子どもの話に普段から耳を傾けられていますか? 夢中になって語りだす子どもの話を、忙しい時でも手を止めて、同じ高さに目線を落とし「うん、うん」とうなずいて聞くことができれば最高です。筆者にとって身近な例で言えば、わが子の通う認定こども園の園長先生がいつでもそんな風に子どもたちと接してくれています。
しかし「アマチュア」のパパ・ママとなると、空返事をしたり「テレビでも見てなさい」と適当にあしらったりして、子どもの話を聞けていない場面があるのではないでしょうか。子どもの話を聞く=子どもの成長にすごく大事だと分かっていながら、慌ただしさの中で実践できていないパパ・ママもきっと少なくないはずです。
そこで今回は、100万部超えの大ヒット実用書『人は話し方が9割』(すばる舎)の著者である永松茂久さんに、シリーズ本である『人は聞き方が9割』(同上)をテキストにして、話の上手な聞き方について教えてもらいました。
「子どもの話を聞く」と心に決める
冒頭でも書いたとおり、大ヒット書籍『人は話し方が9割』は100万部を超えています。出版不況と言われて久しいこの時代に紙の本が100万部以上売れる(発行される)のですから、反響のほどがうかがえます。通称で「ハナキュー」などと呼ばれるくらい多くの人に親しまれ・愛されています。
そのシリーズ本である『人は聞き方が9割』(通称・キキキュー)を含め、数々のヒット書籍を書く永松さんは、手の届かないくらい立派な人なんだろうとインタビュー前に考えていました。
お子さんも2人いると事前に聞いていたので、冒頭で触れた園長先生のように、あるいは本に書かれている内容のように、育児の最中でも模範的な聞き方を忘れない人なのかなと思っていたわけです。
しかし、インタビューの冒頭でイメージが覆されます。
「うちの子どもには読んでもらいたくない(笑)」
「話を聞いてくれる親の存在は子どもの自己肯定感に深く関係している」と、永松さんはその点を大いに認めながらも、本に書いていることを子育ての場面でご自身がいつでも実践してこられたかと言うとそうでもないと、いきなりあけすけに語ってくれたのです。
「『人は聞き方が9割』はうちの子どもに最も読んでもらいたくない本です(笑)」
と笑い話で場をなごませてくれさえしました。聞き方について本を書いているものの、家ではできていないとお子さんたちに突っ込まれる可能性が高いからですね。
限られた時間だからこそ傾聴する
永松さんの経歴はユニークです。東京にある私立大学を卒業後に(広告代理店の博報堂から就職の誘いを受けていたのにもかかわらず)、故郷の大分県で3坪のたこ焼き行商の商売を成功させ、その後は飲食店の経営をスタートし、出版・教育の分野へ参入して現在に至ります。
永松さんのお子さんが最も手の掛かる時期は飲食店を経営する最も忙しいころで、奥さまや実家のお母さまに子育ても任せっきりだったのだとか。
それでも、子どもと過ごせる限られた時間は、できる限り話を聞こうと心に決めてはいたと言います。その根底には「子どもの存在よりも大切な仕事ってある?」との思いがあったからみたいですね。しかも、
「子どもの世界は子どもの世界で、本気で耳を傾けてみると意外に楽しめる内容が多い」
と永松さんは語ります。「子どもの話を聞く」と心に決める、それだけでまずは十分なのではないかと教えてくれました。
心が決まればテクニックは何とでもなる
今回のインタビューでテキストとした『人は聞き方が9割』では、人の話を聞くテクニックが紹介されています。例えば、
・笑顔をとにかく先に出す
・相手の言葉にうなずく
・相手にへそを向けて話を聞く
・一緒に笑う
・「面白いね」「わあ」「へー」「ほー」「すごい」「いいね」など感嘆と称賛の相づちを打つ
といった技術です。
確かにどれも大切で、マスターできれば一番いいのですが「話を聞こう」と心に決めるほうがもっと大事だと、永松さんは意外にも強調します。「話を聞こう」と心に決めれば、相手の方へ勝手に体(へそ)は向くでしょうし「へー」「ほー」などの相づちも自然に出てくるはずだからですね。
心に決めても、すぐに忘れてしまい…
とはいえ、子どもの話を聞くと心に決めても、重大な問題が残ります。
年始に打ち立てた抱負をすぐに多くの人が忘れてしまうように、忙しい毎日の中で子どもの話を聞こうと心に決めても、すぐに忘れてしまうのではないでしょうか。心に決めたそばから10分後には忘れているなんて極端なケースもあるかもしれません
一度心に決めた思いを忘れないようにするためには、どうすればいいのでしょう。子どもの話を共感して聞いてあげたい、でもできない、自分が駄目な親だと感じてしまう。そんな自己嫌悪のスパイラルに陥ってしまうパパ・ママはどうすればいいのでしょうか。
その点に関する永松さんの回答もちょっと予想外でした。
「忘れるなんて当たり前です。聞き方が大事と言われ、できなくてつらくなる、そんな必要は全くありません。皆が聞けていないから大事と言っているだけで、いまだに著者の僕も修行中です。前は分からなかった。けれど、大事だと今は分かった。それでいいじゃないですか」
皆が聞けていない、だから永松さんの本がたくさん売れる、この状況こそが何よりも永松さんの「皆が聞けていない」を雄弁に物語ってくれていますよね。
思い出したときだけでも、楽しく実践
「最初は2時間でも覚えていられれば十分です。その時間で共感して聞いてあげて、子どもがうれしそうにしている。その成功体験を基に、また大事だったよねと思い出せばいいんです。
そうこうしているうちに、忘れるまでのスパンが2時間から2日に延びるかもしれません。反省しながらちょっとずつ理想に近付きたいと願う、それでいいのではないでしょうか」
悩むのではなく楽しく実践してほしいと永松さんは強調します。その理由は、忙しいけれど楽しそうに生きている親の姿が、子どもの生き方の手本になってくれるからですね。
大人になると・親になると、なんだか面白そうな未来が待っているらしい、そんな風に子どもに感じてもらうためにも、親が楽しく生きてほしいと永松さんは繰り返し言っていました。
日本出版販売株式会社が発表する「2021年年間ベストセラー」総合ランキングで1位に輝く永松さんにここまで振り切った言葉で背中を押してもらえると、ちょっとだけ勇気が出てきますよね。
人は誰でも、自分の話を聞いてほしい
ちなみに、この取材ではもう1つ、意外な出来事がありました。用意した質問を聞き終えて取材をお開きにしようとすると、筆者の仕事について永松さんがあれこれ逆質問してきてくれたのです。
インタビューではいつも筆者は、質問する側です。その聞き手に関心を持って逆質問してくる人は(永松さんのような有名人の中には)今までほぼいませんでした。
とるに足りない話と分かっていながら、筆者の仕事について遠慮がちに話すと、永松さんは「すごい」などと言って、本当に感心したような顔で感心してくれます。
そうしたやり取りを終えて、インタビューに使っていたビデオ会議システム「ZOOM」を切った時、なんだか永松さんとすごく仲良しになれた気がしました(一方的で勝手な思い込みですが)。
「聞いてもらってうれしかった気持ち」を大事に
その取材当日の様子を思い起こしながらこうして原稿を書いている今、あらためて実感します。やっぱり人は誰でも、自分の話を聞いてもらえるとうれしいんですよね。「すごい」なんて褒められて、なんだか自分が本当にすごい人になった気にもなれますし、聞いてくれた人との距離がぐっと近付いた感じもします。
子育てに置き換えて考えた時、親が感心して話を聞いてくれれば、子どもも大いに励まされるはずです。どうせ忘れるかもしれないけれど、やっぱり「聞く」は大事。あらためて「聞く」を心掛けようと思いました。
お話を伺ったのは…
取材・文/坂本正敬 写真/繁延あづさ
「聞き上手」がうまくいく!――「聞くのが苦手」「人の話を聞く時間が苦痛だ」という人は多いものです。でも、ちょっぴり「聞き方のコツ」を押さえるだけで、聞くのが楽しくなり、コミュニケーションがうまくいくようになり、まわりから好かれるようになります。「聞き上手」になれば、自分も相手も安心できる空間をつくることができ、人と話すことがラクになり、人間関係も、人生も、全部がよりよい方向に動き出します!
<すばる舎HPより>