自分のケアはつい後回しになりがちなママ世代もある瞬間をきっかけにこころの病「身体醜形症」を発症してしまうことがあるのだとか。いったいどんな病気なのでしょうか。『自分の見た目が許せない人への処方箋 こころの病「身体醜形症」の治し方』を上梓した精神科医で形成外科医の中嶋英雄先生に話をうかがいました。
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「身体醜形症」ってどんな病気?
中嶋先生「身体醜形症をわかりやすく説明すると、“自分の顔が嫌いでたまらない”という感情にとらわれてしまう病気です。自分の顔が醜いせいで人生がまるでうまくいかない。その思いから逃れられなくなります」
自分の顔を何とかしたいという衝動にかられてしまい、何度も鏡で顔をチェックしたり、スマートフォンで自撮りを繰り返したり、気になる部分をメイクで隠したりなどの行為をするうちに、外出できなくなったり人に会うのが怖くなったりし始め、社会生活に支障をきたしてしまうのだそう。そして中嶋先生は、SNSの普及が身体醜形症の急増に深く関係していると指摘します。
SNSに流れてくるお肌つやつやな美容投稿や、おしゃれな暮らしぶりに劣等感
中嶋先生「SNSが日常になり、かつてないほど“顔”に注目が集まる時代になったせいで、ルッキズム(外見に基づく差別)やエイジズム(年齢に基づく差別)、さらにはセクシズム(性差別)というプレッシャーが強くなっていると感じます。実際、SNS上の自撮りに寄せられたネガティブなコメントがきっかけで、自己否定感にさいなまれてしまう人も少なくありません。SNS上での評価が自己評価に直結するような風潮が、この病を助長していると言えるでしょう。そういう意味では、誰もが身体醜形症にかかる可能性があるといっても言い過ぎではないかもしれません」
自撮りを投稿するしないにかかわらず、SNSのタイムラインに流れてくるお肌つやつやな美容投稿や、おしゃれな暮らしぶりを見ていると、「それに比べて私って…」と劣等感を抱いてしまうのも仕方がない気がします。
中嶋先生「人の幸せをうらやましく思う気持ちは誰もが持っていますが、SNSの膨大な情報のせいで、他人と自分を比較する機会が毎秒やってくるような状況は、疲れている人やこころのバランスを崩している人にとって、残念ながら助けになるとは言えません。むしろ症状を悪化させてしまうんです」
子育て中のママも発症するリスクが
若い子だけの病気でしょ?と思われる方もいるかもしれませんが、じつはそうではありません。
中嶋先生「10代から20代に多いと言われる身体醜形症ですが、実際にはどの年齢であっても発症するリスクのある病気です。とくに子育て中の女性は、夫との関係性が変わって自信をなくしたり、小さな子どもにイライラしてしまう自分に罪悪感を抱いたり、社会との接点がなくなったように感じて孤独感を抱いたりしがちです。そういうときに、ふと鏡を見て自分の顔の欠点を見つけ、そこから顔にとらわれ始めてしまうことがあるのです。
また、育児が一段落した40代から50代にかけて、症状が出る人も増えていると感じます。子どものため、家族のためと自分を犠牲にしてきた女性が、歳を重ねた自分とあらためて向き合ったとき、肌のシミやしわの存在に気づいてハッとし、そこから美容皮膚科や美容整形外科に通い詰めてしまうのです」
気になる「身体醜形症」の兆候
自分を美しく見せたい、カッコよくありたい。そう思う気持ち自体は人として自然な感覚で、否定する必要はないと中嶋先生は話します。鏡を1日に何度も見たからといって、こころの病気であるわけではありません。では、そうした自然な美への欲求と、顔の美醜にとらわれてしまう身体醜形症との違いはいったい何なのでしょうか。
たとえば次のような兆候は、身体醜形症であるかもしれないサインです。
□顔や身体の気になる部分を、鏡で毎日何時間も確認している。
□顔や身体の気になる部分を何度も自撮りしている。
□顔や身体の気になる部分について、いつもインターネットで検索している。
□ほかの人の視線が、自分が気にしている部分に集中していると感じる。
□自分が醜いせいで、家族や友人を不快な気分にさせていると思う。
□自分の人生がうまくいかないのは、外見が醜いからだと思う。
□美容整形で気になる部分を治せば、すべてがうまくいくと思う。
□人に見られたくないので、外出できない。
あてはまる項目がひとつでもあったら、あなたも身体醜形症の可能性があります。
美容整形で解決するの?
では、どうしたら顔へのとらわれを解消できるのでしょうか。身体醜形症の傾向がある人がまず思い浮かべるのは、やはり美容整形だといいます。
中嶋先生「自撮りした写真をスマートフォンの加工アプリで理想の顔に修正したりして美容整形のシミュレーションを繰り返すのも、身体醜形症の患者さんに多く見られる行為です。SNS上で“いいね”がたくさんついたりすれば、誰にも相談しないまま美容整形クリニックを訪ねてしまう人も少なくありません」
現在は精神科医として活躍する中嶋先生ですが、それ以前は形成外科医として数々の外科手術をおこなってきたという稀有な経歴をお持ちです。そのため美容整形という選択肢も、ケースによってはありだといいます。
中嶋先生「たしかに身体醜形症の患者さんには、いちど整形をすると整形依存に陥りやすい傾向がありますから、多くの精神科医が美容整形に否定的なのもわかります。けれども私は形成外科医として、美容整形も、ときには利用したらいいと思っています。もちろん誰にでもすぐお勧めするわけではないですが、美容整形によって救われる方もいるからです」
形成外科医の視点で見ると、実際に先天的な病気が隠れている場合もあるのだとか。
中嶋先生「たとえば、第一第二鰓弓(さいきゅう)症候群といって、下あごや耳、口などの片側の発育が悪いために、顔に変形やゆがみが生じる病気がありますが、程度によっては本人も周囲も気づきません。形成外科医が診て病名がつき、そして社会生活に支障が出る程度と判断されれば健康保険の適用となり、ゆがみも変形もきれいに治ります。その結果、“自分は醜い”と思い悩んでいたこころの問題も解決してしまうこともあるんです」
自分をいたわって「こころの免疫力」を高めておこう
だからといって、美容整形を安易に勧めているわけではありません。美容整形を受ける前に重要なのが、まず「こころの免疫力」を高めておくことだと中嶋先生。
中嶋先生「最近はさまざまな広告が出ていますから、美容整形は簡単にできるもののように思いがちですが、その認識は残念ながらまちがっています。美容整形は基本的に外科手術なので、それなりのリスクがありますし、術後の回復にも想像以上に時間がかかります。そして何よりも知っていただきたいのは、“美容整形は理想を100%叶える手段にはならない”ということです。
美容整形には限界がありますから、どんな結果になっても“この完成度に満足だ”と思えるこころの強さが必要です。ところが、こころの免疫力が弱っていて、現実と折り合う力が備わっていないと、何度美容整形を繰り返したところで顔へのとらわれから逃れることはできません。結果的に、整形依存と呼ばれる状態へと悪化してしまうのです」
身体の免疫力が弱まれば病気になりやすい、という事実は誰もが知っています。では、こころの免疫力についてはどうでしょうか。
中嶋先生「こころも身体と同じで、見えない負担が積み重なって免疫力が弱まれば、思考はすぐにネガティブになり、やがてはこころの病を発症します。とくに子育て中のお母さんたちは、思っている以上に体力的にもメンタル的にも疲れていますから、できるだけ自分をいたわってほしいと思います」
美容整形だけでは「見た目」の悩みは解決できない、と説く中嶋先生。著書の中では身体醜形症の根本的な解決につながる「こころの免疫力」の高め方を、具体的にわかりやすく公開しています。「もしかして私も…」という思いがよぎるなら、美容整形の扉を叩く前に、ぜひ読んでみてください。
自分の見た目が気になって仕方がない。自分の顔のせいで人生が辛すぎる。そう思っているあなたは身体醜軽症というこころの病かもしれません。美容整形の扉を叩く前に、ぜひ本書をご一読ください。あなたの悩みにきっと役立つはずです。