男性による長期の育休はまだ少数
男性の育児休業制度利用者について耳にするケースが最近増えた気もします。
厚生労働省の調べによると、男性の育児休業取得者の割合は2020年に全体(配偶者が子を出産した男性の全体)の12.65%です。出産したパートナーを持つ男性が100人居たら12人くらいが「育休」を取ったという感じ。多いと思いますか? 少ないと思いますか?
実質7か月の「長期」育休
その男性たちが育休期間をどのくらい取得したのかと言うと、2020年の情報では、少なくとも「5日未満」が28.33%とされています。2018年の情報で5日未満は36.3%、2週間未満は71.4%。
男性育休の話題を耳にするようにはなったけれど、まだまだ全体の一部、しかも実際は1カ月も満たないケースがほとんどなのですね。
しかし、今回ご紹介するファンケルの石川剛司さんは、有給休暇の1カ月+育児休業の6カ月間を組み合わせて実質7カ月の「育休」を取得しました。その背景には何があったのでしょうか?
上司の理解が大きかった
石川さんは2児のパパです。2021年(令和3年)3月から7カ月間の育児休業制度を利用したのは、第2子が生まれてからの話。2017年(平成29年)に第1子が生まれた時にも1カ月間の「育休」を取得していて、第2回が7カ月の「育休」となりました。
石川さんの働くファンケルは育休取得率が5年連続100%、育休後の復帰・定着率も5年連続で100%とのことです。
数字的には「育休」がカルチャーとして定着している印象を受けますが、聞けば「経営企画部」となんだか大変そうな名前の部署に所属しているらしい働き盛りの男性が、7カ月も職場を離れる判断に、会社の側はネガティブな反応を示さなかったのでしょうか。
職場よりむしろ家族に驚かれる
石川さん「もともとファンケルは7対3で女性が多く活躍する会社です。女性が出産・育児のために職場を離れ、当たり前のように戻ってくるカルチャーがあります。そのカルチャーが男性社員にも自然に根付いていて、マイナスの反応はありませんでした」
しかし、1人の社員が半年以上抜けるとなると、会社の生産性は落ちると考えられます。石川さんの働く経営企画部は、その欠員を吸収できるだけのゆとりがあるのでしょうか。
石川さん「経営企画部は部長が1人、課長が1人、メンバーが4~5人と言った感じです。正直に言えば潤沢な人数がいるわけではありません。しかし、上司とメンバーの理解が大きかったと思います。半年以上前に課長に相談し、引継ぎなど根回しして育休を迎えました」
むしろ、半年以上休む考えを明かした時、いちばん驚いた人はパートナーだったそう。
石川さん「最初に7カ月取ると伝えたら『え、大丈夫?』と妻にリアクションされました。しかし、第1子の育休を通じて、母と父で協力して子育てするカルチャーがわが家では当たり前になっていました。『正直長く取ってもらえるとありがたい』との言葉もありました」
「離れていた期間÷2」の法則
では、実際の「育休」中に、石川さんはどのような生活サイクルを送っていたのでしょう。
石川さん「授乳以外の家事は全て担当しました。特に出産後の1カ月、妻の体のダメージが大きい時期は集中して家事・育児をこなしました。
第1子の育休中に自分のメンタルが強くなった気がしていて、いろいろなトラブルが起きても動じなくなった部分もあったので、2人目の時は途中から少し余裕を感じるくらいでした。
妻のほうも体のダメージが抜けてくると、何もしていないと嫌なので、自分から何か役割を与えてほしいと言ってくれるくらいでした」
むしろ、育休中の苦労よりも、仕事に復帰してからの苦労を石川さんはインタビューで口にします。
石川さん「むしろ仕事に戻ってからのほうが、しばらくはしんどかったです。経営企画部という部署柄、社内の状況全体を把握していないと仕事になりません。
しかし、上期の会社の経営状況が全く分からなかったので、復帰後は資料を読みあさって、会社で起きた事細かな出来事を把握しようと努力しました」
復帰後の遅れは取り戻せる
聞けば、石川さんは第1子の育休明けでも、似たように苦労されたと言います。
石川さん「あくまでも『石川調べ』の個人的な感想ですが、育休を取得して復帰すると、業務に対する感覚的な遅れを取り戻すまでに、育休期間の半分くらいが必要になる気がします。
例えば、第2子の育休は7カ月で、復帰してから3カ月くらいは鈍りがありました。第1子の育休は1カ月で半月くらいは復帰後、リハビリが必要だった気がします」
この「石川調べ」は金言ではないでしょうか。
「育休」の取得によって自分のキャリアの悪影響を気にしたり、成長の機会を失ったりするかもしれないと恐れている男性も一部にいるはず。
しかし、現場を離れていた期間の遅れは「離れていた期間÷2」の法則で取り戻せるのだとしたら心強いですね。長い職場人生を考えると、一時期のことと割り切れるのではないでしょうか。
デメリットよりも、育休のメリットに目を向ける
むしろ、育休取得によるプラスの面を石川さんは強調します。
石川さん「先ほど、育休を通じてメンタルが鍛えられたと言いました。他にも、育休を通じて視野が広がったと感じています。マイナス面も踏まえた上で総合的に判断すると、どちらかと言えばプラスのほうが全体で勝っていると思います。
やはり、実際にやってみないと分からない大変さが育児にはあります。自分が管理職になった時に、マネジメントでもこの経験は生きてくると思います。
例えば、部下の女性が、子どもを育てながら仕事も頑張りたいとなった時に、両立をサポートできるようになれるはずです」
石川さんはもちろん、自分の後に続く男性社員の後輩たちにも「育休」を勧めたいと語ります。
石川さん「10年くらい前に入社した時、人事制度の説明で男性でも育休が取れると耳にしました。その何気ない情報が意外に力を持っていて、第1子が生まれた際に自分を後押ししてくれた気がします。
ならば、今度は私が手本になり、半年以上育休を取る姿を周囲に見せれば、長く休んでもいいという空気が社内に生まれ、後輩たちの常識になっていくのではないかと思ってます」
男女格差の是正は 男性の育休から
石川さん「育休を通じて育児をしっかり経験する男性が増えれば、男女間の意識の格差が小さくなっていくと思いますし、意識の格差が小さくなれば、日本が遅れていると言われる男女格差の諸問題も、少しずつ今より小さくなっていくのかなと思います。
だからこそ、意識を変えるきっかけとして後輩にもぜひ育休を取得してほしいです」
ファンケル経営企画部の石川剛司さんに聞いた育休の話、いかがでしたか?
きれいごとだけでなく、仕事を抜ければその分だけ勘は鈍りますし、社内の情報はリアルタイムで入ってこなくなると石川さんは言います。
しかし、そうしたマイナスを考えても、育休を長い目で見れば人生どころか仕事にもプラスになるし、マイナスに見える部分も離れていた期間の半分くらいで埋め合わせられるとポジティブに考える。
「石川調べ」の法則をはじめ、石川さんの言葉に背中を押される人がファンケルの社内だけでなく、社会全体に少しでも出てくればいいですね。
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文/坂本正敬 写真/石川剛司さん提供
【取材協力】
石川剛司さん
2011年ファンケル入社、お客様接点部門や営業企画部門などを経て、2019年より経営企画業務に従事。同い年の妻、娘(4歳)、息子(1歳)の4人家族。2017年の第一子誕生時に1カ月の育休取得経験あり。趣味はラグビー観戦(学生時代に15年間プレー)とキャンプ。
【参考】
※ 「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~ – 厚生労働省
※ 男性の育休取得の現状-2020年は過去最高で12.7%、5日未満が3割、業種で大きな差 – ニッセイ基礎研究所