予約殺到中「小学館の図鑑NEO」から初のアートが誕生!編集者のこだわりは徹底した子ども目線

累計発行部数1300万部を超える「小学館の図鑑NEO」。その大人気図鑑に、新シリーズ「小学館の図鑑NEOアート」が加わりました。満を持して発行される第一冊目のテーマは「はじめての絵画」です。図鑑で美術!? ありそうでなかった組み合わせに、「子ども×アート」チームは興味津々。さっそく担当編集者である磯貝晴子さんに、制作の裏話を根掘り葉掘り伺いました。

編集者が込めた「小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画」5つの魅力

【その1】古今東西の名画、約360点を美しい図版で掲載

古代から現代まで、日本をはじめとする世界の絵画、約360点を掲載しています。絵画と子どもの初めての出会いが最高のものになるように、可能な限り大きく載せること、美術全集レベルの美しい印刷であることにもこだわりました。

フェルメール「真珠の耳飾りの少女」を大きく掲載したページ。

【その2】妖怪、ヒーロー、動物など、子どもが興味を持つテーマで紹介するからおもしろい!

絵画を、国や時代、流派といったジャンルから解き放ち、子どもが興味を持ちそうな切り口で紹介します。たとえば、妖怪、モンスター、ヒーロー、動物、ドレスなど。見開きワンテーマで完結するのでどこから読んでもOK。解説を全部読まなくても、キャッチコピーだけでも概要が把握できるようになっています。

現代の子どもにも身近な妖怪の絵を集めたページ。
ライオンを描いたさまざまな国の絵を紹介する。
昔の肖像画もドレスをテーマにして親しみやすく。

【その3】ひと目でわかる鑑賞ポイント!

部分図や図解イラストを駆使し、その絵のどこに注目すればよいかひと目でわかるように工夫しています。どのようなところが面白いのか、造形的な工夫に焦点を当てた説明をすることで、絵を見る力を引き出します。

雪やドレスといった白いものをどのように描いたのかを、部分拡大図で紹介

【その4】あの名画を徹底解剖!

レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」は世界でもっとも有名な絵の1枚ですが、なにが優れているのか自信を持って説明できる人はあまりいないかもしれません。本書では名画のすごさを子どもにもわかるように真っ向から解説します。

専門的な研究を踏まえたうえで、モナリザのすごさを3つのポイントにまとめている。

【その5】素材や技法、美術館など、さまざまな角度からお子さんが絵画に親しむきっかけを!

筆に使われている動物の毛、油絵の具をつくる工程、展覧会ができるまで、絵に関わる仕事の一覧など、絵画そのものを見る楽しさだけでなく、さまざまな切り口でお子さんが絵画に興味を持つきっかけをつくります。

筆にはリスやブタ、ネコなど、意外な動物の毛も使われているそう!
バックヤードも含め、美術館をイラストで図解!

子どもたちに絵画との最高の出会いを――担当編集者の思いを聞いた

見ているだけでワクワクする、こんな風に自由に絵画を楽しめる図鑑は今までなかったのでは?親子で楽しむのも◎、大人も新しい目線で見ることができるこの「小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画」。HugKum編集部は、この本を編集した小学館 文化事業局の磯貝晴子さんに、この本に込めた思いや、絵を見る力の育て方についてインタビューしてきました。磯貝さんは東京藝術大学で美術史を学んだ美術のプロでもあります。

小学館でしか作れなかった初めての子ども向け美術の図鑑

――これまで美術や絵画にまつわる子ども向けの図鑑はあったのでしょうか?

磯貝:断言はしきれないのですが、おそらくないと思います。小学館は1922年の会社創立以来子ども向けの本をつくってきています。あまり知られていませんが、美術全集などの美術書を50年以上つくり続けてきた実績もあります。その2つのノウハウがなければ出せなかった図鑑だと思います。

――どのような思いでこの本をつくったのでしょうか?

磯貝なんの先入観もない、まっさらな状態で絵をみることができる子どもたちに、なるべくたくさんのきれいで大きな図版を見せたかったからです。子どもはお絵描き遊びが好きですよね。保育園や幼稚園で描きはじめて、小学校に入ると絵で自分の気持を伝えることができると気づき、もっと楽しくなっていきます。しかし、子どもの頃から絵は身近な存在なのに、なかなか絵の鑑賞にまでは進んでいない印象がありました。それはもったいないと思ったのが、この本をつくるきっかけです。

時代や制度といった枠組みをリセット。絵から伝わることしか解説しない。

――編集する上でこだわった点はありますか?

磯貝国や時代や制度といった枠組みにとらわれないように気をつけました。一度、枠組みから離してバラバラにし、そのうえでテーマごとに絵を選びました。だから、日本の絵も西洋の絵も、古い絵も新しい絵もシャッフルされています。また、解説には見てわかることしか書かないという方針を立てています。子どもには、絵を純粋に楽しんでほしいという思いが強かったので。

――見てわかることというのはどのようなことですか?

磯貝:何が描かれているか、どう表現されているかなどです。ゴッホの「ひまわり」を見て、ゴツゴツ盛り上げて描かれていることはわかりますが、ゴッホがどういう人だったかというエピソードまでは伝わりませんよね。そういった背景情報は、子どもたちが今知る必要はないと思ったので、極力入れていません。描かれた時代やその作品が後世にどのような影響を与えたのか、そういったこともあえて触れないようにしています。

ゴッホの「ひまわり」は絵の具の塗り方に着目。画家の人物像や時代背景など、知識を与える「お勉強」的な要素は少なめ。

――たしかに、注意深く美術の専門用語を使わないようにしていると思いました。このような見せ方があるんだ、と興味深かったです。

磯貝:このページは私も気に入っています。抽象画が掲載されるページは「モデルのいない絵」というタイトルで「抽象画」という単語は使っていません。どの見出しも、どういう風に表現すると子どもはいちばんわかりやすいのか、思考を巡らせましたね。

難解なイメージの抽象画も、子どもに伝わるように工夫されている。

絵を見る力を養うとは?

―絵の見方がわからない、絵の見方を育むためにはどうしたらよいのか、と悩んでいる親御さんは多いと思います。

磯貝:一般的な美術の本は、描かれている対象の説明に終始していることが多いのですが、今回の本ではどのように描いているのか造形的に説明することに努めました。

たとえば、ヒーローがテーマのページに掲載したナポレオンの絵ですが、これはモティーフがナポレオンだからかっこよく見えるわけではありません。険しい山のなかで馬が暴れているのに一人だけ優雅なポーズをしていること、ひるがえった赤いマントやキメ顔、そういった複合的な要素によってかっこよく見えています。このような画家の工夫を知っておくと、他の絵を見るときのヒントにもなり、それが絵を見る力を養うことにつながるのだと思います。

ナポレオン、源義経、キリスト教の聖人。西洋と東洋のヒーローが一堂に会する。

本だからこそ可能な鑑賞体験がこの図鑑の魅力

――美術館で現物を見るのではなく、本で絵画を見るメリットは何かありますか?

磯貝:単純なことかもしれませんが、世界中のいろんな絵を同時に見られるのは、すごいことですよね。部分に思いっきり寄ることができるのも本ならでは。お寺や教会にある作品は薄暗くてよく見えないこともありますし、美術館でもガラスケースに入れられ近づくことができなかったり、本のようにアップで見ることはなかなかできません。第一、絵のどこを見ていいかわからないことも多いです。本の部分拡大図だと、直感的に見る場所が伝わります。

世界的な名画が夢の饗宴を果たす。原寸サイズで間近に見られるのも本ならでは楽しみ方。

未来に種を蒔くような本

――子どもたちが、この本で見た絵を将来、美術館や別の本で見ることもあるかもしれませんね。

磯貝:学年誌の編集部にいたときに編集長から「子どもはまったく知らないことは知りたくない。なんとなく知っている、見たことがあるものをもっと知りたいと思う」と言われたことがあります。子どもって、どこかで見聞きしたことだと「これ、知ってる!あれだ!」と、途端に自信を持ちますよね。2年後でも5年後でも10年後でもいいから、この本で見た絵に再会したときに、より興味をもってくれるきっかけを作れたらいいなと思っています。いつか芽が出ることを楽しみに、未来に種まくような本になってほしいです。

子どもとの美術館めぐりも、磯貝家オリジナルの楽しみ方が!

――ところで、子育て中とのことですが、お子さんと美術館に行くことはありますか?

磯貝:7歳の息子が小学生になったこともあり、美術館で楽しく絵を見られるようになってきました。ポイントは、近くにあるこじんまりとした美術館に行くこと、子どもと親の2人で行くことです。遠くだと到着するまでに疲れてしまいますし、広すぎると集中力が続きません。

――おすすめの鑑賞方法があったら教えてください。

磯貝:展示室では基本的にフリーにして、各自のペースで見るのですが、コーナーごとに一番好きだった絵とその理由を発表するようにしています。見終わったら、気に入った作品のポストカードを1枚買ってあげる約束をしています。ショップでそれを買って、美術館のカフェでジュースやアイスを食べ、家に帰ったらポストカードに日付を書いて机の前に貼るところまでが一連の流れです。いまはそれがとても楽しいです。

--ご褒美付きだと、美術館が退屈なところにならなそうですね。

磯貝:ジュースやアイスが目当てでも構いません。私もこの時間を楽しんでいることが子どもにも伝わっているようで最近は子どものほうから「お母さん、今度美術館に行こう」と言ってくれます。4歳の娘も行きたがっているのですが、現実問題、子ども2人と見に行くのは大変ですね。別の美術館に未就学児の甥っ子たち数人を連れて行ったときは、美術館の前の公園でどんぐり拾いを始めて、入館すらなかなかできなくて(笑)。子どもと美術館に行く困難さも重々感じているので、そういう人たちにこそこの本を美術館がわりに活用してほしいです。

――最後に保護者の方へのメッセージをお願いします。

磯貝:絵を描くのが好きなお子さんがいて、なんとなく子どもをアートに触れさせたいと思っているお父さんお母さんに、これ1冊あれば大丈夫と言い切れる本にしたいと思ってつくりました。大人も楽しめる本だと思いますが、読み聞かせとか大変なことを無理強いしたくないので(笑)、もし子どもが手をとめて見ているページがあれば「その絵の何が面白いの?」と聞いたり、会話のきっかけにしてもらえれば嬉しいです。

お話を聞いたのは

磯貝晴子さん

東京藝術大学で美術史を学んだ後、小学館に入社。10年ほど学年誌や『ぷっちぐみ』など児童雑誌の編集を担当したのち、現在は文化事業局で美術書を編集する。2児の母。

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小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画

小学館の図鑑 NEOアート 図解 はじめての絵画

小学館|2970円(税込)2023年2月6日ごろ発売

A4変型判上製 280ページ ISBN978-4-09-217266-1

子どもたちの探求心と想像力を育む、新しいアートの見方を提案!

世界の名画約360点を、図解イラストや部分図を用いてわかりやすく解説。「何が描かれているか」「どのように表現されているか」を探る鑑賞ページを中心に、画材や絵画技法、美術館の役割についても紹介。

試し読みはこちら>>

HugKumではこどもアートの連載を展開中!

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企画協力/中川ちひろ
撮影/五十嵐美弥
取材・文/藤田麻希
構成/HugKum編集部

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