「ほっこりした」はネガティブワード!?地域で違うこんな使い方【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

「いい話が聞けて心がほっこりした」などのように、「ほっこり」という語を使いますか? この場合の「ほっこり」は、気持ちが和らぐとか、あたたかい気持ちになるとかいう、いい意味です。でも「ほっこり」は、いい意味だけではなかったのです!

 江戸時代から使われていた「ほっこり」

実は「ほっこり」は比較的最近になって広まった語で、国語辞典の中には、この語が見出し語にないものもあります。

「ほっこり」という語自体は、江戸時代から使われていました。ただその意味は、今使われている意味と少し異なります。「部屋の中はほっこりとあたたかい」のように、実際にあたたかそうなさまをいったのです。

また、やはり江戸時代には、気持ちが晴れたり、仕事や懸案のことがかたづいたりして、すっきりとしたさまという意味でも使われました。この意味は方言として京都などにも残っています。その意味と、現在使われている気持ちが和らぐという意味とは、無関係ではなさそうです。

方言としての「ほっこり」には「うんざり」の意味もある!

ただ面白いことに、「ほっこり」は、方言として全く正反対と思われる意味で使われている地域があります。非常に疲れたさま、うんざりとしたさま、退屈なさまという意味です。それぞれの地域で微妙に意味は異なるようですが、三重県、福井県、岐阜県、滋賀県、京都府、大阪府などで使われているようです。

実は「ほっこり」のうんざりしたり、困り果てたりするさまという意味も、やはり江戸時代からあった意味なのです。

今使われている「ほっこり」は、どうやら主に関西で使われている方言が広まったようです。ただ、地域によってプラスの意味でもマイナスの意味でも使われているようですので、文脈によってどのような意味で使われているのか、読み取る必要がありそうです。

私もそうですが、関東出身の人間が安易に使うと、誤解を招くことになるのかもしれません。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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