フラットで低く硬い枕
布団職人にして3児の父親でもある大郷さんは、ご自身のみならず、お子さんたちの寝具にもこだわってきたとの話。そんな大郷さんは、どのような枕を普段から使っているのでしょうか。
「枕選びの説明の前にまず、頭の重さをちょっと知っていただきたいです。思った以上に頭は重いです。このボールを持っていただきたいのですが、5㎏あります。
この重たいボールを首の上に乗せながら日中は立って支えていると想像してください。寝る時は、その立った姿勢を寝た状態で再現できる高さの枕を選んでください」(大郷さん)
筆者も、ボールを手に取ってみました。想定を超える重みでびっくりです。
直立した姿勢で重たい頭を支える際、ちょっと首が前に出た状態で人はバランスをとっているそうです。平坦な寝床に寝そべると考えれば、首の前傾部分を枕で埋めてあげればいいのですね。
「その意味で、フラットで低く硬い枕を選んでください。高すぎると頭と首が前に出すぎますし、柔らかすぎると頭と首が必要以上に沈んでしまいます。
硬いとは、両手でぐっと押しても沈まないくらいです」(大郷さん)
素材は、天然素材がおすすめで、大郷さんのお店では(数種類から選べるものの)基本はそば殻を詰めているそうです。しかも、そば粉を完全に取り除いた、虫の発生も心配ないタイプとのこと。
量販店での枕選びでも、抗菌・消臭タイプを意識して選ぶといいみたいですよ。
首にしわが寄っていれば枕が高すぎる
ただ、フラットで硬い枕を選ぶと言っても、それぞれの家庭で寝床の環境が異なります。ベッドで寝ている人もいれば、畳に布団を敷いている家庭もあるはずです。
いわば、体の沈み込み具合が異なってくるわけですよね。そんな中で、理想的な「低さ」をどのように各人が判断すればいいのでしょうか。
「そもそも、理想的な寝床(敷布団とマット)の硬さは、両手で敷布団を押した時、横から見て手の甲が隠れるくらいまで沈む硬さです。
そんな寝床の上に枕を置き、枕の下辺の端に肩をくっ付け、首と頭を枕の上にのせてください。
手鏡を用意し、自分の首に注目します。首にしわが寄っていれば枕が高すぎます。逆に、首の皮膚が突っ張るような感じがあれば枕が低すぎます。
首にしわもよらず、突っ張りもしない高さが理想的です」(大郷さん)
普通に人が直立して正面を見ている時、確かに首にしわは寄りません。突っ張った感じもしませんよね。立った状態で空を見上げれば首の皮膚が突っ張りますし、下を向けば首にしわが寄ります。
立って普通に前を向いている時の首の感じを覚えておいて、枕の上で寝た時にどうなるか。手鏡で確認すればいいのですね。
大郷さんのおすすめする正しい寝姿勢については、関連記事に詳しくまとめました。
▼関連記事はこちら
量販店では、高さ調整できる枕を選ぶ
ただ、ホームセンターや量販家具店の枕売り場では、店頭に並んでいるベッドや床を借りた上で、横になって頭をのせて試せない場合が多いはずです。
実際に試せても、敷布団やベッドのスプリングの硬さが自宅と違うので、最適な高さ(低さ)を判断しにくい面があると思います。
一般的な市販の枕は、高い枕から低い枕まで、最初から高さが決まっています。しかし、高さを調整できる商品も売られているとの話。
老舗布団屋『ねむり家』の場合、使用方法の説明後に、1週間無料で枕を貸し出してくれます。同じように、試用期間を用意してくれる専門店もあるそうです。
枕の寿命は5年程度
買った後のメンテナンスについても聞いてみました。
そもそも、枕の耐久年数はどのくらいなのでしょうか。
「うちの枕の場合は5年を目安としています。例えば、スタンダードな枕の中身であるそば殻も、うちの場合はそば粉を完全に取り除き、抗菌と消臭の対策をしていますが、どうしても毎日の汗が枕の中身に影響を与えます。
なので、中身の詰め替えもうちでは対応しております。
ちなみに、汗と脂を毎日吸うので、量販店で買う枕も対応年数の5年くらいで買い替え・詰め替えをおすすめします。
また、化学繊維の綿などはヘタリが早いです、新陳代謝の激しい若年層の方や男性が化学繊維の綿の枕を使うと、3年くらいでへたってしまう場合もあります」(大郷さん)
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医師などと一緒に快眠を研究し、講演での登壇や書籍執筆などを通じて、心と体を芯から癒す眠りの知識を発信する大郷さん。そうした活動の中で、身の回りにある多くの心身の問題と眠りは、密接につながっている印象を受けるそうです。
しっかり眠るためにも、体が喜ぶ枕をお店で選びたいですね。
【取材協力】大郷卓也さん。有限会社寝装の大郷(ねむり家)5代目店主、国家資格寝具技能士、健康睡眠アドバイザー。医師やカウ ンセラー、スポーツトレーナーらと「ぐっすり眠る会」を設立する。眠りの勉強会や講演会を主催し、布団職人として布団を製造す るとともに、心と体を芯から癒す眠りの知識を広める活動を展開。主な著書に『睡眠は1分で深くなる!』(自由国民社)
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取材・文/坂本正敬 写真/荻矢陸男(一部を除く)