【松丸亮吾の教育対談】脳科学者に聞く子どものやる気を引き出す褒め方は?

テレビやメディアで大活躍のナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さん。東大生でもある松丸さんが、子どもたちと親御さんに「考えることは楽しい」と伝えるため、教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げます。
第10回のゲストは、脳科学者の篠原菊紀先生。NHKラジオ『子ども科学電話相談』やNHK『チコちゃんに叱られる』などでもおなじみの篠原先生は、日常生活の中で脳がどのように働いているのかを研究していらっしゃいます。オンラインで語る今回、中編のテーマは「どう褒めていいかわからない子どもを褒める方法」です。

子どものやる気を引き出す褒め方とは?

前回の記事では、「やる気」を引き出すための快楽として、「褒める」という方法が挙げられました。そうは言っても、「どう褒めたらいいのかわからない」という親御さんもいらっしゃると思います。改めて褒め方のポイントを教えてください。

篠原 私がよく伝えるのは、一つは「褒めることは大切だ」ということ。もう一つは「そこまでこだわらなくてもいいですよ」ということです。

松丸 そうなんですか。

行動を褒めたほうが子どもは伸びる

篠原 まず、褒め方について話しましょう。スタンフォード大学の心理学教授、キャロル・S・ドゥエックの研究では、「素質」を褒めるか、「努力」を褒めるかという選択肢があった時、努力具体的な行動を褒めたほうがその後に伸びやすくなるという報告があります。成績が上がった子どもに対して、「あなたは素質があるね」と言うよりも、「この前、図書館でずいぶん勉強してたもんね」と言う方が効果的ということです。

松丸 行動を褒めることが快感になるという線条体の話につながりますね。

篠原 はい。だから、子どもに人間的な成長を求めるのであれば、誠実さにつながるような行動や知的好奇心を追求するような行動を褒めるといいでしょう。勉強に関しては、問題を解くことに役立つような努力を褒めましょう。ここで重要なのは、親が子どもをよく観察することです。観察して褒めるべき具体的な行動を発見するんです。

松丸 うまく褒めるためには、まず観察と発見が必要なんですね。

子どもに「質問」することが褒めることになる!?

篠原 でも、そう言うとハードルが高く感じてしまうかもしれないので、2つ目の「あまりこだわらなくてもいい」という話をしますね。

子どもを褒める時には、あまり難しいことを考えず、とにかく褒める。こまめに褒めることが大事です。それでも褒めるのが難しいなら、目の前の行動について「理由」を尋ねるという方法があります。親御さんから「うちの子は30分で勉強をやめちゃうから褒めどころがない」と言われることもあるんですけど、「30分でやめちゃう」ということは視点を変えれば「30分は続いた」わけです。その時は「どうして30分続けられたの?」と質問をしてあげると、子どもは褒められた気持ちになって、その理由を考えて得意げに話すでしょう。

松丸 おもしろい! 質問することで褒めることができるんですね。

「聞く」というのもいい方法

篠原 単純に「褒める」よりも「聞く」という形で対処した方がうまくいくことも多々あります。

松丸 すごくわかります。僕もそうでしたけど、子どもって自分が努力したことを親に話したいし、自慢したいんですよ。「1時間勉強してえらいね」と褒められるのもいいけど、「1時間もどうして集中できたの?」と聞かれて「実はこういうにやってみたら、集中が続いたんだよ」って自慢できるほうが嬉しい気がします。

篠原 そうですね。どうしてそれができたのかという「スキル」を引き出してあげることにもなるので、将来にもつながり、いい方法だと思います。

松丸 質問することで親子のコミュニケーションも深まるし、子どもの自己肯定感も高まると考えると、質問して褒める効果は大きいですね。

苦手も不安も、細かく分けることで楽になる

篠原 質問は、傷ついたり凹んだりしている時にも有効です。私が実際にやっている心理セラピーの話なんですが、例えば「そんなひどい状態なのに、どうして今までやってこられたの?」と聞きます。加えて、「なんとか耐えてきたそのスキルを、来週来るときまでにリストアップしてくれない? それが同じような状況にある人の役に立つはずだから」とお願いします。すると、自分が凹んでいる時にどうしているのかを客観視するようになって、視点が転換されるんですよ。

松丸 なるほど。深い話ですね。

篠原 もしくは、「いちばん凹んでいる状態をマイナス10として、今日のあなたはいくつですか?」と尋ねます。人間、そう聞かれてマイナス10とはあまり言わないんですね。その時にマイナス10以外の数値であれば、マイナス10ではない理由を聞きます。そこに焦点を当てることで、「もうダメだ、どうしようもない」と思っている人が気分を変えるきっかけになることもあるんです。

苦手なことはどんどん細分化しよう!

松丸 今のセラピーの話に近いんじゃないかと思うんですけど、先生の本に書いてあった「苦手の細分化」の話にはすごく共感しました。親御さんから「うちの子、算数が苦手なんですよ」と言われた時に、「どこが苦手なんですか?」って聞くことがすごく大事だと思うんです。算数全部が苦手だと思ってしまうのではなくて、実は割合が苦手だけど面積は得意みたいに、苦手の対象をどんどん細かく分けていく。そうすると「苦手」がどんどん小さくなって、たいしたことじゃないと思えるようになるんですよね。

篠原 そうですね。「苦手の細分化」は子どもにも大人にも使える考え方です。

松丸 子どもだけじゃなくて、うちの社員のメンタルを考えた時にも、そういうほぐし方があるんだなってすごく勉強になりました。

子どもを一度叱ったら、3回は褒めるように

松丸 褒め方の次は、子どもの叱り方で気を付けるべきことを教えてください。

篠原 叱られた時に反応するのは、脳の中の「扁桃体(へんとうたい)」という部分です。扁桃体は恐怖や不安に反応して、戦うか、逃げるか、固まるかという選択をします。生物の進化の過程で、危険を避けるのは重要ですよね。それができないと次は死んじゃうかもしれないんだから。だから扁桃体は線条体よりも強く反応する。一撃で効くんです。

そのため、大人は叱ることで子どもをコントロールしがちですが、あくまで扁桃体は危機回避の反応なので、「じゃあ、次はこういう風に工夫しよう」というクリエイティブな発想にはつながりにくいんです。さらに、叱られた時のインパクトは褒められた時の約3倍に及ぶと言われているので、一度叱ったら三度褒めるぐらいでちょうどいいと思います。

松丸 3倍! それは驚きです。

篠原 ちょっとだけ叱っても、きつく叱っても効果は同じという報告もあるんですよ。だから、叱るときはドーンと叱ってもいいんだけど、回数は少なくしないといけない。

とにかくこまめに褒めるが有効

松丸 そうなんですね。叱るのとはちょっと違いますけど、僕も自分が思ったような結果を出せなくて落ち込んじゃうときはあります。そういうとき僕は、自分がうまくできたときのことを思い出したり、うまくやれた番組のビデオを見返したりして、「自分、大丈夫じゃん」って思って回復するんです()

篠原 松丸さんみたいに、そうやって自分で転換する回路ができている人は、叱ろうが褒めようが大丈夫() でもそれができない子どものうちは、叱るリスクが大きいので、褒めることを優先すべきだと思います。

松丸 叱ることと違って、褒めることに副作用はないんですね。

篠原 そうです。だから、褒め方がよくわからなくても、とにかくこまめに褒めることですよ。そのうち、子どもの反応を見ていれば、その子に効く褒め方がわかってきますから。

 

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プロフィール

篠原菊紀|脳科学者
公立諏訪東京理科大学教授。東京大学大学院教育学研究科修了。専門は応用健康科学、脳科学。「遊んでいるとき」「運動しているとき」「学習しているとき」など日常的な場面での脳活動を調べている。フジテレビ『今夜はナゾトレ』『クイズ!脳ベルSHOW』など、脳トレ系TV番組の監修も多数。NHKラジオ『子ども科学電話相談』の回答者を長年務め、NHK『チコちゃんに叱られる』などメディア出演も多数。著書は数々の脳トレドリルのほか、『子どもが勉強好きになる子育て』(フォレスト出版)、『「すぐにやる脳」に変わる37の習慣』(KADOKAWA)など、脳の働きを一般向けにわかりやすく解説している。

プロフィール

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。

取材・文/川内イオ 写真/平林直己 ヘアメイク(松丸)/大室愛 スタイリング(松丸)/飯村友梨

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