、長男は初めての子どもだったこともあり、ベビーバスのお湯の温度は毎回きっちり温度計で測るなど、とても丁寧に育てました。それが次男になると、お湯の温度を測ることはなくなり、三男になるとベビーバスさえ使わずに一番風呂で沐浴をすませたことも。
その結果、長男は優しいけれど敏感な子に、次男はわが道を行くタイプに、三男は多少のことではへこたれない強い子に育ちました。親は同じように育てているつもりでも、親の経験値が上がるにつれて育て方は自然と変わっていき、その変化が子どもたちに影響を与えます。
親の育て方が違うのですから、「きょうだいが同じように育たないのは当たり前」と思っておくと、気持ちが少し楽になりますよ。
きょうだいを育てるときは
上の子・下の子それぞれの葛藤が成長につながる
きょうだいは、おうちの方の愛情を奪い合うライバルのような存在であり、「自分が一番」と思えないと葛藤が生まれやすくなります。
上の子なら「お兄ちゃんだから、お姉ちゃんだから」と責任を負わされたり、下の子なら「まだ小さいから」と我慢させられたりすることも葛藤の原因に。こうした葛藤を乗り越えることで生きる力を獲得できるのは、きょうだいの強みだといえます。
下の子が生まれたら上の子の不安を受け止めて
下の子の誕生は、上の子にとって、それまでひとり占めできていたおうちの方の愛情をすべて奪われてしまうように感じる出来事です。
まだ言葉でうまく伝えることができない不安や寂しさが、赤ちゃん返りや夜泣き、おねしょが増えるなどの変化として表れることも。その不安を受け止め、スキンシップの時間を増やすなどして、「大好きだよ」の気持ちを伝えていきましょう。
「平等」よりも「公平」を意識した関わり方を
おうちの方は「子ども全員に同じように接しなくては」と考えがちですが、きょうだいは発達の度合いや能力などがそれぞれ異なります。一人ひとりの違いを無視して、食事やおやつの量、与えるおもちゃ、習い事などを無理やり「平等」にしようとしてもうまくいきません。
大切なのは、一人ひとりの年齢や個性に応じて、適切に対応を変える「公平」な関わり方をすること。きょうだいの違いをよく観察し、それぞれの子にとって必要なサポートをしていくことを心がけましょう。
性別による違い
同性のきょうだい
下の子が上の子をモデルにして育つことが多く、好きなものや遊びが似る傾向にあります。一方で、互いをライバル視しやすい面もあるため、おうちの方は上の子と下の子を比較するのではなく、それぞれのよさを探していきましょう。
人間関係が同性だけに偏りがちなので、異性の子がいる家庭と家族ぐるみの交流をするなど、幅広い人間関係を経験する機会をつくることが大切です。
異性のきょうだい
同性のきょうだいに比べると、ライバルという感覚はそれほど強くありません。異性のきょうだいが好きな遊びを一緒にやることもあり、幼いころから多様性に触れる機会が多いのが特徴です。
ただ、おうちの方が「お兄ちゃんなんだから」「お姉ちゃんなんだから」といった性別を意識させるような声かけをしがちなので、性差だけではなくそれぞれの個性の違いにも目を向けましょう。
年齢差による違い
1~2歳差
年齢が近い分、互いをライバル視することが多く、上の子は「年上だから負けられない」と感じやすくなるので、勝ち負けにこだわらない声かけをしましょう。育児を集中して終えられるメリットがありますが、大変な時期は周囲の人の手を借りて、おうちの方が無理せずにすむ環境づくりを。
3歳差以上
下の子が生まれた時点で、親は上の子とは言葉でコミュニケーションがとれるため、協力を得られる場面も多くなります。ただ、時には上の子と一対一で過ごすなどして、上の子がおうちの方に甘えられるように配慮を。中学校以降の入学の時期が重なる場合は、学費の備えも必要になります。
ひとりっ子を育てるときは
つねにオンリーワンの存在で気持ちが満ち足りて育つ
ひとりっ子は生まれたときからオンリーワンの存在として、家族の愛情を一身に受けて育ちます。「自分は愛されている」という実感や周囲の人々への信頼感が自己肯定感につながりやすいのは、ひとりっ子ならではの長所です。
きょうだいがいなくても同年代の子どもとの交流を増やすことはできるので、「ひとりっ子だからわがままに育つのでは?」と心配する必要はありません。
集団生活のスタートはあせらなくてOK
3歳ごろまでにおうちの方との間に愛着関係をしっかり築くことができると、子どもは他の人に対しても信頼感を持てるようになり、それがコミュニケーションへの意欲につながります。
「ひとりっ子だから」という理由で早くから集団生活を送らせる必要はないので、まずは、おうちの方が子どもと触れ合ったり、目と目を合わせて語りかけたりすることを大切にしてください。
「やさしさ」と「厳しさ」のバランスを大切に
ひとりっ子の場合、おうちの方が子どもの要求に応えやすくなるため、「やさしさ」を軸としたコミュニケーションが多くなるかもしれません。しかし、「ダメなものはダメ」ということを教える「厳しさ」も、子どもの育ちには必要です。
おうちの方の性別にかかわらず、「やさしさ」と「厳しさ」は両方とも備わっているものであり、大切なのはそのバランスです。子どもの要求を何でも受け入れるのではなく、時と場合に応じて「やさしさ」と「厳しさ」を使い分けましょう。
家庭の外では
多様なコミュニケーションを経験できるように手助けを
きょうだいがけんかなどを通じて葛藤の乗り越え方を学んでいくことが多いのに対して、ひとりっ子は家庭内で同世代の子と触れ合う機会がないため、対人関係の葛藤に弱くなりがちな一面があります。今なら感染症対策をしたうえで、子育て広場や保育園の園庭開放などに出かけたり、仲よしの親子と遊んだりして、多様なコミュニケーションを経験できる機会をつくりましょう。
家庭の中では
子どもに関わる人がそれぞれの価値観で接して
家庭の中で多様な価値観に触れることも、子どもの社会性を育むことにつながります。子どもの健康や安全に関わること以外であれば、「何をどこまで許容するか」「どう対応するか」という基準がおうちの方それぞれで異なっていてもかまいません。
例えば、パパは許可してくれるけれどママは「ダメ」と言うといった経験をすることが、価値観は人によって違うと気づくきっかけになります。
記事監修
小﨑恭弘先生
大阪教育大学教育学部教授。12年間、保育士として子どもと向き合った経験を持つ。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。家庭では3人兄弟の父親。
『ベビーブック』2021年11月号 イラスト/ニシハマカオリ 文/洪 愛舜 構成/童夢
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