目次
育児目的休暇とは?
育児目的休暇は新しい制度です。どのような制度なのか概要を見ていきましょう。
2017年に新設された休暇制度
「育児目的休暇」は、小学校就学前の子どもを持つ従業員が、育児に関わる目的で利用できる休業制度です。2017年10月に施行された「改正育児・介護休業法」で、第24条に新しく定められました。
育児に関わる目的として下記のような例が挙げられています。
・配偶者の出産に立ち会う、出産後の家事をするなど
・入園式や卒園式、その他子どもの行事への参加
企業の努力義務の休暇
育児・介護休業法では、育児目的休暇を「企業の努力義務」としています。
努力義務とは、「強制ではないが、企業はできるだけ育児休暇制度を設けることが望ましい」という意味です。努力を促すために定められるもので、罰則はありません。
そのため、育児目的休暇の規定は企業にゆだねられており、まだ制度自体が整っていない企業もあります。
育児目的休暇の解釈も幅広く、「配偶者出産休暇」や「子の行事のための休暇」のような名称で運用する企業も多いようです。自分や配偶者の会社の規定がどうなっているのか、担当部署に確認するとよいでしょう。
育児休業との違いとは?
育児目的休暇と育児休業は、名前は似ていますが全く異なる制度です。混同しないように、両者の違いを押さえておきましょう。
法律で定められた休業制度
「育児休業」は、育児・介護休業法の第2条に基づく制度です。国が労働者の権利として定めたもので、取得条件や申請方法が細かく決まっています。
その代わり、所定の条件を満たしていれば誰でも取得できます。
従業員から育児休業取得の申し出があった場合、原則として企業は拒否できません。また、従業員には、休業による減収を補うための給付制度が設けられています。
一方「育児目的休暇」は法律に基づく規定がなく、期間や給与の有無などは各企業が独自に設定します。
育児休業に続けて数年間取得できる企業もあれば、「1年に〇日まで」と決めている企業もあり、企業によって内容はさまざまです。
育児休業を取得できる条件
育児休業は、正社員やパートといった雇用形態にかかわらず、男女問わずに取得できます。
ただし、契約社員などの有期雇用労働者の場合は、
この有期雇用労働者の契約で、育児休業の対象となるかを判別するポイントは、1歳6ヶ月以降の雇用契約について、「見込みがある場合=可能」となり「見込みが無いことが確定=対象外」となっています。
さらに企業は、以下の労働者については、労使協定を結んで育児休業の対象から外すことができます。
・雇用された期間が1年未満
・1年(1歳以降の休業の場合は6カ月)以内に雇用関係が終了する
・週の所定労働日数が2日以下
1年以上継続して週3日以上勤務しており、育児休業終了後も働き続ける意志がある人なら、育児休業を取得できると考えてよいでしょう。
育児休業の期間
育児休業を取得できる期間は、子どもを出産した日から、その子が1歳の誕生日を迎える前日までの間です。休業する期間は労働者が自由に決められます。6カ月で復職しても、1歳になるまで休んでも構いません。
たとえば、ママが忙しい期間に、1カ月だけ取得するパパもいます。ただし、連続して取得する必要があり、一部のケースを除き複数回に分けて取得することはできません。
1歳になっても保育所が見つからないなど、復職できない状態にある場合は、子どもが1歳6カ月になるまで延長が可能です。1歳6カ月になってもまだ復職できない場合は、さらに6カ月の延長が認められます。
参考:Q&A~育児休業給付~
延長の申請方法
育児休業の期間を延長したいときは、1歳の誕生日の2週間前までに、会社に子どもの保育が困難であることを証明する書類を提出する必要があります。子どもの保育が困難となるケースは次の二つです。
・保育所に空きがなく、1歳までに入所できなかった
・家庭で育児を担当する人が、死亡やけが、病気などで育児が難しくなった
保育所に入れなかった場合は、自治体が発行する証明書を提出します。
家庭で育児を担当する人の育児が難しくなった場合は、世帯全員の住民票の写しと母子健康手帳、育児を担当する人の状態に関する医師の診断書が必要です。
1歳6カ月以降も子どもの保育が困難な人は、同じ方法で2歳まで延長できます。
参考:育児休業制度について|厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課
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父親の育児休業を推進する制度
育児休業は男性も取得できますが、実際に取得する男性は女性に比べてまだ少ないことが問題になっています。そのため厚生労働省では、男性を意識した新たな制度を導入して、育児休業取得を促しています。
制度の内容を具体的に見ていきましょう。
パパ・ママ育休プラス
「パパ・ママ育休プラス」とは、両親がともに育児休業を取得する場合に限り、本来は1歳までの休業期間を1歳2カ月まで延長できる制度です。
以下の条件を満たしていれば、特別な事情がなくても利用できます。
・配偶者が、子どもが1歳に達するまでに育児休業を取得している
・本人の育児休業開始予定日が、子の1歳の誕生日以前である
・本人の育児休業開始予定日は、配偶者の育児休業の初日以降である
例えば、育児休業を取得したママが、子どもが1歳になるときに復職した場合、パパの育児休業期間を子どもが1歳2カ月になるまで延ばせます。
育児休業が明けると、しばらくの間は落ち着かないものです。このときにパパが家にいてくれたら、ママは大変心強いでしょう。育児に専念する時間を持つことは、パパの人生にとっても有意義なはずです。
パパ休暇は廃止、新たに産後パパ育休がスタート
廃止された「パパ休暇」とは?
パパ休暇は、出産後8週間以内に育児休業を取得した男性が、育児休業を再取得できる制度です。
育児休業は原則として、1人の子どもにつき1回しか取得できないことになっており、もしパパが、産後の大変な時期に短期間の育児休業を取得して仕事に戻った場合、再度育児休業を取得することはできません。そこで、出産後に育児休業を取得した場合に限り、特別な事情がなくてももう一度休みを取得できるパパ休暇が設けられました。
新しい「産後パパ育休」とは?
子どもの出生後8週間以内を対象期間としている点はパパ休暇と重なりますが、産後パパ育休はパパ休暇よりも柔軟に休みを取得できる仕組みに代わりました。
具体的なところでは、取得可能日数は4週間まで、申し出期間は原則2週間前までです。加えて、初期にまとめて申し出れば、2回に分割して取得することもできます。改正育児・介護休業法の2回と掛け合わせると最大4分割も可能です。
産後パパ育休は、子どもの出生日から8週間以内が対象期間となっており、この期間で中で最長4週間まで休むことができます。
また、産後パパ育休中でも、以下の要件を満たしている場合は、雇用保険から「出生時育児休業給付金」が支給されます。
- ・休業開始日前の2年間に、賃金の支払い基礎日数が11日以上の完全月が12ヶ月以上あること
- ・休業期間中の就業日数が、最大10日以下(10日を超える場合は80時間以内)であること
(ただし、申請期間は子どもの出生日から8週間経過した翌日から2ヶ月後の月末までです。)
育児目的休暇・育児休業期間の給与
育児目的休暇も育児休業も、仕事を休むことに変わりはありません。有給休暇のように休業中でも給与がもらえるのかは、気になるポイントでしょう。
それぞれの制度について、休業期間中の収入がどうなるのかを解説します。
【育児目的休暇の場合】基本は無給
育児目的休暇は、あくまでも企業の努力義務です。有給とするか、無給とするかも各企業が決めます。
企業としては、有給休暇以外で仕事を休む従業員に対して給与を支払う義務はないので、育児目的休暇も基本的には無給と考えてよいでしょう。
ただし、給与の一部を支払うとしている企業や、有給休暇と同じ扱いとする企業もあります。会社の就業規定をよく読み、分からない点は担当者に問い合わせてみましょう。
【育児休業の場合】育児休業給付金が支給
一方、育児休業を取得する労働者には、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。支給額は、休業開始から6カ月までは賃金月額の67%、6カ月経過後は50%と決められています。
ただし上限額があり、休業期間中に就業した月は減額または無支給となるため注意が必要です。
育児休業給付金の申請や受け取り条件の詳細は、会社の担当者や公共職業安定所(ハローワーク)に問い合わせれば教えてもらえます。
休業中の収入に関する大切な事項なので、早めにチェックしておきましょう。
育児休業給付金の申請方法
育児休業給付金の申請先は、企業の所在地を管轄するハローワークです。
基本的には、企業が従業員に代わって申請することになっています。従業員は、企業が用意する申請書に必要事項を記入し、母子健康手帳のコピーなどと一緒に担当部署に提出するだけです。
企業は申請書などとともに、従業員の出勤記録が分かる書類や賃金台帳をハローワークに提出します。ハローワークが受給資格の有無をチェックし、認められれば企業を通して本人に通知される仕組みです。
参考:厚生労働省「育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します」
社会保険料が免除される
育児休業の取得期間中(休業中の就業をしていない場合)は、社会保険料(厚生年金・健康保険)が免除されます。本人はもちろんですが、企業側の負担もありません。
社会保険料の免除を受けるためには、育児休業給付金申請とは別の手続きが必要です。ただし、いずれも原則として企業が行うことになっています。
育児休業の申請時に、給付金や社会保険料免除についても確認して、担当部署の指示に従いましょう。
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育児目的休暇の申請方法
育児目的休暇は育児休業とは異なり、企業によって申請方法が定められています。正しく申請するポイントを見ていきましょう。
勤務先への確認が必要
育児休業は会社を通してハローワークに申請する必要がありますが、育児目的休暇の場合は勤務する企業に申請するだけで完了します。
申請方法は企業によって違うので、まずは勤務先に確認しましょう。
一般的には「育児目的休暇取得申出書」のような書類が用意されており、事前に必要事項を記載して提出するケースが多いようです。
母子健康手帳の写しなど、子どもの年齢が分かる書類や園の行事予定が分かる書類の提出を求められる可能性もあります。
育児休業を取得する流れ
子どもが1歳になるまでの期間は、基本的に「育児目的休暇」ではなく「育児休業」を取得することになります。女性の場合は、産休から続けて育児休業に入る人も多いでしょう。
出産直前に慌てないように、取得までの一般的な流れを解説します。
会社へ申告書を提出
育児休業を取りたい人は、取得予定日の1カ月前までに会社に申告書を提出します。申告書の書式や添付書類は会社によって違うので、担当者に聞きましょう。
申告書を受け取った会社は「育児休業取扱通知書」を発行します。育児休業取扱通知書は、会社と従業員との間でトラブルが起こらないようにするためのものです。
育児休業期間や休業中の給与などの取り扱い、復職時の労働条件などを通知するものなので、記載内容を必ず確認し、不明点がないようにしておきましょう。
業務の引き継ぎ
育児休業の申請が終わったら、業務の引き継ぎに移ります。上司や同僚と話し合って、休業中の役割分担を明確にしましょう。
引き継ぎを成功させるポイントは以下の2点です。
・現在担当している業務を全て洗い出し、誰にどのくらい引き継いでもらうかを具体化する
・復帰後の自分のキャパシティを考慮する
育児休業から復帰してしばらくの間は、休業前と同じ感覚で働けるとは限りません。そのため復帰後にすぐ取り掛かることができる業務と、引き続き代わって欲しい業務を分けておくと、引き継いだ方も混乱することなく業務を遂行できます。
また、育児休業は長期間に及ぶため、定期的に上司に連絡できるようにしておき、業務の進行状況を教えてもらうと安心です。
育児・介護休業法で定められた休業以外の制度
育児・介護休業法では、「育児休業」や「育児目的休暇」以外にも、子育てと仕事の両立を支援する制度が定められています。それぞれの制度の詳細を見ていきましょう。
所定外労働の制限
3歳未満の子どもを育てている従業員は、「所定外労働(残業)」を制限してもらえます。残業を制限してもらうためには、本人からの申請が必要な点がポイントです。
従業員は、残業できない期間を明らかにして、開始予定日の1カ月前までに会社が定めた方法で申請します。1回の申請で制限できる期間は、1カ月以上1年未満で、子どもが3歳になるまでは繰り返し申請可能です。
ただし「事業の正常な運営を妨げる」と判断される場合は、申請が通らないこともあります。人手が足りない、本人にしかできない業務があるなどの事情で、残業をお願いされるケースが出てくるかもしれません。
所定労働時間の短縮
企業には、3歳未満の子どもを育てる従業員に対して、所定労働時間そのものを短縮する制度を設けることが義務付けられています。
所定労働時間とは、就業規則等で定められた勤務時間のことです。通常は労働基準法の法定労働時間(1日8時間、週40時間)の範囲で設定されます。
短縮後の労働時間は、原則として1日6時間です。1日の所定労働時間が6時間以下の人は、それ以上短縮することはできません。
また業務の性質上、短縮が難しいと判断される人には、会社は以下のいずれかの代替措置を講じる必要があります。
・フレックスタイム制度
・時差出勤
・保育施設運営、ベビーシッターの手配や保育費用の援助等
時間外勤務の制限
時間外勤務の制限とは、残業時間数が「1カ月24時間、1年150時間」を超えないようにしてもらうことです。小学校就学までの子どもを育てる従業員が申請できます。
就業規則などで時間外労働の上限時間が「1カ月24時間、1年150時間」を下回る場合は、就業規則が優先されます。
申請の方法は「所定外労働の制限」とほぼ同じです。「事業の正常な運営を妨げる」と判断される場合、会社から交渉されることもあります。
深夜労働の制限
小学校就学までの子どもを育てる従業員は、深夜(22時~翌5時)に労働したり、残業が深夜に及んだりしないよう、会社に申請できます。
ただし、その時間帯に子どもの保育ができる16歳以上の同居家族がいる場合は対象外です。
申請できる期間は1回につき1カ月以上6カ月以内で、申請は何回でも可能です。「所定外労働の制限」と同様に、開始・終了予定日を明らかにして、開始予定日の1カ月前に申し出る必要があります。
子の看護休暇の取得
子の看護休暇制度は、子どもが病気やけがをして看護が必要となったときに利用できる休業制度です。小学校就学前の子どもを育てる従業員が対象で、取得可能な日数は以下の通りです。
・小学校就学前の子どもが1人の場合は1年度に5日まで
・小学校就学前の子どもが2人以上の場合は1年度に10日まで
なお子の看護休暇は、1時間単位で取得できます。病院に連れていくために早めに退社したり、朝一番で予防接種を受けるために遅れて出社したりと、柔軟な使い方ができるでしょう。
子どもの体調不良は予測できないので、当日に電話などで連絡し、後日書類を提出することも認められています。
育児目的休暇や育児休業をうまく活用しよう
近年は共働きの家庭が増えてきており、仕事と子育ての両立を支援する制度が充実する傾向にあります。育児休業制度には男性が参加しやすい仕組みが導入され、企業には育児目的休暇の設置が求められるようになりました。
育児目的休暇と育児休業の違いをしっかりと理解して、それぞれを上手に活用していきましょう。
記事監修:
ベンゾー
育児休業給付金の解説と相談の専門家/SNSで始めた育休相談は累計500件以上対応/社会保険労務士事務所に7年以上勤務
子育て世代のための情報を発信するWebサイトを運営
・育児休業の解説と個別相談サービス「私の育休ホットライン」
https://ikukyu-hotline.com/
・出産内祝いのマナーの本音を解説「内祝いとか正直めんどい」
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構成・文/HugKum編集部