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出産前に一定期間働いていた人であれば、「産休」を終えて育児休業を取得する場合、育児休業給付金、いわゆる「育休手当」が受け取れます。ただ、この「育休手当」には細かいルールがいっぱいあって、理解するだけでも大変ですよね……。そこで今回は、一番気になる「育休手当」の計算方法に主に焦点を当てて、情報をまとめたいと思います。
育児休業給付金とは?
そもそも育児休業給付(「育休手当」)とは、基本的に女性の労働者が出産をしても仕事を続けやすくなるように、国が平成7年4月1日からスタートした制度になります。大まかなルールとして、出産後に8週間の「産休」を終えた翌日から、女性は育児休業、いわゆる「育休」を取得できる権利を手にします。
ただ、仕事を完全に休むとなると、勤務先からの給料も完全にストップしてしまうケースがほとんどのはず。その収入を補い、働かなくても子育てに専念できるように支払われるお金が、「育休手当」なのですね。
育児休業給付金は派遣でも扶養内パートでもアルバイトでももらえる!
ただ、「育休手当」は子どもを出産した女性、全員が受け取れるお金ではありません。「育休手当」の財源は一部国庫からも出ていますが、ほぼ雇用保険から出ています。その意味で雇用保険に一定期間、加入していた女性でないと受け取れないのですね。
雇用保険制度とは、
<労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進>(厚生労働省のホームページより引用)
を目的に、働く人の生活と仕事の安定を守るための制度になります。言い換えれば「育休手当」は、働く女性の雇用の安定を守るためのお金なのですね。
このように書くと、「育休手当は正社員として働いていた人しか受け取れない」と勘違いしてしまうかもしれません。しかし、「育休手当」の財源は、ほぼ雇用保険料で成り立っていると書いた通り、雇用保険制度に加入して保険料を払っている人であれば誰でも、身分や立場に関係なく「育休手当」を受け取れます。具体的には、
<①1 週間の所定労働時間が 20 時間以上であり、② 31 日以上の雇用見込みがある>(厚生労働省のホームページより引用)
という条件を満たしていれば、正社員でも、派遣社員でも、扶養内パートでも、アルバイトでも、身分に関係なく被保険者になります。上の条件を満たす人であれば、
<本人が希望するか否かにかかわらず>(厚生労働省のホームページより引用)
自動的に保険の加入者になります。「私はどうだろう」と心配な人は、給与明細をチェックしてみてください。自分では加入した覚えがなくても、労働者の負担分だけ雇用保険料が天引きされているはずです。
ただ注意点として、雇用保険を天引きされている人でも、「育休手当」を受け取るためには、一定の「条件」を満たす必要があります。育児休業を取得する前の2年間に、11日以上働いた月が合計で12カ月必要という条件。
病気で働けない期間があったなどの場合は、相談に応じてもらえる可能性もあります。不安な人は、勤務先に問い合わせてみるといいですね。
育児休業給付金の条件について、詳しくはこちら

育児給付金の計算方法
「育休手当」の大まかな内容と、どのような人が受け取れるのかといった点をまとめました。では、一体どの程度のお金を受け取れるのか、本題の計算方法をチェックしてみましょう。
大まかな育児休業給付金の計算方法は「月収×67%」
「育休手当」の金額は、平成7年に制度が始まってから増え続けてきました。最初の5年間、つまり平成7年から12年までは、「育休」に入る前にもらっていた「月収」(実際には賃金月額=賃金日額×支給日数。詳細は後述)の25%相当額、平成13年から19年までは40%相当額、その後は50%相当額まで上がり、現在は67%となっています。
休みに入る前に勤務先から受け取っていた給料を、思い浮かべてみてください。だいたいその月収の67%相当が、受け取れるのですね。ただ、「育休」が6カ月を経過すると、原則的には支給額が50%に下がってしまいます。1年間「育休」をとる場合は、最初の半年が「月収」×67%で、後半の半年間は原則として「月収」×50%が目安になります。
また、最初の半年間は「月収」×67%と言っても、「育休手当」には月額49,848円~301,299円(執筆時点)という下限と上限が定められています。上限の301,299円が支給されるのは、月収が449,700円ということになります(67%が301,299円となる)。「育休」に入る前に勤務先からもらっていた「月収」が449,700円の人は、月額301,299円の「育休手当」をもらえますが、毎月50万円、100万円の収入があったとしても、「育休手当」は月額301,299円以上にはなりません。
逆に「月収」の67%が49,848円に届かない人でも、一律で下限の49,848円が受け取れます。
休業開始時賃金日額はどうやって決まる?
「育休手当」の大まかな目安は、「月収」×67%と述べました。しかし実際には細かく見ると、「月収」は「休業開始時の賃金日額×支給日数」を基に計算するというルールがあります。アルバイトやパート勤務で、月収にばらつきがある人などが、より正確に金額を計算したいと思ったら、休業開始時の賃金日額と支給日数を把握する必要があります。
まず休業開始時の賃金「日額」の計算方法は、「育休」開始6カ月前までさかのぼり、6カ月分の収入の合計(保険料などが引かれる前の額で賞与は除く)を180(日)で割ります。この額に支給日数(「育休」中に月間(1支給単位期間)で仕事を休む日の数。一般的には30日)を掛け、その67%を計算すると、自分のもらえる「育休手当」の月額がより正確に分かります。
振り込みが遅いときの対処法は?基本的なガイドはこちら

「育休手当」の支給日はいつ?
「育休手当」の計算方法を紹介しました。では「育休手当」は一体、いつもらえるのでしょうか?
「育休手当」の支給日は(普通は)毎月ではない
何かと出費の多い出産直後、早々に「育休手当」をもらいたい気持ちがあるはずです。しかし「育休手当」の支給日は、大前提として2カ月ごとにやってくると覚えておきたいです。毎月の給料の代わりではなく、月額の「育休手当」を2カ月ごとにまとめてもらうイメージですね。
しかも、「育休手当」の受け取り前には、実際に仕事をどのくらい休んだのか、2カ月ごとにハローワーク(公共職業安定所)のチェックが入ります。「産休」を終えた翌日から「育休」に入れば、なんだかその月の最後ぐらいに「育休手当」を受け取れるようなイメージがあるかもしれません。
しかし、実際には2カ月間、育児で仕事を休む日々を過ごした後でハローワークの審査を受け、給付に値するとハローワークが判断すれば、晴れて「育休手当」を受け取れるようになるのですね。
支給日の初回は「育休」開始から最短で2カ月と22日ほど
「ええ!それなら初回の支給日はいつになるの?」
と驚く人も居るかもしれません。結論から先に言えば、全ての手続きが最短でスムーズに進んだとしても、初回の支給日は「育休」スタートの日から見て2カ月22日後くらい。
その内訳は、「育休」開始から2カ月+ハローワークによる審査と支給決定の作業(15日ほど)+支給決定を受けてから口座振り込みに要する日数(7日ほど)となっています。ハローワークの資料には実際、支給決定の前に15日ほどの審査が行われると書かれていて、厚生労働省のホームページにも、
<支給決定日から1週間程度で指定いただいた口座に振込がされます>(厚生労働省のホームページより引用)
という記述があります。要するに「育休」がスタートしてから2カ月と22日後に、最短で初回の「育休手当」が振り込まれるのですね。
育児休業の延長は2年または3年?詳しくはこちら

育児休業給付金の支給に必要な書類と手続きの流れは?
「育休手当」の手続きは、「育休」に入った人(被保険者)とハローワークの間に、普通は勤務先が入って代行してくれます。ですから、勤務先の担当者などの動きと併せて、被保険者であるママ(パパの場合も)の動きを考えると分かりやすいです。
育児休業給付金を受けるためには、被保険者であるママと勤務先、さらにハローワークとの間で、以下のようなやりとりが一般的に行われます。
(勤務先)被保険者の女性従業員が出産したら、従業員に対して「育休制度」の説明を行い、「育休」取得の希望を確認する
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(ママ)「育休」取得を希望する場合、勤務先に「育児休業申出書」を提出し、「育休」開始予定日と終了予定日を明らかにする(提出期限は「育休」開始日の1カ月前まで)
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(勤務先)被保険者の女性従業員に「育児休業取扱通知書」を渡す
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(ママ)「産休」明けの翌日から「育休」に入る
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(勤務先)女性従業員が「育休」に入ったら、ハローワークに出向くなどして「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」と「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を入手する
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(勤務先)「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」と「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を被保険者の女性従業員の自宅に郵送などする
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(ママ)郵送されてきた書類に必要事項を記入し、母子健康手帳の写し(出生証明のページ)と「育休手当」を受け取る金融機関の通帳の写し(表紙を開いた最初のページ)を添えて、勤務先に送り返す
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(ママ)「育休」スタートから2カ月が経過する
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(勤務先)従業員から返送された書類(上述した「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」と「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」)に、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿またはタイムカードなどを添えて、管轄のハローワークに提出する
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(ハローワーク)被保険者である女性従業員に「育休手当」を受け取る資格があるかを確認した上で、実際に「育休」スタートから2カ月の休業状況をチェックし、「育休手当」の給付額を算出する
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(ハローワーク)給付が決定した場合、「育児休業給付金支給決定通知書」と「(次回)育児休業給付金支給申請書」を発行し、被保険者である女性従業員の勤務先に交付する
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(勤務先)「育児休業給付金支給決定通知書」の中から被保険者用の部分を切り取り、「(次回)育児休業給付金支給申請書」と併せて、被保険者である女性従業員の自宅に郵送などする
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(ママ)2カ月分の「(初回)育休手当」をまとめて口座振込で受け取る。次回2カ月分の「育休手当」受け取りのために、「(次回)育児休業給付金支給申請書」に必要事項を記入し、勤務先に送り返す
以上の流れを見てもわかるように、初回(次回以降も)の「育休手当」を最短で振り込んでもらうためには、被保険者であるママ(場合によってはパパ)本人が、先手先手で動く必要があります。
ただ、本人がどれだけ急いでも、勤務先からハローワークに対する書類の提出が遅れれば、その分だけハローワークの審査も遅れ、「育休手当」の給付も遅れます。
早々に書類を提出していて、「育休」スタートからとっくに2カ月が経過しているのに、なかなか「育児休業給付金支給決定通知書」が勤務先から届かない場合は、まず勤務先に確認を入れ、状況を確かめたいですね。
ちなみに「育休手当」の受け取り資格がないと判断された場合でも、ハローワークからは「育児休業給付受給資格否認通知書」が勤務先に交付されています。決定、あるいは否認の通知書いずれかの有無も、併せて勤務先への確認が必要となります。
文/坂本正敬 写真/繁延あづさ
【参考】
※ 育児休業給付の内容及び支給申請手続きについて – ハローワーク