男性の育児休業制度利用に注目してきたHugKum。今回は、男性社員の育児休業制度利用率が100%を誇る株式会社日本エー・エム・シー(福井県)で、去年の11月から12月のおよそ1カ月間「育休」を取得した正津克将さんを紹介します。
第二子をもしも授かったらまた「育休」を取得したいと語る正津さん。その「育休」ライフを聞いてみました。
当たり前に自分も取得すると思っていました
今回お邪魔した日本エー・エム・シーとは、福井県福井市に本社、永平寺町に工場を構える会社です。永平寺町と言えば、曹洞宗の大本山の1つ、永平寺がある場所ですね。観光で訪れた経験がある人も中にはいるかもしれません。
日本エー・エム・シーは1963年(昭和38年)創業、建設機械向け高圧配管用継手の製造・販売で国内トップシェアを誇ります。高圧配管用継手とはこんな感じ。
2022年3月現在で従業員は190名、海外拠点を含めたグループ全体で1,000名が在籍しています
そんな会社がこのところ、本業以外の部分でマスメディアから注目を受けています。地元紙である福井新聞の記事で筆者も最初に知りましたが、2019年度から現在に至るまで、男性従業員の育児休業制度利用率が100%に達しているからですね。
替えのきかない職種でも
今回話を聞いた人は、2021年(令和3年)の11月から育児休業制度を利用し、同年の12月に復帰した正津克将さんです。
正津さんは、日本エー・エム・シーに新卒で入社し、現場における技能伝承の分野で活躍している社内教育の担当者です。ある意味で替えの効かない立場なので、育児休業制度の利用ハードルが高い立場の人だと思うのですが、第一子の誕生とともに「育休」を取得しました。
取得にあたってまずは何をしたのでしょうか。
正津さん「妻が妊娠し、予定日が決まった段階で、自分から上司に言いました。それこそ、制度利用のためには何が必要なのか、誰に言ったらいいのかなど、全く知識がなかったので『どうすればいいのでしょうか?』と課長に聞きました」
男性社員が当たり前に育休を取得する環境で
そもそもの話として、正津さんはどうして育休を取得したのでしょう。聞けば、会社のカルチャーが大きかったと言います。
正津さん「6~7年前に現場の先輩が育休を取得していましたし、去年だけでも男性社員が2人、育休を取得しました。その様子を見ていたので、当たり前に自分も取得するのだろうと思っていました。
うちの会社は育休が取れると妻も知っていたので『取れるなら取ってほしい』とも言われました。妻は出産後に実家に戻りました。その里帰りから戻ってくるタイミングをスタートに1カ月間取得しました」
もともと料理などの家事はそれなりにやっていたという正津さん。奥さまが里帰りから戻ってきた1カ月間は、そのペースや頻度をさらに高めて、基本的にはあらゆる家事を担当したと言います。育児についても、授乳以外はできる限り受け持って、夜泣きなども積極的に対応したみたいです。
娘が結婚する時にきっと思い出す
そんな正津さんは「育休」を終えた今、どのように感じているのでしょうか。「育休」の前後で暮らしや意識、仕事に何か変わった点はあるのでしょうか。
正津さん「育児の大変さ、産後の妻の大変さが実感できた点が最大のメリットだと思います。この時期の1カ月は子どもの成長と変化もすごいです。最初に買ったベビーバスがもう使えなくなっているくらいです。この驚くべき変化は見ておくべきだと思いますし、思い出としてずっと残るのかなと思います。うちの子は女の子なので、娘が結婚する時にこの日々をきっと思い出すんだろうなと思います(笑)」
「育休」期間中の業務は誰が
第一子の子育てで正津さんは育児休業制度を利用しました。2人目を仮に授かった場合、あらためて取得したいと思うのでしょうか。
正津さん「また、育休を取りたいと思います。自分の部署はちょっと変わっていて、業務の中にはどうしても自分でしかできない役割もあります。しかし、その替えが効かない部分については、直属の上司である課長が『俺がやるしかないな』と言って気持ち良く引き受けてくれました。
もう一度育休を取るとなると、しわ寄せがまた出てしまう部分も実際にはあります。とはいえ、後押ししてくれる環境があるので、また上にお願いして育休を取得したいと思います」
「育休」期間中の自分の業務を、同僚や立場の近い先輩・後輩に肩代わりしてもらうケースが一般的には多いのではないでしょうか。しかし、日本エー・エム・シーの場合は、気持ち良く上にお願いできるカルチャーがあって、上の立場にある管理職の人間も代役を自ら買って出てくれるカルチャーがあるのですね。
男性の育休を促すのは、法ではなく組織
HugKumの過去記事で立命館大学の筒井淳也先生に取材した回がありました。
日本的な働き方の仕組みは一気には変わらない、法制度を整えてもそれほど効果は期待きない。ならば、男性の育児休業制度利用者を増やすために、組織の上司が変わる必要があると先生は言っていました。
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正津さんの上司のように、上の立場にある人が「抜けている間の仕事は自分がやってあげるから」と率先して背中を押してあげる、そんなサポートのあり方もやはり効果的なのかもしれません。正津さんの話を聞きながら、そんな風に感じました。
写真・文/坂本正敬
【取材協力】
正津克将さん
日本エー・エム・シー製造部製造1課に所属。インストラクターとして技能伝承活動・社内教育の立場を担う。