「家なき子」ってどんなお話?
ここではまず、『家なき子』の背景や作者についてを押さえておきましょう。
フランス発・世界で愛される名作児童文学
『家なき子』は、1878年に、フランスの作家であるエクトール・アンリ・マロが発表した児童文学作品です。発刊して一年間で17回も版を刷られるほどの人気を集め、フランスでは学校の教材としても長年親しまれてきました。その後、多くの言語に翻訳され、世界中で愛され続ける名作です。
原題 :Sans famille
原作者:エクトール・アンリ・マロ(Hector Henri Malot)
国 :フランス
発表年:1878年
おすすめの年齢:小学校高学年から
作者のエクトール・マロってどんな人?
作者のエクトール・マロは、フランス北西部・ノルマンディー地方ラ・ブイユ生まれ。幼少期から昔話や海外の話をよく聞かされながら育ち、法曹の道を薦めていた父の反対を押し切って、文学を志しました。
はじめのうちはジャーナリストをしながら制作に励んでいましたが、1859年にデビュー作『愛人たち』が注目を集め、作家業に専念するように。以降、40年近くのあいだに60篇もの作品を発表しました。
『家なき子』以外の代表作には、姉妹作である『家なき娘』(1893年)や、『ロマン・カルブリス物語』(1867年)等があります。
日本での初訳は1903年。幾度にわたって映像化も
日本での初訳は1903年、五来素川によって『未だ見ぬ親』の題名で連載・出版されたもの。当時小学生だった宮沢賢治が感銘を受けたということでも知られています。
なかには、「同情するなら金をくれ!」のセリフで有名な、安達祐実さん主演の同名ドラマを連想する方も多いはず。厳密にはマロによる『家なき子』を原作としたものではありませんが、オマージュと取れる描写や設定がこのドラマにはいくつも見受けられます。
ほか、日本では『世界名作劇場』シリーズのほか、アニメを中心に幾度と映像化もされました。
「家なき子」のあらすじは?
ここからは、『家なき子』のあらすじをチェックしていきましょう。お子さんにも説明しやすい簡潔なバージョンも合わせてお伝えします。
あらすじ
※以下では、物語の核心にも触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
主人公は、フランスの小さな村に暮らす少年・レミ。母親とふたりで幸せに暮らしていたある日、出稼ぎから帰宅した父親から、自分が「拾われた子ども」であることを知らされ、人買いに売り出されてしまいます。
そんなレミを引き取ったのは、旅芸人のヴィタリスです。レミは旅芸人の一員となって、猿のジョリクール、犬のカピ、ゼルビノ、ドルチェとともに、フランス中を巡業することになります。
※ここからネタバレ!
旅の途中、ある事件が起こり、ヴィタリスは刑務所に入れられてしまいます。そんなときに、旅の一座を支えてくれたのは、イギリスの貴婦人ミリガンと、息子のアーサーでした。
レミたちを親切に保護してくれるミリガンとアーサー。このふたりは、実は、レミの肉親なのです。しかし、レミはそうとは気づかず、ヴィタリスと再会すると再び旅に出てしまいます。
時には悲劇や別離に見舞われながらも、真の家族を見つけることを諦めずに旅を続けるレミ。イギリスやスイスへと国境までをも超えて、ついに母親の居場所を知りますが……。
レミが本当の家族と出会い、新たな人生を歩み出すまでの物語。
あらすじを簡単にまとめると…
フランスの小さな村に暮らす少年・レミは、ある日、自分が「拾われた子ども」であることを知らされ、人買いに売られてしまいます。レミを引き取ったのは、旅芸人のヴィタリスです。時に悲劇や別れに見舞われながらも、旅のなかで本当の家族を探し続けるレミ。レミが本当の家族を見つけ、新たな人生を歩み出すまでの物語。
主な登場人物
ここでは、『家なき子』の主な登場人物を押さえておきましょう。
レミ
母親と幸せに暮らしていたある日、出稼ぎから帰ってきた父親から、自分が「拾われた子ども」であることを知らされる本作の主人公。大道芸人のヴィタリスとともに巡業の旅に出る。
ヴィタリス
レミを引き取る大道芸人の親方。
カピ
ヴィタリス一座のかしこい役者犬。
ジョリクール
ヴィタリス一座の一員の猿。
マティア
旅の途中で出会い、レミの親友となる少年。
マダム・ミリガン
「白鳥号」で旅をしているイギリスの貴婦人。ヴィタリスの受刑中、旅一座を保護してくれた。
アーサー
マダム・ミリガンの息子。
作者が伝えたかったことは?
本作を通じて、作者は読者にどのようなことを伝えたかったのでしょうか?
他者との信頼関係への期待
実の親を探す旅のなかで、さまざまな人との出会いや別れを経験するレミ。そこに描かれる信頼関係や絆のあり方は、血縁はなくとも、まるで本物の家族のようです。たとえば、ヴィタリスとの父子のような関係や、マティアとの兄弟のような親密さ……義母とレミとの間にも、本物の家族のような愛情がありました。
諦めないレミの意志の強さや、肉親との確固たる縁を描きながら、血縁がない相手とでも深い信頼関係を築き上げられることへの期待や希望を、作者は本作に込めたのではないでしょうか。
「家なき子」を読むなら
ここまでご紹介してきた『家なき子』は、さまざまな形で出版されています。最後に、本作に触れるのにおすすめの書籍をご紹介。
世界名作シリーズ 家なき子(小学館)
小学生にもわかりやすく、大人も満足できる新訳を目指して書かれた「世界名作シリーズ」。本シリーズの『家なき子』は、原作の世界観はそのままに、易しい文章で読みやすく、ハラハラドキドキが止まらない一冊。レミが「より身近に感じられる」と好評です。
家なき子 上巻 (新潮文庫)
幼いお子さんには少々難易度高めですが、原作の完訳版を読みたい子や大人にはこちらがおすすめ。レミを取り巻く大人や環境、そしてその変化が詳細に描かれます。原作の雰囲気が味わえるクラシカルな挿絵も魅力。
小学館世界J文学館 家なき子(電子版)
1冊に125作品をおさめた『小学館世界J文学館』に収蔵されている「家なき子」電子版。このタイトルだけを単独で購入することもできます。
レミの旅を通して、人との関わりに希望が見出せる一作
今回は『家なき子』の背景やあらすじをご紹介してきました。ここまでお伝えしてきたとおり、『家なき子』は、レミの旅を通して人との関わりに希望を見出せる作品です。お子さんでも読みやすい書籍がいくつも発売されているので、ぜひ親子の読書時間に取り入れてみては。
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文・構成/羽吹理美