ほめるときに大げさな言い方になってしまったり、ガミガミと叱りすぎてしまったり。
思いがきちんと伝わるほめ方・𠮟り方とは、いったいどういうものなのでしょうか。
40年以上にわたり育児の相談を受けてきた臨床心理士の植松 紀子先生に、1歳〜3歳の年齢別の関わり方と、おうちの方のお悩みをQ&A形式で具体的にお答えいただきました。
年齢別関わり方のポイント
1歳ごとに発達段階が異なり、行動の特徴にも違いがあります。
子どもの心身の発達に合わせて、おうちの方の関わり方もステップアップさせていきましょう。
1歳 危ないものは手の届かないところに
自分の周りの世界を「知りたい」という好奇心が強くなる1歳代は、家のさまざまな場所を探検したり、いろいろなものを触って確かめようとしたりすることが増える時期です。
危ないものや触られたくないものは、子どもの手の届かないところに片づけておくと、「触っちゃダメ!」と注意する回数を減らせます。
室内の階段などの安全対策も万全に。
2歳 「イヤ!」をプラスの言葉に言いかえる
「イヤ!」「ダメ!」を連発するようになりますが、それは感情を表現する言葉をほかに知らないからです。
砂場で遊ぶのを「イヤ!」と言ったら「ぶらんこのほうが好きなんだね」と声をかけるというように、おうちの方が「こちらが好き」という言い方にかえると、「好き」「こうしたい」といったプラスの感情を自覚できるようになります。
3歳 約束したことは守るよう声かけを
言葉で伝えればわかるようになることが増えるのが3歳代です。
注意するかわりに、前もって「5時になったら片づけようね」などと約束しておき、それを守るように声かけをしていくという方法も可能になります。
社会のルールも少しずつ理解できるようになるので、大人がお手本になる態度を示しながら、公共の場でのマナーも教えていきましょう。
言葉で注意するより効果的な方法があることも
「ダメ!」と叱ってばかりなのに言うことを聞いてもらえないときは、おうちの方が行動を変えると、ガミガミ言わずにすむようになることも。
関わり方を見直してみましょう。
物を投げる
1 歳半から2 歳くらいの子がおもちゃなどを投げるのは、身体の発達に伴い、腕の力をきたえようとしているから。
外遊びでボール投げをするなど、腕の筋肉を動かす遊びを提案すると、その遊びに夢中になって気持ちが切り替わりやすくなります。
遊び食べをする
1~3歳の子が飽きずに食べられるのは、10 分から長くても15 分程度です。
あらかじめ「10 分くらいが限界」と想定しておき、遊び食べを始めたらすぐに「ごちそうさま」を。
食卓から解放してあげれば、食べもので遊ぶこともなくなります。
片づけをしない
絵本を本棚に並べられるようになるのは5 ~ 6 歳ころから。それまでは、絵本やおもちゃを種類ごとに分けて入れる箱を用意し、おうちの方も一緒に片づけを。
「お母さんとどちらが先に片づけられるかな?」といった声かけをするのもおすすめです。
危ないことをする
身の危険があるときは、遠くから「やめなさい」と呼びかけるより、子どものそばに行って体ごと抱き止めるほうが効果的です。
2 歳代までは言葉だけで言って聞かせるのは難しいので、言葉で説明するよりもまずは行動をやめさせることを第一に考えて。
ほめ方・叱り方 ここが知りたい!Q&A
子どもとの生活で、ほめたい時や叱る場面になった時に、具体的にどのような声かけや心構えを持っていたらよいのでしょうか。おうちの方からの具体的な質問に、先生からのお答えをご紹介します。
Qうちの子はほめるところが見つからなくて困っています……。
A ほめるところが見つからないと思うのは、無理にほめようとしているからかもしれません。
「一生懸命やっているのがうれしい」という気持ちを伝えればいいと考えてみましょう。
例えば、お手伝いで子どものたたんだ洗濯物がグチャグチャでも、「がんばってたたんでくれたんだね。ありがとう」と伝えれば、子どもの意欲を認めて勇気づけることができます。
Qほめるときは、手をたたくなどオーバーな表現にしたほうがいいですか?
A 言葉の意味を理解することがまだ難しい1歳代では、手をたたくなどオーバーな表現も交えたほうが伝わりやすくなりますが、2歳を過ぎたころからは普通の話し方で十分に伝わります。
おうちの方が無理をして「すごい!」「えらい!」とオーバーなほめ方をする必要はなく、絵をほめるのであれば「お母さんはこの絵が好きよ」と素直な気持ちを伝えましょう。
Qどんなときにほめるのかという基準は夫婦でそろえるべき?
A 細かい基準まですべてそろえようとする必要はありませんが、「子どもを勇気づけるような関わり方をしていこう」ということは夫婦の共通認識として確認しておきましょう。
夫婦それぞれがその時々の気分に応じて叱っていると、子どもは親に対して不信感を抱いてしまうので、家庭で守るべきルールについても夫婦でよく話し合っておくことが大切です。
Q外出先では周囲の目があり大声では叱れません。どうすればいいですか?
A 外出時にはできるだけ子どものそばにいるようにすると、何かあったときにもすぐに体を制止したり、「ダメ」と小声で注意したりすることができるので、大声で叱らなければならないようなシチュエーションを減らせるはずです。
電車やバスの中で静かにしていてほしい場合は、あらかじめ音の出ないおもちゃや小さな絵本などを用意しておきましょう。
Q買い物に行く時間になっても遊びをやめないので、いつもイライラしてしまいます。
A 気持ちはよくわかりますが、「買い物に行きたい」というのは大人の都合です。
子どもには「一緒に買い物に行ってもらえる?」ときちんと言葉にしてお願いしましょう。
大人の都合に合わせるのを当たり前だと思わず、日ごろからひとりの人間として尊重する関わり方をしていれば、子どもはいざというときには大人の要望を聞き入れてくれるものです。
Q叱るべき場面でも、子どものかわいい表情を見ると、あまり強く叱れません。
A 子どもは自分がいけないことをしたときに「それはダメ!」とはっきり言ってもらうことで、「この人は自分としっかり向き合ってくれている」「自分は愛されている」という実感をもてるようになります。
何でも許すことが愛情ではありません。
かわいいと思うならなおさら、注意すべきことはしっかり伝えることで、子どもと心を通わせていきましょう。
Qつい感情的に怒鳴ってしまったときは、どうフォローすればいいですか?
A 子どもが落ち着いたら「ごめんね。さっき怒鳴っちゃったね」と声をかけ、一緒においしいものを食べる、体を使う遊びをするなどして、親子で楽しい時間を過ごしましょう。
時間が経ってから何が悪かったかを説明しても子どもにはわからないので、次からは注意すべき行動をしたその場で「こういう理由でそれはダメ」と短い言葉で伝えていきましょう。
Q男の子と女の子で効果的なほめ方・叱り方に違いはありますか?
A これまでに述べてきたほめ方・叱り方で大切なことは男女共通であり、どんな言い方が伝わりやすいかは男女差よりも子どもの個性による違いが大きいといえます。
ただ、傾向としては、男の子は「なぜなのか」という根拠がわかると納得しやすく、女の子は「かわいそうだよ」などと情緒に訴えかけられると心に響きやすいという面が見られることが多いようです。
お話をうかがったのは
植松 紀子先生
臨床心理士。「こどもの城」小児保健部を経て、植松メンタルヘルス・ルームを主宰。
乳幼児健診での育児相談も担当。
2人の娘、5人の孫がいる。
出典:『ベビーブック』2019年2月号